mission35 ヒロイン達の現状を理解せよ!
宮藤は、俺の声に反応することはなく、体育館の方へ行ってしまった。何があったんだよ。
「宮藤さん……噂、本当だったのかな?」
「何か知ってるのか?」
掲示板の前では邪魔になるので、少し人を避けて太郎の話を聞くことにする。
「あ、でもほーちゃん知らないのか。僕は知ってるけど、知らないなら知らないままでいた方が良いかもしれないし」
「いいから話せ」
なんで聞くまでのやりとりが面倒なんだよ。入学式前に片付けたいのに。
「宮藤さんって子供の頃、チンドンパンパカパンみたいな番組に出てたじゃない?」
「ドドスカポンピンパンな」
俺が覚えちゃったよ。ちゃんと見たこと一回もないのに。
「それで、その後も子役とかバラエティとかで結構見るようになっていって、仕事の関係で引っ越したはずなんだけど」
確かにこのゲームの街は田舎設定だったか。仕事をしに都会まで通うのも大変だろうし、まあいっそ引っ越した方が楽だったんだろう。
「宮藤さんがたまたま生放送中に失敗しちゃったことがあって、その時にお姉さんが乱入っていうか、助けに入ったらお姉さんのキャラが大受けして」
バラエティあるある的なアレにか。面白い素人が話題をかっさらってしまうことがあって、それから引っ張りだこになるなんてやつ。
「最初は宮藤さんとセットだったんだけど、いつの間にかお姉さんばかりが出るようになって、宮藤さんはあんまりテレビで見なくなって……そろそろ引退って噂が」
まあ、珍しい話でもなさそうだ。兄弟姉妹、どっちかのバランスが崩れて仲が悪くなるなんて話は腐る程あるし、同じ仕事をしているなら余計に色々あるだろう。テレビ的にはウケの良い方を使いたいだけだしな。
だからといって、
「アイツがそんなにすぐ諦めるタマかね」
幼少期の強気で居丈高な宮藤を知っていると、それだけでアイドルを辞める理由にはならないような気もするんだけどな。
「え? 今なんかタマの話した?」
「してないな」
しかし、太郎がちゃんと宮藤のことを知っている方にも驚いた。興味なんて全くなさそうだったがな。
「ああ、大した理由じゃないんだけど……。宮藤さん見てると、この街のこと思い出して、懐かしかったから」
別に宮藤でなくとも良かったらしい。今のところ大した接点ないしな。むしろ、なぜか俺の方がある不思議な状態だ。
「さ。入学式始まるよほーちゃん。派手に暴れてやろうよ」
「そんな気はさらさらないな」
そういう若者が暴れる的な風習がある高校じゃありませんように。そう願いながら体育館に入ると、
「それでは、次に新入生代表の挨拶です」
いきなり入学式の途中まで時間が飛んでいた。
『こういうシステムか……』
『ぷぷん。攻略に関係ないところは飛ばせる画期的なシステムぷん』
『分かるけど理解が追いつかないんだよ』
ゲームでもよくあるけどさ。朝来たら2秒後くらいには昼休みになって、イベント終わって暗転開けるともう放課後になってるやつ。実際体験してみると、頭とか体とか色々ついていかない。
『つまり、お前がアホだからぷん?』
「うわ、虫だ」
お馴染みのワードとともに宙をはたく。
『はたくなぷん! びっくりしてひゅってしたぷん!』
「ほーちゃん大丈夫?」
「ああ、でも逃したからまだいるかもしれないな」
カッスを牽制しただけのつもりだったが、少し騒がしかったらしい。近くにいた教師が咳払いをし、俺達が前を見たところで新入生代表は止めていた挨拶の続きを読み出した。
しかし、この代表も知らないやつだな。攻略本やパッケージ絵でも見たことがなかった気がする。隠しキャラにしては存在が隠れている感じはしないし、目が深淵に閉ざされてもいないので、モブキャラの中でも出番がある系のモブキャラか? いや、そう見せかけて本当に隠しキャラか?
そんなことを考えながら、話は聞いていないが新入生代表を熱心に見ていると、不意に目が合った。……優しく微笑まれたような気もしたが、気のせいか。
そんなこんなで入学式が終わり、体育館から各教室へ。クラスごとに分かれて退出したはずなのに、廊下では入り乱れてごった返していた。まあ、仕方がないが……と。この、目の前の赤毛の三つ編みは。
「お前、昨日の」
「ひっ!?」
声をかけただけなのに、人混みをかき分けてどこかへ行ってしまった。なんか少し落ち込む。俺が何したってんだよ。
「ほーちゃん、今の」
「ああ、みけか。なんか昨日声かけられたんだよな」
正確には太郎が。声をかけられたというよりは怯えられただけの気もするが。
「ぴよちゃん、まだあんな感じなんだ」
ぴよちゃん。箱森ひよりをみけが呼ぶときの渾名。
「え、ちょっと待て。あれ、箱森なのか?」
「うん。昔は明るかったんだけど……」
昔とキャラ違うヤツ多くないか? といっても、まだ2人だけど。ルートに入るとなぜか性格が変わるのはとあるゲーム会社の十八番のようなシステムだったが、実際に出会うと戸惑うものだ。ルートに入ってもいないし。
「なんか、急に可愛くないのに調子乗ってごめんなさいとか言い出すようになっちゃって」
原因太郎じゃねぇか。あのときのプールの一件ってこんなに引き摺るものだったのか?
「ぴよちゃん可愛いのに……。それから、話しかけても一人にして欲しいって言われて」
今に至るのか。あの一言で大分箱森の人生を狂わせたものだな。
「まあ、そういう気分の時もあるからな。ただ、箱森の元気のなさには心当たりがあるから、俺もなんとかしてみるよ」
「本当っ! ありがとっ、ほーちゃん!」
とりあえず太郎に謝らせればなんとかなるんじゃないだろうか。案外とマイナスから好感度をうまく上げられれば……とも思うが、このゲームじゃそんなにうまくいかないよな。まずは、箱森がなんとか元に戻ってくれれば……。
考え事に集中しているうちに、クラスの前まできていたらしい。それぞれのクラスに入ったせいか、廊下は大分人もはけてきていた。そういえば太郎がいつの間にかいないが、トイレか何かか? 余計なことをしてないといいんだが。
「赤来戸太郎さん」
涼やかな声に、つい振り向いてしまったが。俺は太郎じゃない。そう言おうとしたところで、
「の、友達さん」
付け足された言葉が、自分を指していることに気付く。
「お久しぶりです」
そこだけ、世界が切り取られたかのような、静謐感に包み込まれて。
メインヒロイン、桐生すみれは、幼少期以上に綺麗で、圧倒的な存在感があるのに、どこか儚げな姿で、降臨していた。




