mission36 ギクシャクした関係を改善せよ!
「このクラスですか?」
「……ああ」
ヒロインのオーラというか、なんというか。圧倒されてしまっている。みけ達には、こんなオーラは感じたことはなかった。やはり、メインヒロインは格が違うということか。
「じゃあ、ようやく貴方のお名前が分かりますね」
目を細める彼女は、昔のことでも思い出しているんだろうか。俺や太郎との、さして良い思い出でもないあの夏の日を。
「あ、ほーちゃん。ねぇねぇ聞いて聞いて」
トイレから帰ってきたらしい空気の読めない太郎は、ハンカチで手を拭きながら近づいてきた。絶対大した話じゃないだろそら。桐生がいるのが見えてないのかコイツは。
「やっぱり、ビョルノ・ビョッバァーナ! って言いながらおしっこすると勢いが違」
「何の話!?」
やっぱりって言われても聞いたことねぇよ! しかもなんか俺が好きな漫画の第五部の主人公と二字違いくらいの名前が、どう考えても使うべきじゃないタイミングで出てきたし。パロネタやるにしてももっと別のセリフとかあったろうが。
「おしっこの出し方の話だよ?」
きょとんとされても。全然記憶にないけど、実は太郎とおしっこの出し方について、この言葉を言いながらだと出やすいみたいなこと話したことあったのかな? いや、ないだろう。
「とりあえず女子の前でそういう話はするな」
「女子? あ、桐生さんだ」
気付くの遅いんだよ。お前の本命だよ、俺の中でだけど。
「お久しぶりです、赤来戸さん。変わらないですね」
桐生は確実に褒め言葉として言っているんだろうが、あの日から太郎が変わっていないとすればマイナス要素しかない。どうしよう。
「桐生さんはなんか綺麗になったね!」
なんか、という表現は気になるが、これは太郎にしては上々の返しではないだろうか。ステータスを確認していないが、離れている間に優しさとかが上がっていたのかもしれない。
「そんな……ありがとうございます」
「そうそう、それでさっきの話なんだけど」
「話を戻すな」
良い雰囲気が台無しじゃねぇか。
「でもほーちゃん。よくよく考えたら、女子もおしっこは出るから必要な知識なんじゃ」
「大丈夫。女子は女子でそういうのあるから」
「そうなの!?」
「ああ、でも聞くのは野暮だから気を付けろよ」
適当なことを言って太郎を落ち着かせたところで先生が来てしまった。桐生の太郎に対する印象はどうだったんだろう。選択肢とか好感度が上がる音とか、分かりやすく出れば良かったのに。
「赤来戸太郎です。昨日この街に引っ越してきました」
自己紹介か。自分のは適当でいいとして、攻略キャラ……桐生とみけ、宮藤に鹿峰、笹川と中安も同じクラスか。あ、さっきの新入生代表もいるな。となると、箱森達は別のクラスか。学校が違う奴も確かいたっけな。
無難に自分の自己紹介も終え、クラス全員分も終わったところで、委員長を決めるという割とどうでもいいイベントが始まった。学期ごとじゃなくて、1年務めなきゃいけないのか。面倒そうだ。
「じゃあ古井戸くん、副委員長よろしくね」
いつの間にか委員長になっていた新入生代表は、笑顔で挨拶してくれた。謎の肩書きを唱えて。
「は? 俺?」
「ほら。赤来戸くんの推薦で」
アイツ何してくれてんの? こっちはお前のフォローで忙しいっていうのに。文句を言おうと太郎を見れば、ブイサインが返ってきた。何に対してビクトリーなんだよ。
まあ、本来のゲームでもそういう展開なのかもしれないので、太郎を責めるのも酷か。仕方なく名ばかり副委員長でもやっておこう。きっとこの優秀そうな委員長がなんとかしてくれるだろう。多分。
というわけで、あっという間の放課後となり、仕事をなんとかしてくれそうな委員長はきっちり振り分けて仕事をこなすタイプだったようで、みっちりこき使われた上で教室へと帰された。初日からアイツ鬼かよ。太郎は先に帰るし。
「宮藤ってさー」
そんな放課後の教室から聞こえるのは、だらだら残っている男子生徒の声か。議題は宮藤まなみについて。あまり良い話ではなさそうだ。
「前は可愛かったのになー」
「そうそう、やっぱ都会に行って擦れちゃったのかね」
俺が気まずくなる必要はないので、普通にドアを開けて入る。副委員長お疲れー、と声までかけてくれるので、まあ、悪い奴らではない。
「あの空回ってる感じは痛々しかったもんな」
「分かる。ついチャンネル変えちゃったもん」
俺はその時をすっ飛ばしているので分からないが、色々あったらしい。
「昔みたいに可愛かったら良かったんだけどなー」
俺が片付けやら明日の準備やらをしているうちに会話は終わったらしく、俺にも挨拶をして男子達は帰っていった。まあ、悪口というよりは世間話的な感じではあるが。
「で、お前はいつ帰るんだ?」
まさか、掃除用具入れが家になったわけじゃないだろう。
「……なんで分かるのよ」
特段、何かがはみ出ていたわけでもなく、音が漏れていたわけでもない。強いて言うなら扉が閉まり切っていないことを違和感と捉えるかどうかくらい。
「なんかお前そういうとこにいそうじゃん」
「どういう意味よ!」
怒って出てきた宮藤は、俺から見れば昔と変わらない、強気で居丈高で意外と泣き虫なところがある、あの宮藤まなみだった。
「変わらないな」
昨日から、何回か聞いたこの言葉。こっちから言うのは、案外初めてか。
「……変わらないの?」
「変わってないだろ」
褒め言葉になるかは分からないが。宮藤も悪くは受け取ってないらしい。
「変わらないのか」
髪をいじりながらぽつりと呟く。ビジュアルも背は伸びたが、子供の宮藤をそのまま大きくしただけのような印象だ。箱森ほどビフォーアフターがはっきりしているわけでもない。
「ねぇ」
帰る準備をして、カバンを持ち、
「ちょっとだけ、付き合ってくれる?」
拒否権なんてなさそうな、射抜くような強い瞳をして。
宮藤まなみは、そんなことを言い出した。
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ひとつ報告なのですが、この話を書くにあたり、作中の某有名漫画の第五部の主人公名+おしっこでちゃんと検索したのですが、おしっこの勢いの話は全く出てきませんでした。もしかしてみんなやってないの……?
勢いにもしお悩みの方はお試しください。




