mission32 幼少期の思い出を大切にせよ!
ついに迎えた幼少期の最終日。
今日は花火大会ということで、ほまれの母親に俺も太郎も浴衣を着せられていた。
「ほーちゃん似合うー?」
「似合う似合う」
目も合わせずに適当に言っておく。万一見てまたときめいても仕方ないからな。
「もーっ! ちゃんと見てよぅ!」
近い。思わず上目遣いの太郎が視界に入ってしまった。幼少期の男子の浴衣姿は女子とは違う趣があり
「喝っ!」
「うわなに!? びっくりしたぁ」
頭が余計な思考をしだす前に意識をしっかりと保つ。大丈夫。これなら旧スクの方が遥かに上だ。
「2人とも可愛いわぁ。ねねっ! 写真撮るから並んで並んで!」
嬉しそうなほまれの母親に言われるがまま、写真撮影に移る。ポーズや立ち位置を変え、フィルムを使い切ったところでようやくお開きとなった。何枚撮ったんだよ。
「写真できたら太郎ちゃんの家にも送るわね」
そういや、この時代はまだフィルムカメラや使い捨てカメラ全盛期のため、写真屋に現像を頼むのが普通だったな。今は家で簡単に印刷できるから、時代は変わったものだ。
「さ、お祭り楽しんでいらっしゃい」
よくよく考えたら、小学一年生ならまだ親が同伴した方がいいんじゃないかと思えるが、ほまれの母親はイベントの都合かあっさり送り出してくれた。
太郎とともに神社まで下駄をカラコロ言わせながら歩く。太郎は浴衣のくせに元気よく歩くせいで、浴衣があっさりはだけそうだ。危ない。
「ドラゴン。祭りは逃げないんだからもうちょっと大人しく歩け」
「えぇっ! でもプレスケがなくなっちゃうかもしれないよ」
プレステのことか? あんまりこういうことは言っちゃいけないかもしれないが、多分ああいう景品は祭りが終わってもなくなっていない気がする。なんでだろうね。
さて、この最終日のお祭り花火イベントは、攻略本には特に記載はなかった。つまり、全員共通イベント的なもので、これまた攻略には関係なしということなんだろう。まあ、幼少期で攻略イベントが必要なのは鹿峰くらいなものだってたしかカッスも言ってたしな。
「みけも来れたら良かったのにねー」
「風邪らしいからな。仕方ない」
一緒に来るはずだったみけは、熱が出たらしくステイホームだ。行きたがっていたが、まあ仕方ないだろう。
「あ、出店ここから出てるよ!」
「まずはお参りからな」
少ないお小遣いを握りしめて即座に使い果たしそうな太郎を制しつつ、この前七並べをしていた参道を歩く。なんだか、結構前のことのように感じるな。箱森はプール以来会っていないが、元気にしているだろうか。
「勉強ができるようになって背が伸びてイケメンになってお金に困らない暮らしができて色々良いことがありますように」
俗物極まりない太郎の願い事は置いておいて、俺もとりあえず祈っておくか。……ホモエンド以外で時空の狭間に呑み込まれることなく、無事にエンディングが迎えられますように。
届くかどうかは、分からない願いだが。
「ほーちゃーん」
俺が祈っている間に太郎は出店に行ってしまったらしい。
「お金なくなっちゃった」
「早ぇよ! 何に使ったんだよ!」
太郎の頭を見れば、1つ千円のお面が2つ。お小遣いは二千円。なるほどね。なるほどねじゃないが。
「お面って高いんだねー」
「まあ、原価の話とか気にしだすと負けだけどな」
祭りの出店の適正価格を気にしてはいけない。こういうのは雰囲気を楽しむものだ。金はなくなるが。
「仕方ないな。俺が出すから一緒に何か食うか。何食いたい?」
「かき氷!」
遠慮のない太郎とともにかき氷やら焼きそばやらを半分ずつ食べ、太鼓や笛の音を聞き、通りかかる神輿に歓声を上げる。普通に、友達と過ごすお祭り。何年ぶりだろうな。
「ほーちゃん、サメ釣りがあるよ!」
「もうあんまり金ないけどな」
仕方ない。太郎に一回だけさせるか。
「おばちゃん! プレスケまだある?」
「あるよあるよ。ひひひひひ」
絶対プレスケ出す気ないだろこれ。ソフビ素材で作られたサメに書かれた番号を確認すると、出店のババアは下の方から景品を取り出した。景品は全部ちゃんと並べておけよ。
