mission38 主人公の育成方法を省みよ!
入学式を終え、高校生活二日目。相変わらずすっ飛ばされる授業の合間に意識が戻り、太郎と共に移動教室のため、廊下を歩いていた。多分イベントでもあるんだろう。
「そうそう、そこでカメムシが言うんだよ。君にだって同じ血が流れてるだろう? って。名言だよねー」
何の話か全く聞いていなかったので、太郎が何を言っているか本気で分からないな。とりあえず確か虫を潰した時のあの汁みたいなのが実は血だって話を聞いたことはあるが、それが名言かどうかは知らない。
「おや? 太郎殿とほまれ殿ではござらんか!」
こんな口調の、型にはめたようなオタクキャラも知らない。誰だコイツ。
「ああ! 久しぶりで名乗りもしないのは失態でござったな。失敬失敬。拙者でござるよ。野球でござる」
なんかいたなそんなヤツ。野球と書いて……?
「ベスボ!? お前ベスボか!」
「そうでござるそうでござる! いやはや、ご無沙汰でござるな!」
「どう考えてもキャラ間違えてるだろお前!」
幼少期時代は不良にバットで殴りかかる野球少年だったのに、いつの間にこんなイメチェンしちゃったんだよ。
「はははっ! ほまれ殿は昔と変わらんでござるなぁ」
「いや、本当。何があったの?」
普通にいけば、名前の通り野球部で活躍してる系のキャラになってるはずじゃないのか?
「話すのも気恥ずかしいのでござるが……。中学の時の大会で、不肖エースを務めさせてもらっていたのでござるが、無理をしすぎてしまって、肩と腰がこの通り……。もう野球はできないのでござるよ」
肩はともかく腰はこの通りかよく分からんが、スポーツに怪我は付き物だしな。そんなこともまあ、よくある話なんだろう。
「無理して投げる前に仲間を頼れよ」
「いやぁ。キャップの母君が手術を控えていた話を聞いて、いてもたってもいられなくなってしまって。ついつい無理をして、キャップにも怒られたでござる。
あ、でもキャップの母君にはウイニングボールを届けることができたでござるし、手術も成功して奇跡的に持ち直したでござる! 結果オーライってやつでござるな!」
なんか隣にいる奴より、ちゃんと主人公していた。
「えっと……その口調は?」
「この名前は祖父が付けてくれたのでござるが、野球ができなくなったことですっかり気落ちをしてしまって。もちろん、拙者を責めているわけではなく、祖父自身を責めてしまっていたでござる。野球ができなくなったことで、自分の付けた名前のせいで生きづらくならないかと。そんなことはないのでござるがなぁ」
もっと早く気づいて欲しかったところだ。普通に考えて、野球と書いてベスボは野球をしてても生きづらいような気もするが。まあ、本人が気にしてないならいいのか。
「祖父に元気を取り戻してほしいと、祖父が好きだった時代劇を見て、その主人公のように強く優しい漢になれば……と形から入ってみたのでござる。祖父も最初は遠慮がちだったのでござるが、次第に話が弾んで。いやぁ、あの頃は楽しかったでござるなぁ」
「あの頃は?」
不穏な単語が出てきた。
「ああ、祖父は今年の冬にあちらへ旅立ってしまったでござる。その後も……恥ずかしながら、この口調が抜けないのでござるよ」
笑いながら、ベスボは語る。
「……恥ずかしくなんかねぇよ」
「ほまれ殿?」
「恥ずかしくなんかねぇよ! 仲間大事にして……じいちゃん思いの、超カッコいい奴だよ、お前は!」
話に飽きてきて、横でリコーダー吹いてるどっかの主人公に主人公とはなんたるかを聞かせてやってほしいくらいだ。
「ほまれ殿……買いかぶり過ぎでござるよ」
「そんなわけあるか。お前みたいな奴こそ主人公であるべきなんだよ……」
というより、両肩にカマキリを乗せたり、隙あらば尻を撫でようとしてきたり、こけた拍子にタンスを破壊した上で人のパンツを被るラッキースケベなのかなんなのかも分からないような主人公に頭を悩ませている身としては、どうすればこんな聖人君子が育つのか知りたくて仕方がない。なんかもう、食ってるものからして違うのかな。
「お、ベースケだ。今度の休み天体観測行こうぜ!」
「えー! 次の休み私も浮世絵体験に誘おうと思ってたのに」
「あの、ベースケくんは、僕と黒ストッキングを買いに行く約束を」
しかもあらゆる方面のあらゆる趣味を持つ人に大人気だった。リア充ってのはこういう奴のことを言うのか。
「太郎殿、ほまれ殿。引き止めてしまって申し訳ないでござる。いずれまたゆっくりとお話しさせていただきたいでござるな!」
そうして、ベスボは今の仲間に囲まれて教室に戻っていった。横から蛍の光が流れてくるのにはツッコんでおいた方がいいのか?
