mission26 怯える女の子を救出せよ!
旧型スクール水着。通称、旧スク。新型スクール水着では布がすべてが繋がっているのに対し、下腹部のあたりで布が切れており、長めのTシャツにパンツだけを履いているようにも見える形状が特徴である。
それは別に『分離してるんならそこから手を突っ込めるのでは』といったいやらしい愚鈍な発想からくるものではなく、胸から入った水を排水する目的であったり、伸縮性を持たせたりといった真っ当な理由があり、ついでに言えば布が分離しているだけで糸で縫いつけはされているので、手を突っ込むなんてことはできない。
とはいえ、その偶然の産物ともいえる形状が、魅惑的に見えてしまうことも俺は決して否定はしない。
そして、今それを身にまとっているのは宮藤まなみ。小生意気な宮藤が旧スクを着てしゃがんでいる姿は、旧スクという清楚で大人しい印象を与える着衣の拘束に宮藤の強気さが必死で抵抗しているようにも見えるし、その強さが虚勢であることが旧スクを着ることによって露見してしまったようにも見える。
俺は旧スクにそこまで思い入れはないが、これはなかなか良、いや、優を与えるべき事案なのではないか。
とまあ、そんな話はさておき。
「こんなところで何してるんだよ」
更衣室の裏側。日陰というか死角というか、そんな場所に宮藤はいた。
「……アンタには関係ないでしょ」
「それもそうだな。じゃあ」
踵を返して太郎を探そうかと思ったら、手を引かれた。
「少しは気にしなさいよ!」
こういう正解がない感じのやりとりは嫌いなんだが。
「で、どうしたんだ? その旧スクは?」
「水着は関係ないでしょ!」
つい気になっていたことが口をついてしまった。気をつけよう。
「……お姉ちゃんのお古」
文句を言いながらも答えてくれた。なるほど。鹿峰同様、甘やかされていそうだと思ったがそうではないのかもしれない。姉のお下がりでも文句も言わず着ている点は良い子といえるだろう。
「笑わない?」
「旧スクを笑う奴はこの世にいないだろ」
「そっちじゃなくて今からする話の方よ!」
意識が逸れてしまっていた。気を引き締めないと。
「か、勘違いかもしれないけど……その、狙われてる気がして」
黒の組織的な奴の話だろうか。そうだとすると俺の出番はないが、どうやらそんな冗談を言っていられる状況ではないらしい。
「私、こういう仕事してるから、気になっちゃっただけかもしれないんだけど……。ずっと、プールの外から写真、撮られてる気がする」
子役アイドルの盗撮か。まあ、珍しい話でもないんだろう。やられる方はたまったものではないが。悲鳴のような歓声のような。そんな声がプールからは聞こえてくるというのに、宮藤は気温も高く快適とは言えないこの場所でうずくまることしかできなくなっている。
「そいつがどのへんにいたか分かるか?」
「……助けてくれるの?」
「監視係に言うだけだけどな」
橋を走れるくらいの高性能スケボーも一瞬で副作用なく人を眠らせる麻酔銃も持っていない俺にできることは限られてはいるが。
「せっかくきたんだしな。泳がないと可哀想だろ」
限られた中でできることくらいは、まあしてもいいんだろう。
「水着が」
「私の方を気にかけなさいよ!」
怒るくらいの元気は出たらしい宮藤をそのままに、監視係とともに盗撮魔がいたらしい場所へやってきた。監視係の方も何かあったらしく、俺と来たのは1人だけだったが、きっとなんとかなるだろう。多分。
「このあたりだって話だよね」
「ええ……。すぐに見つかればいいんですが」
と、話していると、草むらの陰から何やら声が聞こえてきた。
「うーん、これはなかなか! お、良い表情! これだよこれ! そうそうそのまま! ナイスアングル!」
そこには、独り言を滅茶苦茶言いながら連写している怪しげな男がいた。意外とあっさり見つかるものだ。
「こらっ! お前何してるんだ!」
「ひっ!? べ、別に怪しいものでは」
そして、あっさりと解決しそうだ。良かった良かった。
「嘘をつくな! そのカメラで女の子を撮っていたんだろうこの変態め!」
しかし、その言葉で流れが変わった。
「……私が撮っていたのは、ただの風景写真ですよ」
圧倒的なオーラを出し始めた男につい気圧される。見てみろと言わんばかりに渡されたデジカメは、当時ようやく一般市民に普及するようになったものの、まだ6万円くらいしたものだ。少し懐かしさを覚えつつ、画像を確認する。
「なっ! こ、これは!」
監視係が驚愕するのも無理はない。
そこには、
肌色以外何も映っていなかったのだから。