「はい」
「何これ?」
「サメ柄の写真立てだよ。大当たりさ」
「やったぁ!」
プレスケはどうした。まあ、太郎が喜んでいるならそれでいいか。おいババア、釣ったサメ元に戻すな。ちゃんと抜いておけよ。
「ほーちゃんはしないの?」
「土産の金がなくなるからな」
みけにベビーカステラでも買っていってやろう。祭りの雰囲気のお裾分けくらいにはなるだろう。
「大変! 花火始まっちゃう!」
「おい走るな! 危ないぞ!」
案の定こけた。学力は割と高いはずなのになんでかな。
「うぅ……うぐぅ」
「泣くな泣くな。あー……鼻緒切れちゃったのか」
さすがに切れた鼻緒の結び方は分からんな。ここにいても邪魔になるし、一旦太郎を背負って離脱する。
「ほーちゃぁん……」
「はいはい。下駄落とすなよ」
「うん……」
えっちらおっちら、太郎を背負って神社から離れる。その途中で花火が上がり始め、夏の夜空を明るく染めていく。絶好のロケーションというわけではないが、まあ、悪くはない位置だろう。適当な草むらに太郎を下ろし、2人で座って夜空を見上げる。
「僕、本当はちょっと不安だったんだ」
見えない瞳に花火を映して、太郎はぽつりぽつりと話し出す。
「お父さんとお母さん、お仕事忙しいけど、2人重なって、こんなに長くいないの初めてで」
そういや、小学一年生だもんな。まだまだ、両親が恋しい歳だろう。
「いつも遊んでるほーちゃんやみけといられるのは楽しいっていう気持ちもあったけど……寂しくなったりしないかなって、不安だった」
そりゃ漏らしもするか。年齢的には、あまり責められないところだ。
「でもね、来てみたら全然寂しくなかったんだ」
ずっと、ほーちゃんがいてくれたから。そう太郎は付け足す。
「毎日色んなことしてすっごく楽しかった! 箱森さんだとか鹿峰さんだとか、いっぱい友達もできて、遊んで。明日はどんな楽しいことがあるんだろう! って。毎日そんな気持ちだったんだ」
それは……良かったな、と。思う。色々大変な2週間で、太郎に振り回されたばかりだったけど、太郎がそう言うなら、少しは意味があるものだったように感じる。
「優しくて、格好良くて、ピンチの時は助けに来てくれて……ほーちゃんは、僕のヒーローなんだ」
良いこと言ってくれるじゃないか。なんた、コイツ良い奴か。
「だから、僕、ほーちゃんのことだいす」
「ストップ」
あっぶねぇぇえええええええええ!
油断してた! 超油断してた! 花火で良いムードになってたのをすっかり失念してたわ!
「ドラゴン。そういうことを言って良いのは心に決めた結婚相手だけだ」
「え、でも僕ほーちゃんとなら」
「話を最後まで聞け! いいか、日本では高校3年生の卒業式までそういうことを好きな相手に言うのは禁じられてるんだよ! 捕まるぞお前!」
出まかせも出まかせだが、こういう他ない。勢いで押し切っておかないと、エンディングを迎えてしまいそうだ。この神社の神様ちゃんと仕事してるんだろうな。
「ほ、ほーちゃんがそこまで言うなら」
「そうだ。高校の卒業式までちゃんと取っておくんだぞ」
叶うならば、その時の相手は俺じゃない奴にしてほしい。その思いを汲んでくれたかのように、この日一番の花火が打ち上がる。
「たーまたまー」
「たまやな」
幼少期の、夏が終わる。
「ほーちゃーん! また遊ぼうねー!」
両親と一緒に帰っていく太郎を見送り、古井戸家が少し静かになった。
「色々あったな」
『まだ始まったばかりぷん』
打ち切り漫画のようなことを言うな。俺はここで現実に帰ってもいいんだが。
『じゃあ、電気消すぷん』
「ああ、おやすみ。カッス」
いつの間にか、カッスとやり取りをして一緒に眠るのにも慣れてしまった。たった、2週間なのにな。
まあ、カッスの言う通り、思いを馳せるにはまだ早い。次からがいよいよ本番だ。
目が覚めたら、春が来る。
案外と長くなってしまった幼少期編。これにて終了です。次回からは高校生編が始まります。
ブックマークや感想、レビュー、そして、読んでくださっている皆さん。いつも本当にありがとうございます。また次回以降もお付き合いいただけると嬉しいです!




