mission41 探し物を発見せよ!
「ステータスっ!」
箱森から恋愛レッスンを受けた日の夜。不安にかられた俺は、ようやく夜中にポーズをし、太郎のステータスを確認することに成功した。太郎はポーズの影響を受けて止まっているが、踊りでも踊っていたのか珍妙なポーズで静止している。夜中に何やってるんだよ。
「まあ太郎はいいや。えっと……おぉ!」
幼少期に確認した時より全体的に底上げがされている。そこそこ高い学力に、体力が追随しさらには幼少期頑張って上げた魅力。このへんのパラメータだけ見ると真人間のようだ。ついでに、雑学と優しさもちょこっとだけ上がっているがゴミみたいなもんだった。ここは気にしないでおこう。
『大丈夫そうぷんか?』
「ああ。明日にでも桐生のステータスも確認してみるが、攻略本どおりなら太郎がフラれることはないだろ」
部屋に戻りポーズを解く。あの攻略本に全面的な信頼が置かないせいで、肉眼でステータスの確認が必要なのは厄介だが、そんなに表記ミスは何度も続かないだろう。多分。
『明日が楽しみぷんね。おやすぷん』
「楽しみにするほどじゃないが……とりあえず、おやすみ」
さて、いよいよ桐生の攻略スタートだ。
◇ ◇ ◇
と、意気込んだはいいものの、目の前には幼少期に出会ってすらいない完全攻略不能キャラである中安ちゆりがいた。同じクラスではあったはずだが。
「じゃあいくよ。問題っ!」
その掛け声と同時に、太郎の前に問題と選択肢が現れる。ここだけ近代的だな。上の方にあるバーみたいなのは……時限式ってことか。
『おいカッス』
『なにぷん? 我はチョークで遊ぶのに忙しいぷん』
『さっき黒板消したばかりの日直を困らせるな。それより、なんだこの状況は』
また意識が飛んだかと思えば、中安が急に近づいてきて、このクイズコーナーが始まってしまったのだ。強制するようなイベントでもないだろうに。
『中安ちゆりのクイズイベントぷん。毎日何%かの確率で発生するぷん』
『なんか良いことあるのか?』
『中安ちゆりの好感度が上がるぷん』
意味ないな。鹿峰と一緒でお邪魔キャラじゃねぇか。
『答えられないとどうなるんだ?』
『何も変わらないぷんが、中安から馬鹿にされるぷん』
お邪魔キャラだけじゃなく不快キャラになっていた。需要あると思って作ったんだろうかこのイベント。キャラにヘイトを溜めるようなイベントはやめてほしいが……太郎は今9問目か。全10問っぽいが全く答えられていないな。この調子でいくと、馬鹿にされるんだろう。
『助けなくていいぷん?』
『正直、この年代の雑学系には詳しくないからな……。どれ?』
覗き込むと、当時流行っていたドラマに関する問題が出ていた。それだけならまだしも、著作権対策で微妙にまた名前が変わっているので正解が分かりにくい。
「はっずれー! 次が最後だよ」
とりあえず早く終わってくれ。ポーズ中みたいにクイズの間は誰にも動きがなくて不気味なんだよ。
「問題っ!」
最終問題、次のセクシー女優のうち清楚系小悪魔としてラブラブパニック☆バスルームでデビューしたのは誰? か。ふむ。
『Cか』
『なんで分かるぷん?』
『多少お世話になったからな』
例によって、人名もビデオタイトルも多少名前は違うが、多分アレを指しているんだろう。
『ぷん? セクシー女優は何かお世話してくれる人ぷん?』
『ああ。18歳以上の人々に夢と希望を与える仕事をしている人だ』
『なるほどぷん。ぷん……? この時代のお前の歳を考えると、お世話にはなれないはずぷん』
『世の中不思議がいっぱいだな』
そんな話はさておき、太郎の手を操作してCを選択する。まあ、一問くらい正解しておいた方がいいんじゃないだろうか。
「はっずれー!」
動き出した中安に思い切り否定された。俺のいる世界とは違う清楚系小悪魔だったのか?
「正解はCでした」
あれ?
『俺C押させたよな?』
『押させてたぷんね』
『合ってんじゃねぇか』
なんだ、またバグか?
『中安ちゆりイベントは一定以上雑学がないと、正解しても不正解と見做されて馬鹿にされるぷん』
とんでもないイベントだった。バグの方がまだ良かっただろコレ。
「赤来戸くんったらこの程度にも答えられないんだー。うーわ、なんかガッカリ。雑学のない男は羽虫と同程度の価値しかないんだよ。あー、もう。なんで話しかけちゃったんだろう。チョベリバー」
チョベリバはこんなところで出てくるのか。というか、クイズに正解できないだけで酷い言われようだ。そしてお前はセクシー女優についてあっさり答えられる男がタイプなのか?
