mission54 土曜日の第三イベントを恙無く遂行せよ!
「あ、太郎とほーちゃん。このあと……」
「みけ悪いっ! あとで聞く!」
たまたまそこのへんにいたみけをすり抜け、太郎と一緒に箱森との待ち合わせ場所へ。この時代は現実世界以上に時間にシビアで、待ち合わせ場所に時間ぴったり(もしくは早めに)行っておかないと、約束をすっぽかした扱いになることがある。
その場合はどんな酷い目に合うか……考えただけで恐ろしい。ゲームによっては無言電話とかバンバンかかってくるもんな。すごい時代ですごいシステムだよ、本当。
「ま、間に合った……か」
息を切らして待ち合わせ場所に着くと、そこに三つ編み赤毛の挙動不審な少女がいた。
「お、遅くない? こういうのって普通男子が先に来て全然待ってないよとか言ってくれるものなんじゃないの!?」
挙動不審なくせに思想がしっかりしている。この少女漫画脳め。
「僕は全然待ってないよ」
「そりゃアンタが今来たからよ!」
太郎との相性も無駄に悪いな。元々こうなのか、パラメータのせいかは判別がつきづらいところではあるが。
「全く……二人してこんなんじゃ先が思いやられるわね」
「じゃあ帰るか」
「待って待って帰らないで! それでも人の子!? 慈悲とかないの?」
持っていても箱森と話してるとなんかなくなるんだよ。
「で、キラキラ生活を見せつけたいう宇柚月いろりはどこだ?」
一刻も早く終わらせて桐生のお泊まりイベントに注力したいところだが。
「え? あー、まだまだ。あはは。だっていろりちゃんとの待ち合わせは一時間後だし」
あははじゃねぇよ。人が忙しいっつってんのに何考えてんだコイツは。
「ちゃんと考えがあるに決まってるでしょ。ほら、これよこれ! じゃーん! キャラ設定ノート」
「帰っていいか?」
「見てから言いなさいよ! 見ても帰っちゃダメだけど!」
悪い予感しかしないものが出された。そもそも開発陣は何を持って箱森のキャラ設定こんなにしたんだ。絶対人気でないぞこれ。
「えっと……赤来戸くんは、俺様系ツンデレキャラで」
「小さい頃にそれやろうとして人のこと邪神呼ばわりしてたぞコイツ」
「えへへー」
えへへじゃないが。
『ああ、mission17 素顔のアイドルと会話せよ! で確かに言ってたぷんね』
『わざとらしい解説ありがとうな、カッス』
それはそれとして。
「古井戸くんは、甘々わんこ系キャラね。これを一時間で習得してもらいますっ!」
「帰る」
「ままま待って待ってってば!」
誰が甘々わんこだ。箱森の目は節穴か。どう考えても設定ミスだろ。
『ぷぷーっ! 甘々わんこだってぷん! とんでもなく似合わないぷん! 対極ぷん』
『そりゃそうだがカッスに笑われることほどムカつくことはないな』
笑い転げるカッスに舌打ちしたくなる。
「だっていろりちゃんにそう言っちゃったし……」
「自分の彼氏を俺様ツンデレ系とか甘々わんこ系とか友達に言わんだろ!」
いや、待て。女子の間ではそういうのが普通だったりするのか……? 言わなさそうな気はするけど。言わない……かな、自信なくなってきた。
「うぅ……昔の友達にちょっと良いところ見せようとしただけなのに……」
「言うほどちょっとか?」
甘々わんこが良いところなのかはさておき、太郎は案外しっかりとキャラ設定ノートを読み込んでいた。このギャルゲーの主人公である太郎はどう思うんだろうか。
「うん! 大体わかったよ。このとおりに演じればいいんだね!」
やる気だった。正気か。
「ほーちゃんも、ほら」
「なんでドラゴンはそんなに受け入れが早いんだよ……ん?」
"甘々わんこ系彼氏⭐︎ ほーちゃん"
"愛情表現がキョーレツでちょっと困っちゃうこともあるけどそれも可愛いほーちゃん⭐︎
ぴよりんのことはご主人様って呼ぶよ!"
「帰る」
「ちょ、ほーちゃん! ステイステイ!」
「誰が犬だ!」
大体お前今までほーちゃんとか呼んだことないだろ。貴重かは分からん初出をここで使うな。あとコイツは自分のことぴよりんって呼んでるのか……。
「おいぴよりん」
「きゅ、急に距離縮めないでくれるっ!? ちょっとドキッとしちゃうじゃない!」
呼び方変えたくらいで距離縮めてねぇよ。あと、呼び方変えてドキドキするならもっとふさわしい場面があるはずだ。今じゃない。
「このキョーレツな愛情表現ってのはどういうことだ?」
「そ、そんなの私に説明させないでよっ! 恥ずかしい!」
説明できない設定を書くな。俺はその説明できない恥ずかしいことをやらなきゃいけないんだよ。やりたくないけど。帰りたい。
「お願いっ! 一生のお願いだからっ! 今日だけ甘々わんこになってくれればいいから!」
「ハードル高すぎんだろ」
「だからこそ一生のお願いなのよ!」
筋が通っているのかいないのか。分からなくなってきたので、箱森と太郎とやんややんや言いながら設定作りをした。
そして一時間後。
「あ、ぴよちゃん! お久しぶりでしゅ!」
「いろりちゃん久しぶりー! 変わってないねー」
キャッキャしている女子二人の中に、
「ぴょ、いい加減ぼく……俺たちのことも紹介してくれよ」
ほら、ほーちゃんも!
多少言い間違えかけたが、なんとか俺様系ツンデレになりきっている太郎が小声で俺を促す。……本当にやらなきゃいけないのか、これ。…………ああ、もう!
「く、くぅーん。そうですわんわん! ご主人様、早く僕たちを紹介してくださいわんっ!」
羞恥心と自尊心は、死んだ。




