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mission33 新生活の準備をせよ!



 目を開けると、非常に体が重かった。



 それは、昨日一昨日と太郎を背負って疲れたせいというわけではなく。



「うわ……」



 声も、昨日までの古井戸ほまれの声とは違う声で。




「こっわ……」




 寝て起きたら、高校生の古井戸ほまれになっていた。



『おはよーぷん。今日も晴れだから過ごしやすいぷんね』

「なんでお前はいつも通りでいられるのか知りたいんだが」



 朝起きたら身長が伸びて体重も増えて声変わりまでしていた人間の気持ちとか分からないのコイツ。


「部屋も違うし」

『お前の部屋は今日から太郎が使うぷん。追い出されたぷん』


 そういえば、あの部屋は高校時代は太郎の部屋になるんだったか。ほまれの母親も追い出すなよ。俺の部屋だったのに。



『まあまあ、細かいことはいいからはよ起きるぷん。でないと』

「でないと?」



 階下でチャイムの鳴る音が聞こえた。



『太郎が来たぷん』

「なんでこのゲームは余裕を与えてくれないの……?」



 誰だこのスケジュールでゴーサイン出した奴。なんとか対応してるけど、これ普通じゃないからな。こういうスケジュールの組み方する奴がいるからこっちの身が持たなくなるんだよ。



「ほまれー。太郎ちゃん来たわよー」

『呼ばれてるぷん』

「分かってんだよそんなことは」



 昨日の夜別れたばかりなので久しぶり感は微塵もないが、きっと太郎も成長して帰ってきたんだろう。急いで着替えて玄関へ向かうと、高校時代で新たに書き下ろしがないせいか、昨日から代わり映えのしないほまれの母親と謎の青年がいた。


 まあ、太郎だ。


 例によって鼻までかかりそうな、夏場でなくとも邪魔にしかならないだろう前髪。揺れてもその奥の瞳には謎の深淵が邪魔して辿り着けない。昔の太郎が二回りくらい大きくなったような、正直あまり代わり映えしない太郎がそこにいた。



「久しぶり」



 コイツはそんなに声変わりしてないのか。明らかに声優さんが変わった的なものではなく、やや低くなったかな、くらいのそんな声。



「ああ、ドラゴン。久しぶり」



 その言葉に、なぜか太郎は口元を押さえ、声を詰まらせる。



「まだ……僕のこと、その渾名で呼んでくれるんだね」



 みんなもう呼んでないのかよ。そういう情報は早めに言ってくれよ、頼むから。


「あ、ああ……。まあ、さすがに高校生になるし、俺も太郎って」

「いい、いい! ほーちゃんはそのままドラゴンって呼んで!」


 なんで俺だけ恥ずかしい渾名で呼ばなきゃいけないんだよ。案外と呼ばれる方より呼んだ方が振り向かれてひそひそされるから恥ずかしいんだぞ。



「変わらないね、ほーちゃん」



 それが、すごく嬉しいことかのように太郎は笑う。変わらないのが褒め言葉かどうかは謎だが、まあ、こっちは昨日まで小学生やってたんだから、そりゃ変わらないだろう。



「ほまれ、太郎ちゃんを案内してきてあげたら。前とは街の様子も変わってるだろうし」



 俺も知らないんだけど。



「そうだね。荷物が来るのお昼過ぎだし、今から案内してもらっていいかな?」



 俺は朝飯もまだなんだけど。



「いってらっしゃーい!」



 あっさり外へ出されてしまった。お腹空いてるんだけどな。


「どこいく?」

「まあ……じゃあ、高校にでも行くか」


 明日から通うことになるところだしな。さすがに、学校なら幼少期と場所も変わってないだろう。この前は、時空の狭間に追われながら、夜に駆け抜けた道を太郎と一緒に歩いて行く。



「しかし、いつぶりになるんだっけ?」



 幼少期は意外と頻繁に会っていたようだし、あの別れからも何回か会っていたのだろうか。



「んー? 小学一年生の時以来だよ。ほら、僕が2週間くらい泊まりに来て」

「あれ以来会ってないのか」



 それはそれで意外だ。何があったんだよ。


「ほら、僕あれからお母さんに着いて何回か転校しちゃったじゃない? それでなかなかこっちまで来れなくて。ようやく2人とも仕事が落ち着いたかと思ったら今度は海外派遣に行っちゃって」


