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mission50 不名誉な噂話を阻止せよ!

 幼少期。確かに外見は可愛らしいものの自分で自分のことを可愛い可愛いと褒めまくっていたところ、太郎から「そこまで可愛くない」(あくまで、みけ達との比較ではあるが)と言われ、恥ずかしさのあまりこじらせてしまった本屋の娘。


 箱森ひより。


 死にそうな顔をした彼女からの懇願を、


「悪い、土曜日は終日留守にしているんだ」


 一秒で断ることに成功した。



 が。



「やだやだやだ! そんなこと言わないで! 人助けだと思ってなんとかしてよぉ……一生のお願いだからぁ!」


 駄々をこねられてメチャクチャに食い下がられた。俺もこの前桐生に同じことをやったばかりなので偉そうなことは言えないが。


「いやマジで無理なんだって! 本当予定のオンパレードなの! 来週にしてくれ頼むから」

「無理無理無理、こっちのが無理! 本っ当、無理なの! お願いだから助けて!」


 なんでコイツはお願いごとがある割に逃がさないようにプロレス技決めようとしてくるんだよ。とりあえず話を聞かないと埒があかないので、箱森には座ってもらい、順を追って説明してもらうことにした。


「小学校の頃に転校した宇柚月いろりちゃん覚えてる?」


 初手から新キャラを出すな。


「……記憶にないな」

「古井戸ってそういうところが本当ダメよね……ああっ! 帰らないで! 古井戸さま格好良い!」

「おちょくってんのか」


 落ち着いたところで。


「その子は小学校の時仲が良くて……私が今でも可愛くて自信に溢れてると思って慕ってくれているんだけど……今度こっちに遊びに来てくれることになって」


 こんな拗らせた自分は見せられないとかそんなところか。


「100人いる彼氏のうち誰か見たいって話になって……待って! 最後まで聞いて!」

「大丈夫、嫌な予感しかしないからもう大丈夫だ」

「私が大丈夫じゃないのよ!」


 とどのつまり誇張しまくった虚構の学園生活のキラキラを宇柚月いろりに見せつけたいと。


「彼氏のうち二人なら都合つくから連れて行くって言っちゃったの!」

「そこに辿り着く前に何回も挽回できるチャンスあったろこのおバカ!」


 そして、俺と太郎は彼氏役という名の生贄に勝手に選ばれていたらしい。


「俺も太郎も忙しいんだ。残りの98人の誰かに行ってもらえ」


 そもそも彼氏じゃないが。


「やだやだやだ! 他に頼れる人なんて誰もいないんだもん! 前になんでもしてくれるって言ったじゃん!」

「言ってねぇよ! いや……? うん、言ってない……わ。うん、そこまでは言ってないと思うぞ」


 桐生の件で記憶の怪しさは露呈したが、確か言っていないはずだ。根負けしたのか箱森は下を向いて黙っている。よし、今のうちに帰ろう。



「…………ってやる」



 ん?



「赤来戸くんと古井戸くんに約束破られてメチャクチャにされたってみんなに言ってやるんだからぁ!」

「待て待て待て待て待て待て!」

「自信も尊厳も全部奪われたって言ってやるぅ……」

「誤解しかないような言い方するな! 分かった! 分かったから!」



 女子の噂は怖い。



 今のSNSに慣れた若者達なら「いやいや、何を言ってるんすか。噂話は男女関係なく怖いっすよ」とでも言ってくれそうなものだが、それとも種類が違う。



 ギャルゲーマーにとって、女子の噂話は死ぬほど恐ろしいものなのだ。



 とある御三家とも呼ばれる有名ゲームで実装された女子の噂。一定期間デートをしないだけでなぜか悪い噂が広まり、取り扱いを間違えると出会った女の子全ての評価がかなり下がるというこれまでの努力を無にする悪魔の所業。


 プレイヤーの誰もが苦しめられ「ゲーム作った奴の中にガチで女子の噂で苦しめられた経験者がいるんじゃ」と邪推され「いやいや色々な女の子と毎週デートしてたらそりゃ変な噂広まるわ」と妙に現実的な考えをする者も現れと、多くのプレイヤーの心に消えない傷を残したあのシステム。


 このゲームでそのシステムが実装されているかは分からないが。


 箱森ひよりの発言によって、もしそれが起こってしまったらーーーー!



「承知しました、箱森様。親切、丁寧、迅速をモットーに箱森様の彼氏役をこなしてみせましょう」

「迅速?」



 土曜日は何より時間がねぇんだよ。

 ともあれ、箱森はこの前も俺と太郎が桐生と一緒に帰っただけでみけにとんでもないホラ話をしていた前科があるので放置するわけにもいかない。


「対応可能な時間帯はここだけだ。くれぐれも延長なしで頼む」

「土曜日何があるの? ま、まさか他の子とデー」

「デートはお前だけだよ」


 あとはボランティアの下準備と笹川に謎に付き合わされるのと桐生の家で泊まるのだけだ。デートではない。


「ふ、ふーん……そっか」

「そうだ。とりあえずもう予定を入れたくないから帰るな。箱森も気をつけて帰れよ」


 そうして逃げるように教室へ向かい、帰り支度をしていた太郎を捕まえて足早に下駄箱へ向かう。


 と、太郎の下駄箱に何やら手紙が入っている。差出人はーー?


「私だよっ! 次の土よう」

「鹿峰っ! お前はいつも元気で良いやつだな! 飴をやる、帰れ!」

「美味しいっ! バイバイっ!」


 手紙は読まずに鹿峰の下駄箱へイン。これで明日には「間違えて入れちゃったかなー?」と忘れてくれるはずだろう。攻略対象外のキャラにまで構っている余裕はない。早く帰ろう。


「よし、これからまっすぐ家へ帰るぞドラゴン。途中何か聞こえても全て無視するんだ。いいな」

「何かのゲーム? わかったー」



 そうして途中も鹿峰らしき声が聞こえたり、中安ちゆりらしき人影が見えたりした気はしたが、すべて気のせいで片付けて何事もなく家に帰ることができた。やっぱり家が一番落ち着く……。心が洗われるようだ。



「ほーちゃん、今日はこれ見ながら一緒に寝」



 バタン。



 前言撤回。




 俺が落ち着ける場所など、この世界のどこにもないのだった。




 早く、本当の家へ帰りたい。

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