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mission53 土曜日の第二イベントを恙無く遂行せよ!


 宮藤まなみ。


 子役時代に良い役をもらって一世を風靡するも、たまたまテレビに出た姉に人気を掻っ攫われ今は燻っているアイドル。一周目だと子役時代の人気そのままに人気が続き清純派アイドルとなるはずの彼女は、バグの影響でそんな経緯を経た二周目の人格で登場している。


「……何よ、その爽やかな朝に似つかない顔は」


 そんな宮藤の言葉は相変わらず冷たいが、しっかりと十分前には待ち合わせ場所に到着していた。今が十分前だから実際はもっと早くから来てくれていたのかもしれない。殊勝だ。


「実は……朝、ほーちゃんと」

「色々あってな。ここからは気合い入れていくから安心してくれ」


 太郎が余計なことを言わないうちに話題を変えておく。笹川さららとの一件は気になるが今考えても仕方なさそうだし、本命の桐生との今後を考えればこちらが最優先事項だ。


「まあなんでもいいけど。せっかく貰ったオファーなんだからしっかりやらないと」


 いつの間に宮藤へのオファーになったのかは知らないが、老人ホームまで宮藤先生のありがたいお話を聞きながら移動する。ボランティアで行く施設の沿革から理事長の変遷まで調べるヤツ初めて見た。


「すごいね宮藤さん! いっぱい調べたんだ」


 褒めているようで内容の理解までできているか怪しい太郎の発言だが、まあ間違った対応ではないだろう。


「でも施設の歴史や数字を見ても利用者の方の情報までは見えてこないから……ここが今日の肝ね」


 宮藤の意識が高すぎて好感度が上がったかどうかは見えないが、とりあえずイベントが無事に成功してほしいのは俺も同じ気持ちだ。できる限り情報を集めるか。


 人の良さそうな施設長に案内され、利用者の方が団欒している部屋へ。建築年数が結構経っていそうな割に綺麗な施設だ。利用者の笑い声も響いていて、施設自体に問題がある感じは受けない。


 ここで施設にで問題があったら、逃げ出したくなっていたところだ。これ以上は勘弁してほしい。


「今日は近くの高校の生徒さんが来てくれました。みなさん仲良くしてあげてくださいね」


 施設長からの声かけと簡単な自己紹介後、話の輪の中に入れてもらう。


「イベントの実地調査? 変わったことするのぅ」

「あらアンタ。なかなか良い男じゃない。おばちゃんのお婿さんになる?」


 世間話的な話から太郎さえ頷けばエンディングを迎えられそうな会話まで、恙無く毒にも薬にもならない話題をしたところだが。


 このままじゃ足りないな。


 何のイベントをしたら良いかが分からずヒントを求めて来たというのに、政治や病院の文句だけ聞かされても困ったところだ。宮藤が一生懸命メモしているが、見たらその病院が傷つくくらいでページの無駄だろう。


「みなさんはどんなことがしてみたいとかありますか? せっかくなので一緒に楽しめるものが良いと思いまして」


 水を向けてはみたが首を傾げられる。歌はこの前もどこだかの小学校の子が歌いに来たとか、劇をされたけど内容が難しかったとか……参考になるようでならない。

 となれば。


「みなさんのことを教えてもらってもいいですか?」


 好み、趣味嗜好。そのあたりを押さえて一番多い好みに痩せるのが一番だと思ったが……。


「わたしゃ若い頃はあんたそっくりでねぇ」

「わしも大分モテたもんじゃ」

「わしは、トゥルトゥルラブラブストーリーの五月ちゃんが好きでのぅ……」


 案外と自分の若い頃は的な話になってきてしまった。頷けいて聞きはするがこれが何の役に立つのか……。あと、最後のやつの元ネタは多分アレか。良い趣味してんなじいさん。


 と、そんな感じで訪問時間が終わってしまい、近くの喫茶店に入って三人で頭を抱える。さて、どうしたものか。


「僕思ったんだけど……」


 太郎が主人公らしく提案してくれそうだ!


「施設長さんって、ほら。目に見えてわかるくらいカツラじゃない?」


 どうでもいい話だった。思わず席を立ちかけるくらい期待した俺の気持ちを返せ。


「施設のみんなも気にしてるみたいだったし、新しいカツラをプレゼントしてあげるのはどうかな?」

「デリケートなところに踏み込むな。却下」


 気にするだけでみんな何も言わない優しい世界が出来上がってるから、そこはもう壊さなくていいだろ。イベントで近所の中学生にいきなりカツラをプレゼントされる施設長さんの身にもなれ。


「それで言うと、中濱さんは若い頃相当モテたらしいんだけど」

「何がそれで言うとなのかは分からんが、老人のモテた自慢は話半分に聞いた方がいいぞ宮藤」

「違うってば! その話してる時、すごく楽しそうだったのよね」


 確かに目を輝かせて自分でも頷きながら話していたな。まあ、歳をとると昔の話が楽しくなるのは誰にでもある傾向だが。


「なんか、そういうの歌にできないかなって」

「歌に?」


 宮藤の歌は以前、謎のウィンナーの歌を聴いたくらいだが、まあ悪い歌ではない。


「僕、宮藤さんのうぃんうぃんウィンナーの歌好きだよ! ウィンナーが逞しくて!」


 ウィンナーが逞しいかはさておき、耳に残る歌だったな。


「ありがと……私、結局歌うくらいしかできないからさ」


 それはさすがに自分を卑下しすぎではあるが。


「歌で、楽しんでもらうためにはどうしたらいいかなって」


 好きな歌手の歌を生で聴けるなら一番だろうが、今回はそうじゃない。無名の歌手が歌うなら、みんな知っている歌を歌うか……。


「ご当地ソング的なものか」

「ご当地……かは分からないけど、利用者さんソングみたいな。そんな感じかな」


 あるお笑い芸人は元々持ちネタがあるが、その土地のネタを盛り込んで話をすることでさらに人気が出て、地方から引っ張りだこと聞いたことがある。もし、宮藤がそんな歌を歌えたら。


「歌詞の中に利用者の人達の話を入れて……覚えやすい曲調を繰り返して、合いの手も入れやすいように……」

「カツラの話も入れる?」

「残酷なことを言うな」


 そうして歌詞に使えそうなものを盛り込み、太郎の提案は時々却下していく中で、何とか歌詞が書き上がり、あとは曲をつけるだけ。うん、良い感じに進んできた。


「行ってみて良かったわ。良いイベントになるといいんだけど……」

「僕もほーちゃんも桐生さんも笹川さんも協力するから大丈夫だよ! 何かあったらいつでも言って」

「ん……ありがと。あ、そうそう。この後って」


 時間を見て気付いた。箱森のよく分からんイベントがもうすぐだ。


「悪い宮藤! このあとは退っ引きならない予定があるんだ、行くぞドラゴン!」

「うん! ばいばい宮藤さん」

「え!? あ、ちょっと……」



 そうして、宮藤から逃げるように別れて頭の中に思い浮かぶことがひとつあった。




 いや、途中から薄々感じていたことだが……。




 これ桐生イベントじゃなくて宮藤イベントになってね?





 ひとつひとつのイベントが終わるたびに不安が増える中、土曜日のイベントは後半戦を迎える。

 


 


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