mission43 使う予定のない雑学を勉強せよ!
なぜここにいるのかは分からないが、春日野みけのは俺の服の端を持ったままこちらを見ている。別に疚しいことは何もしていないが……。
「いや、太郎と桐生とハンバーガー食べにきただけだけど」
「桐生さんと仲良いの?」
「別に仲良いわけじゃないが……」
なんで俺が問い詰められなきゃいけないんだろう。一応、今の太郎のパラメータがみけの好みに当てはまらないから、俺を好きなままなんだっけか。消去法で好きになられてもな。
「あー……。桐生が割と一人でいるような気がしてな。ちょっと気になって」
「でも、ぴよちゃんが一緒に帰るの土下座で頼んでたの見たって」
箱森の頭の中はどうなってんだよ。見たものすらねじ曲げるのか。碌なこと言わねぇなアイツ。
「話してる途中で席立ったから、トイレで今後の展開を妄想してるに違いないって」
「合コン中の女子かよ」
ってことは、箱森も……いた。太郎と桐生の席の側で、穴を開けた新聞紙を広げている怪しい女子高生が。顔が見えるくらい穴開けるならそのままの方が絶対怪しまれないだろうに。
「箱森の勘違いだよ。全部」
「……そうなの?」
まだ疑いの眼差しは向けられているが、これ以上説明はできないから仕方ないだろう。太郎と桐生をくっつけるために動いています、なんて言えるわけもない。
「ほーちゃん。気づいてると思うけど……っ。みけのは、ずっと、ほーちゃんが」
トイレの前という絶対に告白には適していない場所で行われようとしたそれを、派手に何かが落ちた音が遮ってくれた。みけには悪いが助かった。これ以上ややこしいことにはなってほしくない。
音のした方に視線を向けると、なんとなく予想はしていたが、揉め事は太郎と桐生のいる席で起こっているらしい。急いで向かわないと。
「何するんだよっ!」
見れば、テーブルの上のものはほとんど落とされていた。目の前の……柄の悪そうな、見るからに不良です、という奴らの仕業か。
「そうだそうだ! ひでぇじゃねぇか!」
「いきなりひっくり返すヤツがあるかよ!」
違った。味方の野次馬だった。ゲームの世界だからって見た目で人を判断しちゃいけないな。
「うるさいわねっ! 美味しくハンバーガー食べている時に隣で虫の話ばっかりされる気持ちがアンタらに分かるって言うの!?」
怒っていたのは俺達と同じ制服を着た女子高生だった。気持ちはわからんでもないが、だからってハンバーガー床にぶちまけるのもな。
「た、確かに……タガメがカエルやドジョウも食べるって話くらいならまだ良かったけど……なぁ」
「ああ、俺達は平気だからタガメの由来は田んぼにいるカメムシだっていう話を聞きながらチョコレート食えたけど、苦手な人の気持ちも考えなきゃいけないもんな」
「そうよ! ゴキブリと同じで元々は北海道には生息していなかったって話を聞きながらタガメの形になったパティを食べる私の気持ちがわかる!?」
詳しくなってんじゃねぇか。ついでに言えばまだ良い扱いの最初の話が飯時に一番聞きたくない。あと、なんでやたらとタガメに関連してないのに関連している風なものを食ってるんだコイツら。
「……申し訳ありません。配慮が足りていませんでした」
桐生は、俺のまだ飲んでいないコーラがスカートから滴っているにも関わらず、立って頭を下げる。確かに、飲食店でする話でもないかもしれないが……これはこれで、よくはないな。
「すみません、俺の連れが失礼しました。……ただ、こんなことをする必要はありましたか?」
ぶちまけられたハンバーガーやジュースを指差す。桐生のポテトも、コーラを吸って色を変えてしまっていた。
「そ、それは……」
「食べ物を粗末にするのはよくないかと。お店も困るでしょう」
日本人ならなんとなく誰かから言われるであろう文句。『食べ物を粗末にしてはいけない』。一応、虫嫌いの女子高生にも効いたようだ。
「俺達にも責任があるので、俺とコイツでお店には謝るのと、掃除もします。その代わり、一緒に手伝ってくれませんか?」
女子高生は、案外素直に頷いてくれた。そうして、桐生はみけと箱森に任せ、周りのお客さんとお店に謝りに行き、床の掃除もして、なんとか片が付いた。太郎と桐生の好感度を上げることと桐生の情報を得ることが目的だったのだが、またよくわからないことになってしまったな……。
「……悪かったわね」
ハンバーガー屋をようやく出たところで、女子高生が口を開いた。
「本当は……テーブル叩くだけで、あんなふうにするつもりなかったの。勢いついちゃって、あんなことになって……これ、お詫び」
言って、二千円を寄越す。
「いいよ! 元々は僕がTKOを守らなかったのが原因なんだし」
TPOな。あれはあれでTPOの問題だったのかもしれないが。
「……ん。それじゃあ、あと」
女子高生は、去り際に。
「アンタが喜んで食べてたトマト。アレ、食虫植物よ」
太郎を驚愕させる謎の知識を披露して去っていった。
後日。
「ええ。確かにトマトは広義の意味で食虫植物ですね。茎のところに白いふさふさした毛みたいなものがあるじゃないですか。あれに実は毒があって、それで地面に落ちた虫を肥料として吸収するみたいですよ。キャベツやジャガイモにも似た性質があるみたいです」
桐生先生から補足の知識も得て、なんとなく無駄にトマトとタガメの知識が増えたのだった。
「すみちゃん何の話してるのー?」
「みけのさん、今トマトの話をしていて……」
みけが桐生と仲良くなったことをきっかけに、クラスのみんなも話しかけるようになった。これはこれで結果オーライなんだろう。
一方。
「ほーちゃん! さっきそこでバッタの大群が……あっ!」
太郎は俺に近寄り(近い)、耳に手を当てて(近い)こそこそと聞いてきた。
「バッタの大群の話は今OKかな?」
「とりあえず近いから離れてくれ」
下校時に虫の話をしていただけの太郎と桐生が良い雰囲気になるはずもなく。
攻略は難航していた。
とんでもなくどうでもいいことですが、健全な小説であることを主張するために、女子高生表記にしています。




