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mission63 選択肢


『桐生すみれは、桐生のおじいさんが話していたとおり家庭内に問題があるキャラぷん』

『桐生すみれが助けを求めれば解決する問題ぷんが、桐生すみれは過去のトラウマから誰かを頼ろうとはしないぷん』

『ホームでのアレは事故ぷんが……それを見た主人公の心に深い傷を残して、主人公は毎年お墓参りをしながら悔やむことになるぷん』


 五月七日。日曜日。調べてきたらしいカッスの一連の話は、


『以上が、桐生すみれのバッドエンドぷん』


 その一言で締めくくられた。桐生すみれは死に、太郎にも傷を残すバッドエンド。誰とも高校時代付き合えなくて悲しかった……なんてもんじゃない。誰も幸せにならない、正真正銘のバッドエンドだ。


 どこだ、どこで間違えた?


 約束は忘れていたかもしれないが、お化けイベントも起こして、これからっていう時だったのに。



『ま、まあでも、このエンドにたどり着いた人間は今までいなかったぷん! 誇って良いぷん! これで帰れるぷん!』

「え…………」



 ああ、そうか。

 帰れるのか。


『ちなみに、現実世界に帰る方法は?」

『エンディングを迎えられたら帰れるぷん。バッドでもなんでもいいぷん』


 確か、太郎に出会う前。この世界の説明を受けた際にカッスが話していた。てっきりあの時はホモエンドのことをバッドエンドと言っているものだとばかり思っていたが、こんなバッドエンドもあるのか。


『幼少期はクリアできたし、あとはエンディングを待つだけぷん。元気出すぷん!』


 カッスの言葉を聞いて、ふらふらとベッドに倒れ込む。ああ、そうだった。今日は夜中に吐いたから疲れていたんだった。



 うん、いいんだよな。これで。これで、このゲームは終わりで。



 ゲームでバッドエンド迎えるなんてよくある話だし、人が死ぬシナリオも珍しくはないし、突き詰めてしまえばゲームデータで生きてるわけじゃないんだし。一枚絵のためにバッドエンド見ることもあるし、誰もちゃんとクリアできていないこんなクソゲーでここまでやったのがすごいことじゃないか。


 もうすぐゲームが終わるなら、ちゃんと仕事のことを考えないとな。えっと……久しぶりすぎて忘れかけてるけど、田村さんと悠木さんに電話して打ち合わせ日調整して、研修締切は確か十日だから、参加者どのくらい集まってるか確認しないと。それから……。