「クイズは難しいねー」
一方の太郎は、馬鹿にされても特に何も感じてなさそうだった。去っていく中安にも興味は薄そうだ。
「ドラゴンのメンタルの強さは本当に尊敬するよ」
ぶっちゃけ落ち込む必要性は1ミリもないのだが、なんにせよ、太郎が無駄に落ち込むことがなくて良かった。
「やった! ほーちゃんに褒められた」
「よし、いらんイベントも終わったことだし、桐生のところに」
行こうとしたら放課後になってました。
「なんなの……この急に意識が飛ぶシステムなんなの……?」
『授業は受けなくてすむぷん』
「そうなんだけどさ……」
もうちょっとなんとかしてくれないと心がついていかない。人間はもっと繊細なんだということを分かってシステム設計してもらいたいもんだ。
とにかく桐生だ。席を見れば、帰り支度の最中。なんとか間に合いそうだ。
「桐生、今日用事あるか?」
「古井戸さん。いえ、特段用事はありませんよ」
「じゃあ、一緒に帰ろう」
その立ち振る舞いからか、入学早々学園のマドンナ等と呼ばれるようになった桐生だが、高嶺の花すぎて近寄りづらいのか未だ誰かと話している姿はあまり見ていない。
そのせいか、マドンナと一緒に帰る男に対する歯軋りが後ろから聞こえる。ただ、このマドンナ落としたいのは俺じゃねぇよ。
「じゃあ、ドラゴンも一緒に」
帰れなかった。なんか教室にいなかった。
「赤来戸ならさっきベースケとバッタ取りに中庭に」
「何をしてんのかなアイツはっ!」
主人公らしく攻略を、いや、せめて教室内で大人しくしててくれ。なんで今バッタが必要なんだよ。とりあえず教えてくれたモブに礼を言い、桐生に頼み込んで中庭まで付き合ってもらう。
「太郎殿ー。こっちにはいないでござるー」
律儀に付き合ってやってるベスボの声が聞こえる。そもそも、高校の中庭にそんなにバッタがいるか?
「うーん、こっちもいないなぁ……あ、ほーちゃん」
「なんでいきなりバッタ探してんだよ」
太郎は制服のズボンを早速汚してしまっていた。バッタの何がそんなにお前を駆り立てるんだ。
「ほら、さっきクラスにトノサマバッタが入ってきたじゃない?」
俺の知らないところで謎のイベントを発生させないでほしい。まあ、確かにたまに虫が教室に入ってくると無駄な盛り上がりを見せることはあるが。
「その時にたまたま持ってた家の鍵を取られちゃって」
「それはもしかしなくても俺の家の鍵だな」
バッタに鍵を奪われる状況があまり想像できないが。バッタってそんな賢いか?
「あ、赤来戸さん。そのバッタってもしかして……」
震え声の桐生の前には、少しデカめのあまり凝視したくはないバッタがいた。どうやらコイツか。桐生と対峙しているが、体の大きさを考えればどちらが有利かは明白であるのに、桐生が負けそうなオーラが漂っている。虫怖いもんな。
「あ、そいつじゃないよー。探してるのは体のラインがもっとこうくねってしたやつ」
なんで即座にバッタの違いが分かるかは謎だが、バッタ違いらしい。そんなことより。
「ドラゴン。桐生はバッタが苦手みたいだから、ちょっと取ってやれ」
俺もあまり触りたくはないので、平気そうな太郎に託す。その方が好感度もきっと上がるだろう。
「分かったー!」
太郎は桐生の前にいたバッタをわっしと掴み、ポイっと投げた。投げた先にいるのはーーーー俺だった。
「!?!??!!!?っ」
声にならない声を出し咄嗟に避ける。危なかった。バッタに唇を奪われるところだった。
「ドラゴンっ。人に向かって虫投げちゃ駄目だ。怖いしよく分かんないしびっくりするだろ!?」
「あはは、ほーちゃんったら。たかが虫なのに」
それは分かってるんだがなんか怖いものは怖いんだよ。太郎もバッタを鷲掴みにした手でこっちを触ってこようとするが、早く洗ってきてほしいくらいだ。理屈じゃない。あと気軽に触るな。
「あっ! 鍵出てきた」
その小さな体のどこに隠していたのか、太郎がさっき投げたバッタが着地した時に鍵を落としたようだった。バッタの事情なんて知らないが、多分太郎から鍵を奪い取ったバッタがこのバッタにプレゼントでもしたんだろう。知らんけど。
「良かったですね」
「いやぁ、終わりよければ全て良しでござるな!」
「うんうん、アタシもなんか感動しちゃったよ!」
鹿峰は早く部活に戻れ。自然に入ってくるな。
「ドラゴン。帰れそうなら今日は桐生と帰るぞ。帰りにどっか寄って帰ろう」
当初の目的を果たさねば。
「おっ。ではハンバーガー屋がお勧めでござるよ! これは友達からもらったクーポン券でござる。よかったら使ってくだされ」
「え? 古井戸の奢り? いーなー。アタシも行こうかな」
「ありがとうベスボ。鹿峰は今すぐ部活に戻れ」
誰の奢りだ。奢るとしてもお前に奢る理由がない。
「ふぅ。分かっちゃいないね。古井戸くん。できるヤツは脳内だけでトレーニングができるんだよ」
頭を指差しながらすごい賢そうに言われたが、陸上のトレーニングを頭でできそうなキャラには見えない。なんなら、さっきのバッタの方がまだ賢そうな顔をしていた。
「いいから戻れよ。エースなんだろ? お前」
「嫌だなぁ! まだ入部したばかりだよ! 本当、古井戸くんは期待するのが上手いんだから」
期待するのに上手下手があるのか、俺は知らない。
「仕方ない! 期待のエースとしてちょっくら走り込みの続きを走ってくるとするよ! ぐっばーぁい!」
あんまり賢そうじゃない物言いで鹿峰は去っていった。ベスボもクーポンをくれた後は用事があるらしくて帰っていったし。
「じゃあ帰ろうかほーちゃん。桐生さんも」
メインヒロインをついで扱いするのはどうかと思うが。
気を取り直して、攻略の続きだ。
チョベリバが使われ出したのは今から25年も前になるそうです。




