mission23 攻略対象を変更せよ!
鹿峰の攻略に失敗したことが分かり、宮藤はかまきりを踏み、太郎が闇落ちして元に戻った10日目の夜。
「もうすぐ太郎ちゃんともお別れねぇ」
夕飯を食べながら、ほまれの母親がしんみりしていた。そういえば、あと4日で預けられていた太郎は帰るんだったか。こちらとしては、幼少期が終わって高校生活が始まるだけだからそこにしんみり感はないが。
「寂しいなー。ほーちゃんとも離れちゃうし、おばさんのご飯美味しいし、ずっとここにいたいくらい」
「あらっ、良い子ね! からあげどうぞ」
「わぁい!」
ほまれの母親もちょろいものだった。いや、専業主婦の方が案外と褒められる機会がないから承認欲求が高まりやすいことを考えるとちょろくなりやすいのか?
まあ、ほまれの母親は当然攻略対象じゃないのでどうでもいいのだが。あ。
「そうだ。これ集めてる? 貰い物なんだけど」
昼間に宮藤の父親から貰ったパン祭りの台紙を渡してみる。
「ああ……パン祭りの」
微妙な反応をされた。
「結構集まってるねー」
「うーん……。でも景品がね」
「こういうのは大体皿じゃないの?」
「1つは確かにお皿なんだけど……。ほら、柄がこれなのよ」
景品が書かれているチラシを見ると、確かに皿は皿だが、知らん男と知らん女が笑顔で純白のタキシードとドレスを身に纏っている写真が無駄に印刷されていた。
「パン屋さんの社長さんの姪っ子のいとこが結婚されたみたいで」
「割と遠縁だな」
会社の景品にそれを持ち込むこと自体どうかと思うが、やるにしても普通は息子とか娘とかじゃないのかよ。血縁といえば血縁な気はするが。
「抽選の方の景品もほら……。この可愛くないブタちゃんみたいなのの置物だし」
割と見知った姿がそこにあった。
「確かに。可愛くないブタだ」
『むきーっ! 誰が可愛くないブタぷん!』
ブタみたいなのが怒っていた。コイツは作中ではパン屋のキャラなのか? にしては人気がないな。
「ごめんね、ほまれ。他に欲しい人がいたらあげてくれる?」
「そうだな、ドラゴン。いるか?」
「僕はいいや」
あっさり断られた。早めに捨てた方が良いのかもしれない。しかし、宮藤のお父さんは何目的でこれを集めたんだろうか……。まあいいか。晩ご飯も食べ終わったしテレビでもつけるか。
『煌めくステージに咲く一輪の薔薇のようなかすみ草! あなたのハートにピリリとスパイス、これで完成召し上がれ! ハートはドキッと涙はサラッと愛と英知と希望とフラッシュ! あなたのアイドル・ハフハーフ! 雅に素敵に登場よっ!』
知り合いが良からぬ呪文を喋っていた。
「あ、宮藤さんだ。本当にでてたんだねー」
番組名は忘れたが、どうやら子供向けの戦隊モノのようなものらしい。女の子3人が主役で、宮藤はその中の一人か。
『ま、まさか貴女が寝返るなんて……!』
『ふふっ。勘違いしないでくれる? 貴女達とのお友達ごっこには飽き飽きしていたのよ』
『さて、今週のお地蔵はこちら!』
せっかく宮藤が本性を現したところでお地蔵100選に変わってしまった。攻略相手でもないし別にいいか……。太郎がテレビに夢中になっている間に風呂に入ることにする。
『ふーっ。熱海の湯は心に染みるぷんね』
「当たり前のように一番風呂に入るな」
摘み出そうかとも思ったが、疲れていて面倒なのでそのまま自分も入る。そんなにこの入浴剤に熱海感あるか?
「カッス。聞きたいことがある」
『ぷぷん。高くつくぷん』
「ほーら潜水艦だよ」
『沈めるなぷんっ!』
そいつはさておき。
「あの攻略本はどこまで信用していいんだ?」
結構頼りにしてしまっていたが、そもそもゲーム発売前に出された雑誌の付録。途中までしか記載されてないし、イベントも全部網羅はしていない上に、ミスもある。鹿峰の攻略失敗はわりとショックだった。
『我も全部読んでないから分かんないぷんが、困ったことがあればサポートキャラである我を頼ればいいぷん』
「不安しかないな」
『さっきから失礼ばかりぷん!』
これからは攻略本に基づきつつ、ステータス等は自分の目とカッスで確かめる必要があるわけか。手間がかかる分、難易度が無駄に上がった気がする。
『でもお前はまだうまくやれてる方だと思うぷんよ』
「これまでのやつは確か太郎の方になって攻略してたんだったか」
『ぷん。9割は幼少期で終わってしまってたぷん』
太郎側の方が難易度が高いのかどうかは分からないが、こっちも幼少期はあと4日残っている。気を抜けないな。
「あと4日で桐生のイベントはないんだよな」
『ぷん。桐生すみれはあのイベントだけぷんね』
メインヒロインなのに一番イベントがないのは気になるが、その分高校時代のイベントでもあるのだろうか。
『桐生すみれに切り替えるぷん?』
「そうだな。メインヒロインだから難易度的には気になるところだが……。パラメータ的には桐生か綾咲だからな。登場の遅い綾咲よりは桐生を優先したい」
綾咲かなえは二学期から転校してくる設定だ。そこを踏まえると、一学期から出会える桐生に舵を切っても大丈夫だろう。
「頼りにしてるぜ、カッス」
自然と口をついて出てしまった。まあ、たまにはこういう言葉を言っておいてもいいのかもしれない。
『我、頼られてるぷん?』
「まあ、そうだな」
わざわざ確認されると気恥ずかしいものがあるが。
『嬉しいぷんー♪』
スタン・グレネードばりに発光した。
「だから目がやられるんだよ! 調子に乗るなこのブタちゃんがっ!」
『むきーっ! 誰がブタちゃんぷん!』
「ほーちゃん! 声を荒げる癖が出てるよ!」
「鍵かけてるからって窓開けないでくれる!?」
騒がしい風呂を終えて眠りにつく。
幼少期は、残すところあと4日。