 確か太郎の両親2人とも会社は同じなんだったか。仕事の関係で別居して、その後は2人で海外と、子供抱えながらアグレッシブだな。



「寂しくないのか?」

「さすがにもう慣れたよ」



 寂しさは慣れてしまうことはできるが、それが良いことかは俺には分からない。




「それに、今日からはほーちゃんがいるから」




 もう10年近く会っていない俺を、太郎はそこまで頼りにしてくれているのか。



「まあ、高校生活も始まるからな。彼女もできるだろうし、忙しくなるぞ」



 ただ、俺ばかりに意識を向けてもらっては攻略上困るので、彼女作りに勤しんでもらいたい。



「僕は別に彼女なんて」

「彼女はいいぞ。高校生活に彩りが生まれる」

「ほーちゃんはいるの?」



 いるわけがない。というか、このゲームで彼女なんて作ってる場合じゃないだろう。忙しいし。



「いないのに彼女にすごい夢見てるなんて、ほーちゃん可愛いところあるね」



 うるせぇよ。お前だっていないだろうが。言ってやりたいが、面倒なので飲み込んでおく。まあ、こういう奴ほど付き合い出したら夢見るもんだ。


 そうして、辿り着いた高校は昔と変わっていなかった。背景描くのも大変だろうしな。そんなぽんぽん変わりはしないだろう。




「なっ!? 赤来戸くんっ!」




 突然の声に振り向けば、眼鏡に三つ編み。今時希少な委員長スタイルの赤毛の子がいた。こんなキャラいたっけ? と、考えているうちにその子は走り去ってしまった。何かのイベントだったのか?



「ほーちゃん知り合い?」

「お前の名前呼んでたし、お前の知り合いじゃないのか?」



 パッケージ絵では確かいた記憶もあったが、あんまり覚えていないな。後で攻略本読んでおくか。あれ、高校時代の記述薄いけど。



「次どこいく?」

「そうだな……」



 小学校に神社、図書館に公園。幼少期行った場所を巡り、違いがないか確認する。ほとんどは幼少期のままだったが、海へ行く途中に喫茶店ができていた。これも何かの布石だろうか。



「懐かしいねー」

「そうか?」

「ほーちゃんは住んでるからそりゃそうだよ」



 というより、昨日まで通っていたからというだけだ。



「明日から高校生かー」



 そんな会話をしながら家に帰る途中、




「あ、ほーちゃん。わ、太郎もいるっ! おっひさーっ!」




 ロングの茶髪。ツーサイドテールも猫の髪飾りも変わらず。春日野みけのは昔と同じ元気印で話しかけてきた。


 高校生という大人とほぼ変わらない体つきになった彼女は小花柄のワンピースを見に纏い、すっかりお姉さんという風貌になっていた。性格も口調も昔のままだが、その子供と大人の中間のようなアンバランスさが、さらにみけの魅力を引き立てている。



「みけ? 久しぶり!」

「すっかり大人になったねーっ!」



 言っていることは昔と変わらないはずなのに、また違った趣がある。幼少期を知っているからこそ感じる可愛さだと思えば、このゲームに幼少期をつけたのは僥倖というべきだろう。実際は、バグのせいでやりたくもないクソみたいな期間になっちゃってるけど。



「明日からまた楽しみだねっ!」



 そうこうしているうちに、太郎とみけの会話は終わったらしい。家へ帰るみけを見送り、俺達も家へ戻る。

 昼からは太郎の荷解きを手伝い、ようやく終わった頃には日が暮れていた。



『さて、明日から本番ぷんね』

「高校時代でもお前と風呂に入らにゃならんのか」



 追い出すのも面倒なので、諦めてそのままそのまま風呂へ入る。



「高校時代で少しは攻略が楽になるといいんだがな」

『ぷん。神様にお願いしておいた便利機能も追加されたぷん。喜ぶぷん』



 それは本当に役に立った上でポーズとかが恥ずかしくないやつなんだろうな。



『明日紹介してやるから、楽しみに待つぷん』

「碌なことが起きない気がするのは気のせいか?」



 カッスと適当な話をした後、風呂を上がって自分の部屋へ。と、入って気付く。ここはもう太郎の部屋なんだった。まだ物が少ない中、机に置かれたサメ柄の写真立てが目に入る。そこには、男の子が2人浴衣で立っている少し色褪せた写真が飾ってあった。



「……それなりに、大事にしてたんだな」



 俺にとっては、昨日の出来事であるあの夏の日を、太郎はどんなふうに捉えていたんだろう。



『じゃあ電気消すぷん』

「ああ、おやすみ、カッス」



 部屋に戻って布団の中へ。明日からはいよいよ高校生活が始まる。攻略本番だ。と、つい寝る雰囲気になってしまったが、もう一度攻略本を読み直して対策を立ててからの方がいいか。じゃあ、もう一回起きよう。



「カッス、ちょっと攻略」

「ほーちゃん、まだ起きてる?」



 ドアの外から、太郎の声が聞こえる。




「起きてたら、久しぶりに一緒に寝」





 何か喋っているが、うっかりすっかり。俺は眠かったんだ。ドアの外の誰かの話は布団を被り、シャットアウトする。わー、お布団気持ち良い。




 しばらくガチャガチャ言っていたドアノブも眠ったところで、俺も安心して目を閉じる。






 おやすみなさい。良い夢を。






 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 濃厚BLエンドのフラグが立ちまくっているところ。 あだ名で呼んだことで好感度アップ、写真は初恋の思い出の記念だろうか、なんて想像しました。 [一言] 高校生編、これから楽しみです!
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