mission40 箱森ひよりの恋愛レッスンを受講せよ!
「まずは自覚ね。自分が人間界においてどの位置にいるかは確認しなきゃいけないわ」
箱森はそこの辺にあった適当な枝をペンがわりに地面に何やら落書きしていく。ピラミッドか。
「私のようにね」
一々ドヤ顔を挟まれるのはムカつくので、早く話を進めてほしい。
「てっぺんはもちろん美男美女。一番下はゲンゴロウみたいなもんよ」
世界におけるゲンゴロウの割合が大きい。
「赤来戸くんも古井戸くんも見た目はそんなに悪くないけど……女子にツームストーン・パイルドライバーをキメているようじゃまだまだね。そのへんを加味するとギリゲンゴロウってとこかしら」
俺はキメていないんだが、ギリゲンゴロウにまとめられてしまった。俺もゲンゴロウにあんまり詳しくないんだけど。確か水の中にいる虫だよな?
「お前はどのへんなんだよ」
「え? わ、私はそうね……。ゲンゴロウは嫌だし、こ、このへんかしら」
お前その嫌なゲンゴロウにさっき2人放り込んだばっかじゃねぇか。
「そこは何になるんだ?」
「え? あ、う。うさぎさん」
ゲンゴロウから一気にランクアップしていた。なんだようさぎさんって。
「美男美女は?」
「神」
桁違いにランクが上がった。そりゃ、ゲンゴロウじゃ敵わんわ。
「ゲンゴロウからうさぎさんになるにはどうしたらいいの?」
「うーん……私もよく分かんないけど、やっぱり優しい人になるとかかなぁ」
指南役がよく分かんないとか言ってる。
「ちなみに、箱森さんはどんな人が好きなの?」
「ふぇっ? わ、私!?」
お前以外にここに箱森がいたらびっくりだろ。
「わ、私はそうね……。こんな私でもちゃんと見つけてくれて、宿題を一緒にやったりとか忘れ物したときに貸してくれたりだとか、いつも何かと気にかけてくれて、良い人だなぁって思っていたら、急にいつもとは違う顔にドキっとしちゃうこともあって、あっちはあっちでなんか同じように思ってくれてて、ある出来事をきっかけに付き合うフリをするようになるんだけど、お互い本当は好きで意識しすぎてギクシャクしちゃって、でも逃げる私を追いかけて告白してくれて、実は青年実業家とかでお金もたんまりあってうちの本屋を世界レベルにまでしてくれた上で、取材があったときに照れ臭そうに自慢の妻のお陰で頑張れましたって紹介してくれる人……かな」
長い上に妄想が激しい上に途中から飛躍しすぎだ。ちゃっかり自分の家を世界レベルにするな。
「わ、私はいいのよ! それより、赤来戸くんは誰かいないの? ずっと一緒にいたいとか、一緒にいて落ち着くとか、楽しいとか思う人!」
なんか至近距離に条件に当てはまる人間がいる気がするので話題を変えよう。
「それだとほーちゃ」
「箱森、口元にぜんまいがついてるぞ」
「ふぁ!?」
ようやくぜんまいは取れたが、口元にはクリームが残ったままだ。ティッシュは……あったあった。
「ほら、拭いとけよ」
「あ、ありがと……」
「あははっ、箱森さんって意外とおっちょこちょいなんだね」
その言葉に箱森は頬を染める。眼鏡の下の瞳は潤んでいて、黙っていれば(イラストが良いので)可愛いんだが。
「2人は、実業家だったりする?」
「せめてそこは諦めろ」
そこを加味したら神クラスだろ。
『ぷん!? 今クソくだらん身の毛もよだつダジャレが聞こえた気がするぷん!』
『カッス、あっちあっち。お前の仲間がいるぞ』
『あっちぷん……? むきーっ! 我はダンゴムシじゃないぷん!』
カッスはさておいて。箱森といえば頼まれた用件をこなしたいところだ。
「箱森。なんでもいいけど、みけにもちゃんと話してやれよ。ずっと心配してたみたいだし」
春日野みけの。今も、箱森をぴよちゃんと呼び続けている、箱森の友達だ。
「む、無理無理無理! みけちゃ……春日野さんなんて、神の中の神! 宇宙レベルだもん! 一緒に並んだりしたら私消滅しちゃう!」
なんでみけの評価がそんなに高いんだよ。ヒロインレベルで言うなら箱森や鹿峰ほどウザくはないが、同じイラストレーターが描いているから横並びだろうに。
「春日野さん、こんな私もずっと可愛いって言ってくれて……。本当に可愛いのはああいう子のことを言うのよ。醜すぎて、一緒にいたら迷惑かけちゃう」
なんかよく分からんが、みけを神格化しているわけか。迷惑をかけないためにわざと避けて……アホだな、コイツは。
「みけにずっと悲しい顔させとくのはいいのか?」
「それは……」
「大体さっきからずっと自分を卑下してるだけだろ。鏡ちゃんと見ろよ。太郎も可愛いって言ってるんだから」
「そうそう! 箱森さんは可愛いよ!」
どこから出したのか、ゲソを食いながらじゃなければもうちょっと良いセリフなんだがな。
「みけにはちゃんと説明して謝れよ。この時代の友達は貴重なんだから」
特に、小学生の時からずっと待っていてくれる友達なんて。それこそ神クラスだ。
「話しかけて……いいのかな」
「むしろちゃんと話をしろ」
「私なんかでも……いいのかな」
「ゲソおいしい!」
「良かったな。箱森も大丈夫だ」
「対応が雑なんだけど!」
文句の多い奴だ。
「で、でも……私も、頑張ってみる」
箱森は、ようやく決意を固めてくれたらしい。
「うさぎさんの意地、見せてくるよ」
そうして、余計なことさえ言わなければ満点の笑顔でこちらに手を振り、姿が見えなくなったところで、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「ほーちゃーん、奥歯にゲソ挟まったー」
「はい、歯間ブラシ。ゲソやホタテはこういうことあるから気を付けろよ」
その後。
「ぴよちゃーん! ねぇねぇ、これ可愛くないかなっ!」
「もうもうっ! 可愛いのはみけちゃんだよー!」
他クラスとの交流場である廊下が、前より少し騒がしくなった。
箱森は元に戻ったわけではないが、まあ、これはこれで良い結果なんじゃないだろうか。




