mission56 お化けの正体を調査せよ!
桐生すみれ。
このゲームのメインヒロイン。学園のマドンナ。
薄い紫色の髪にヘアバンドをしていて、思わず振り向きたくなるような涼やかな声を持った、美しいけれど儚げな雰囲気を持つ少女。
攻略本によれば、パラメータは学力・体力・魅力重視で攻略は割としやすい方。鹿峰のあんぽんたんが攻略できなかったことから、太郎の本命相手に勝手に繰り上げられた、そんなキャラクターだ。本日ラストのイベントは、そのお泊まりイベントである。
「来て……くださったんですね」
会った瞬間、溜めて言われた。
「もしかしたら、今日はお会いできないんじゃないかと思っていましたから……」
遅れてはないはずだが、そう言われるとなんとなく申し訳なさを感じる。もしかしなくても割合重大イベントなのかこれ。
「大丈夫だよ。ほら、あれだ。ちゃんと来たし。今日はお化け退治だろ? ドラゴンがなんとかしてくれるさ」
「うん、お化けのことなら僕に任せてよ!」
太郎のその自信はどこから来るんだ。今のところ任せられそうな気はしないが。
「ありがとうございます……! あ、とりあえず中にお入りください。レモン水をお入れしますね」
オシャレなウェルカムドリンクだな。さすが桐生すみれ嬢だ。見かけだけじゃなく、確か父親が東京で会社経営してるだかで、生粋のお嬢様だったはずだ。ここは母親の実家という設定らしいが、この町でもこの規模の家はなかなかないだろう。
「今日はご家族は……?」
ゲームで良くあるお泊まりイベントだが、さすがにまさか桐生一人というわけでもないだろう。付き合ってもいないし。
「ええ、祖父と祖母があちらにいますよ。声をかけてきますね」
「いい、いい。こちらからご挨拶に行くよ。なっ、ドラゴン」
「もちろんだよ。礼儀、しのぎ、そそのきってねっ!」
しのぎそそのきは分からんがご挨拶は肝心だ。念の為菓子折りも買ってきたので礼儀的に問題はないだろう。
「ありがとうございます……お祖父様、お祖母様。お友達の赤来戸くんと古井戸くんです」
桐生が優しく扉を開けると、
「あン?」
二メートル超えの、登場作品を明らかに間違えていそうなイカついジジイが現れた。
あンとか言ってたぞ、大丈夫か?
「貴様らがすみぴーのコレか? ン?」
小指を立てられる。すみぴーも聞き捨てならないがひとまず置いておくとして、それは主に彼女を表すハンドサインじゃないか? それ自体やってる人今見ないけど。
「いえ、コレです!」
太郎が手でがおーっとやってみせる。それはなんのハンドサインだよ。
「……なるほどなァ」
顎を撫でて納得された。なんだこの耄碌ジジイは。
「祖父です」
「こんばんは、今日はお邪魔します」
「がおーっ!」
今までで一番ドラゴンらしい太郎は置いておいて、これが桐生のじいさんか。もっと優しそうな好好爺をイメージしていたが……格闘漫画で主人公に因縁をつけてボコられそうなヤツが出てきたな。
「気にいらねェな」
何がだよ。こっちもだよ。
「その全てを見透かしたような瞳……お前、コッチの人間じゃねェだろ」
じとりと睨まれる。ただの因縁のような気はするが、もしかしたら俺が別の世界から来ていることを言っているんだろうか。だとしたら、なかなかの慧眼だ。
「ほーちゃんはコレです」
「ほほゥ」
まあ、太郎と手遊びしているから問題ないだろう。何がほほゥなんだ。
「お祖父様、意地悪しないでください。私の大切なお友達ですよ」
「なァに。ちょっとした戯れよ……一人をのぞいて、なァ」
太郎とは仲が良さそうだが、俺に向ける視線が割と冷たいな。
「あらあら、あなた。怖がらせてはダメよ」
こちらは割とイメージどおりの優しそうなおばあさんが出てきた。なるほど。
「すみれさんのお母さんですか?」
「あらやだ! こんなおばばにお世辞なんか使っちゃって! もう、ふふ」
掴みは上々だった。年齢ネタに反応してくれる人で良かった。ジジイの視線は冷たいが。
「良い子達じゃない。さ、ここにいてもらっても気を遣うだけでしょう? すみれの部屋でゆっくりしてきなさいな」
「ありがとうございます」
「ありがとうございがおーっ」
太郎はそれ気に入ったのか?
「気に入らねェな……」
訝しむジジイは置いておいて……今日は置いておくものが多いな。とりあえず桐生の部屋に上がる。ようやく本命の話だ。
「で、どんなお化けが出て困ってるんだ?」
ここはゲームの世界だ。触手もいるくらいだから本物のお化けがいる可能性ももちろんある。幽霊系か妖怪系か、攻撃型か実は味方型か。お化けを退治したら実はそれは桐生に関連していて桐生も怪我を……なんてパターンもあるだろう。情報を集めて対処するに越したことはない。
「えっと……」
家に呼んだ割には桐生の口がやけに重い。腕をさすりながら視線を逸らしている。
「桐生さん。イエティとかビッグフット系か……宇宙人系かロボット系かだけでもわかるかな?」
気を利かせた太郎が改めて質問してくれたが、答えやすくなったか? これ。
「その、私も……姿を見たことはないんです」
お化けはいるが、姿は見たことはない。姿を見ていないのに、お化けがいるという根拠はあるということか。
「ただ、その…………これ、が」
かなりの勇気を出してくれたんだろう。桐生は先ほどまでさすっていた腕をまくり、素肌を見せてくれた。
白い陶磁器のような、触れると壊れてしまうんじゃないかと思わせるその細腕には。
「お化けの仕業、だと……思うんです」
痛々しさに目を背けたくなるほどの、無数の切り傷がついていた。