『野球は大人気ぷんね。ちゃんと育成してるとああなるぷんか』
『太郎の育ち方の原因が俺にあるような言い方はやめてくれるか?』
今のところ誰も褒めてくれてないけど、俺だって相当頑張ってると思うよ? 誰も言ってくれないから俺が言うしかないけど。頑張りが足りないのかな。
「ベースケくんは相変わらずだねー」
「お前はアレを見て本当にそんな感想なのか……?」
まずい。高校時代になってからバタバタしていて、太郎のステータスを見れていないのが急に気になってきた。今日こそ見よう。ちゃんと、太郎を真人間に育てなくては。あれ……ゲームの趣旨違くないか?
と、考えながら歩いていたらいつの間にか音楽の授業は終わったらしく、昼休みにパンを買いに行った帰りまで時間が進んだらしい。
またイベントでもあるんだろうが、その前になんで俺の持っているパンが、よもぎサバパンとぜんまいわらびクリームパンなのか知りたい。春だからって野草適当に突っ込むのはやめてくれよ。食べるの俺なんだろ? これ。
「なかなか良いパン残ってなかったねー」
と言ってるものの、太郎が持っているのはカツサンドと焼きそばパンだった。嫌味かよ。そんな太郎に交換を申し出ようかと思ったところで、最近目につく赤毛を見つけた。箱森ひより、のアフターだ。
「ドラゴン。昔プールで箱森に可愛くないって言ったこと、覚えているか?」
とりあえず、太郎が箱森に謝れば宮藤みたいに元に戻るだろう。宮藤はみんなの前では猫をかぶっていたので、今の状態が元に戻った扱いでいいのかは知らないが。
「あー、うん。覚えてる。みけも可愛いし、素朴な疑問だったんだけど、箱森さんを傷つけちゃったみたいで」
どうやら、それなりの優しさはあるようだ。安心した。
「よし、じゃあ今から箱森に謝りに行くぞ!」
「合点だよ!」
不安を呼び起こすような相槌を打って、太郎が先に箱森に声をかけた。が、
「ひぃぃいいい! ぐひゅうぅぅ!」
すごい声を上げて逃げられた。声かけただけでこれなのかよ。
「待って! 箱森さん!」
主人公故か、メンタルが強いせいか、太郎はそんな箱森を追いかける。窓から飛び降りて。
窓から?
ここ、三階だよな?
主人公補正なのか、無傷で着地した太郎は、そのまま箱森を探しに行った。箱森は階段を降りていったわけだし……挟み撃ちってことで、俺は階段でいいよな。主人公補正とかなさそうだし。三階は普通に怖いわ。
『チキンぷんねぇ』
『やかましい。普通の人間は躊躇いなく窓から飛び降りられないんだよ』
普通に階段を降りたところで、太郎が箱森を捕まえていた。文字通り、捕まえて、いた。
「話を聞いてよ! 箱森さん!」
「いやぁぁぁああ! 離してぇ! 死んじゃうぅぅ!」
女子相手に、躊躇いなくツームストーン・パイルドライバーを決めている主人公がそこにいて。
俺はそっと、目を閉じた。
ちなみに、箱森のスカートは諸事情なのか、めくれていなかったことを、ここに記しておきます。