 考えているうちに夕方になった。ドアがノックされる音が聞こえたので、重い体を起こして開ける。


「ほーちゃん、お出かけしない?」


 これから心に傷を負うであろう太郎の姿がそこにあった。



「ほーちゃんと行きたいところ、あるんだ」



 相変わらず前髪で目は覆われているが、太郎は屈託なくニコリと笑う。


 外に出れば案外と羽虫がいた。春になると出てきて、時たま電柱のあたりで大量にもやを作っているアレだ。そんな嫌なリアルは再現しないでほしい。


「ほーちゃん気になる? これ蚊柱っていうんだ。ユスリカっていう名前だけどハエの仲間で、あそこに何百匹もいるんだよ」

「相変わらず詳しいな……」


 今まで生きてきて認識はしていたが、特に調べるまでは至らなかった虫の生態。太郎のおかげで無駄に詳しくなってしまった。


「しかもアレ全部オス」

「メスは何してんだよ」


 何百匹も集まっているオスの方も何してんだよではあるが。


「メスは蚊柱を見かけたらあそこに入って、お気に入りの相手を見つけたら出ていくんだって」

「もうちょっと良い雰囲気のお見合いパーティーをしてもらいたいもんだが……」


 謎の蚊だかハエだかの話をしながら、夕焼けの中歩みを進める。


「でもユスリカは成虫になると食事を取らないから、数日で死んじゃうんだって。儚いよね」

「死ぬ……のか」

「うん。その前に500個くらい卵産んでまた増えるけど」

「増えんな」


 あのへんの虫の増えるスピード尋常じゃないんだよ。加減してもらいたい。



「あははっ。やっとほーちゃん笑った」



 どうやらツッコんで自然と笑っていたらしい。ユスリカの話も太郎なりの気遣いだったのか……。



「ここだよ。ほーちゃんと来たかったところ」



 話している間についたそこは、道端だった。この先の神社まで行くのかと思ったが……なんでこんな道端に。


「覚えてる? ここで花火見たよね」


 そういえば、そんなこともあった。

 幼少期最終日。鼻緒が切れて歩けなくなった太郎をおんぶして、ここで下ろして花火を見たんだっけ。


「ほーちゃんは昔から僕のヒーローでさ、楽しいこといっぱい知ってるし、いつも手を引いてくれて……高校になってもそれはずーっと変わらなくて。小さい頃と同じで、今は毎日楽しいんだ」


 いつかの花火を見つめるように、太郎は目を細める。


「ほーちゃんは、慌てたり焦ってたり走ってたり怒ってたり色々するけど……僕や、誰かのためにいつも頑張ってるんだよね」


 太郎がそんなふうに思っているんだなんて、知らなかった。



「僕には何もできないかもしれないけど……でも、いつだってほーちゃんの味方だよ。僕はほーちゃんに頼ってばかりだけど、僕にも何かできることがあったら、いつでも言ってね。オニヤンマに乗って飛んでいくよ!」

「オニヤンマかよ……」



 虫はいらねぇよ。と、言いたいけれど口がうまく動かせない。どうやら、昨日から吐いて寝込んで、朝も昼もノックをして返事がなかった俺を心配したらしい太郎は、太郎なりに考えてここに連れてきてくれたらしい。



「俺は……オニヤンマには乗れないから、一緒に乗れるもんがいいな」

「じゃあ僕、十八歳になったら免許取るよ! 一緒にドライブしよう!」



 帰り道。存在しない将来の話を楽しく話して帰った。夕飯を食べ部屋に戻って、再びベッドに寝そべる。



『おかえりぷん』

「ずっと一緒にいただろ」



 サポートキャラだから、さっきもずっとついてきていたはずだ。


「カッス」

『ぷん』

「俺はさ、仕事のことを考えなくていい世界で、楽しく過ごしたいって考えてたら、この世界に引き摺り込まれたんだよ」

『言い方に悪意があるぷん』

「そしたら、どうよ」


 カッスの文句は黙殺して続ける。


「ゲームはアホみたいなクソゲーだしバグはあるわミスはあるわ開発者の正気を疑うようなことばっかりだし」

「太郎はすぐになんでも信じるし漏らすし」

「みけはミスでいきなり攻略不能キャラになってるし」

「桐生はこっちもトラウマもんになりそうなもの抱えてるし」

「箱森は面倒くさいし」

「宮藤は元情報と違って二周目の人格で荒んでるし」

「鹿森はアホだし」

「笹川はわけわかんねーし」


 俺の怒涛の悪口に、カッスは吹き出した。


『言いたい放題ぷんね』

「カッスはカスだし」

『むきーっ! さっき名前が出てなかったから安心してたのに酷い仕打ちぷん! あんまりぷん!』



 つまりは、さ。



「楽しく過ごすっていう目的は、果たされてないんだよな」



 体の良い、言い訳だ。



『お前……』

「せっかく女神様が力を使ってくれた二度とないかもしれない機会で、こんなクソゲーのバッドエンドだけ見て帰るなんて、ダセェよな」



 だから。




「仕事でなかなかできてないけど、腐ってもゲーマーだからな」

『……ぷんっ!』




   バッドエンドを受け入れる

▷  ハッピーエンドを目指す




 これが俺の、選択だ。

お読みいただきありがとうございました!

前回のタイトルを「突然のバッドエンド」にするか迷ったのですが、予測できないようにシンプルなタイトルにしました。


ギャルゲー以外で選択肢といえばからくりサーカスが好きです。

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