mission59 お化けの原因を追求せよ!
「すーちゃんっ!」
重い空気を切り裂くかのように桐生のばあさんが入ってきた。血がつくのも構わず桐生を抱きしめる。
「お、ばあさま」
「痛かったね、痛かったね……すぐ、手当てするから」
そんな二人の様子をドアの隙間から桐生のじいさんが見下ろし、言った。
「かまいたち」
視線はこちらに向けて。
「かまいたちが出たんだろ……なァ、坊主」
俺たちの嘘に、合わせてくれている。
「ばあさん、すみぴーを頼んだ。坊主ども、お前たちはこっちに来い」
桐生はおばけのことは祖父母には言っていないと言っていたが……この様子だと、元々知っていたようだ。手当てに行った桐生とは別の部屋に案内され、座るよう促される。
「ご存知、だったんですね」
探るように聞いた俺に、桐生のじいさんは鋭い視線を向けた。
「あたぼうよ。そりゃァ……同じ家に住んでっからなァ」
桐生のじいさんの話をまとめると、こちらに引っ越してきてから、アレは始まったらしい。夜中ふらふらと起きてきては自傷行為を繰り返し、本人には記憶がない。
傷から血が流れていなかったのも、単純に桐生のばあさんが治療をして、ベッドまで桐生のじいさんが運んでいただけ。
桐生にはそれとなく誤魔化して医者にも見せたが、解決には至らなかった。
「ストレスなんだってよ。それの発散で、無意識にやってるから、下手に止めることもできねェ」
一度カミソリを隠したら、ベランダから飛び降りる寸前までいったそうだ。無理に止めようとするとよりひどくなるようで、ただ毎夜繰り返されるアレを見ていることしかできない。
「根っこのストレスの原因をどうにかしなきゃァ、どうにもならんってよ」
ストレス。この春からこちらに、父親から離れ、母親が亡くなった地であるこちらに戻ってきた理由。
「ストレスの原因って何なんですか?」
素直な太郎の問いに、桐生のじいさんは一度大きく息を吐いてから答えた。
「一言で言うなら……虐待だよ。継母イジメってヤツさ」
桐生すみれの父親は一大企業の社長で、そこには多くのしがらみもあって、再婚を迫られたんだろう。桐生の母親が亡くなった後、わりとすぐに再婚して、腹違いの弟……跡取り息子が生まれた。
「あの子はなんにも言わねェのよ。自分が悪い、継母たちには何もされてねェって言い続けるもんだから……俺たちも、あの子の父親もなんもできねェ。引き離すことくらいしか、できなかった」
継母たち、ということは弟からも何かされていたのだろう。イジメの内容までは詳しく語られなかったが、話からするに桐生の父親がいない時に、一晩中立たされ続けていたことや食事を抜かれていたこともあったようだ。それが続いて、続いて、耐えて、耐えて、精神のバランスを崩した。
『あのときの、あの言葉。まだ、有効ですか?』
そんな彼女は、太郎と俺に助けを求めてきた。小さい頃の、君を守るとかなんとかいう、たった一日会話しただけの約束とすら呼べない言葉に縋って。
たすけて
と、言っていたのかもしれない。俺は、お化け退治という文言に気を取られて、全然気づいてやれなかったけれど。
「俺から話せるのはここまでだ。とりあえず今日は寝てくれ。客間の位置は分かるな?」
頷いて歩き出した太郎に続こうとすると。
「お前は居残りだ」
鋭い視線をした桐生のじいさんに肩を掴んで止められた。意図はわからないが、先ほどと同じように座り直す。
「お前は……コッチの世界の人間じゃないんだろ? プレイヤーとかなんとかっていう」
いきなり核心に触れられた。こういうところに気づくキャラが出てくるかもしれないとは思っていたが、まさか桐生のじいさんがそれとは。
「俺は昔っからなんとなく人の目には見えねェもんが見えたりしてきたから分かるんだよ。話せたのは……初めてだがなァ」
それは、今までのプレイヤーは太郎に転移していて、今回初めて俺が古井戸ほまれに転移したからか。
「だからお前のそばをハエみたいに飛んでいる限りなくブサイクな色合いの妖怪も見えてるってわけよ」
カッスのことか。割合ひどい言われようだ。
『ひどい言われようぷん。我も散々ひどい目にはあわされていると思うぷんが、さすがにお前を妖怪とまで思ったことはないぷん』
『落ち着けカッス。ブサイクな妖怪呼ばわりされているのはお前だ』
『ぷん!?』
逆になんで俺のことだと思ったんだよ。はっ倒すぞ。
「何人か……お前みてェな人間は見てきたが、みんなどっかいっちまった」
ホモエンドを迎えてか、触手に捕まったか、はたまたバッドエンドを迎えたかは分からない。
「すみぴーのことは、解決しないままでよォ」
彼らは、桐生すみれイベントの解決には至らなかった。俺もそんな動画は見ていない。誰も、今まで解決しないまま、このイベントは繰り返されてきたのか。
「安心してください。今回は、必ず解決します」
現在攻略しているのは桐生すみれルート。彼女の問題解決が、必ずハッピーエンドに繋がってくる。
「桐生は、太郎が助けますから」
「お前じゃねェのかよ」
その理由をちょいちょいかいつまんで説明し、なるほどなァが出たところで解散した。俺の正体的なものがあっさりもバレてはしまったが、モブ中のモブだろうし、影響はないだろう。多分。
客間に戻り、すでに寝ていた太郎の布団をかけ直して自分も床につく。
夢の中で、桐生すみれは泣いていた。
待ってろよ、必ず、太郎に助けさせるから。




