mission13 ピンチからヒロインを死守せよ!
薄い紫色の髪にヘアバンド。お嬢様らしい清楚な服装。俺や太郎と同じ8歳だというのにどこか落ち着いていて、神秘的で、高貴。桐生すみれは、倒れている時でさえメインヒロインたるオーラがあった。
『時空の狭間が来たぷん』
「桐生っ! 来い!」
呑気に観察してしまったが、今は逃げることが先決だ。バグによって正しくない行動をしている俺達を追いかけ回しているというのなら、本来の目的地である図書館へ行きさえすればいなくなるはずだ。
「え? あの、え?」
桐生は触手と俺を見比べて固まってしまっている。このままじゃ呑まれるのは時間の問題だ。ダメ元でアレをやるしかないか。
「ポーズっ!」
「ええっ!?」
桐生がものすごい顔でこちらを見ているところで時間が止まった。悲しくて仕方ないが、目論見どおり触手の動きが止まっているうちに桐生を動かさないと。
8歳の体重とはいえ、こちらも体格はそんなに変わらないので重いは重い。えっちらおっちら桐生を触手から引き離し、自分は元の位置に戻りポーズを取る。
『あと15秒ほど時間あるぷん』
「もうちょっと早く言ってくれる!?」
そうしたらもっと引き離せたのに。今言われても桐生をまた動かす時間は取れない。無駄に15秒ほどポーズを取り続け、時間が動き出した。
「え? 私、あれ?」
「桐生! 手を取れ! 走るぞっ!」
端的にやることを伝え、急いで桐生の元まで行き手を取って走り出す。今度はうまくいったようだ。
「あ、あのっ。あなた、さっきすごいポーズを」
「してない! 気にするなっ! 黙って走れ!」
してはいたので嘘は言ったが、このくらいは許されるだろう。
「カッス! 図書館までの道案内頼むぞ!」
『え、我? 我がするぷん?』
「サポートキャラだろお前はっ!」
早速別れ道だ。直進か、左右のどちらか。
『あ、そこ西ぷん!』
「直進か右左で言え!」
咄嗟に東西南北が分かるか。とりあえず適当に右へ曲がる。
『次は左……あ、我から見て東ぷん!』
「補足が分かりづらいわ!」
方角は誰から見ても一緒だろ。そうして、カッスの糞みたいな道案内でなんとか図書館に辿り着くことができた。
疲れた。本当に疲れた。
「はぁっ……はぁ。なんだったんでしょう? 今の……。それに、ん……はぁっ。あなた、ずっと誰かと話してましたよね」
すごく説明がし辛いことを聞かないでほしい。
「私の名前も知っていらっしゃったようですし……はぁっ。一体何者なんですか?」
汗かいて途切れ途切れに話すのなんかエロいな。ロリコン属性がないため小学生相手に特に感じるものはないが、こういうところはもっと頑張ってほしいものだ。俺はロリコンじゃないけど。
それはさておき、落ち着いたところで言い訳タイムだ。
「桐生すみれ。俺は赤来戸太郎の友達だ」
まずはアイツの名前を印象付けておこう。
「え? あ、赤来戸太郎さんのお友達……ということは、あなたは結局どなたなんでしょう?」
不審がられた。まあいい。
「それはどうでもいい」
「え?」
「さっき話しかけていたのは俺の使い魔だ。能力を駆使して先程のような化け物から君を守るのが赤来戸太郎の使命だ」
適当な厨二病設定も小学生なら許されるだろう。
「いや、でも。それだと使命があるのも赤来戸太郎さんで。結局あなたは一体」
「まあ、あとはあそこにいる赤来戸太郎本人から聞いてもらおうか」
ちょっと格好つけて図書館の入り口を指さした。
誰もいなかった。
はははご冗談を。図書館はあそこから見えるくらいの位置にあったはずだし、真っ直ぐ行けばまず間違いなく着けるだろう。まさかまさか。いくら太郎とはいえ。
『図書館の中にもいないぷんね。というより、このへんに太郎の気配がないぷん』
本当にいなかった。
「もうやだ……なんなの、なんなのなのこれ」
「あ、赤来戸太郎さん……の友達さん。どうかされましたか?」
格好つけた後、すぐに座り込んだ俺を心配してくれた。優しい。惚れてしまいそうだ。俺はロリコンじゃないんだけど。
「桐生。頼むから、ここで。この場所から動かないで待っててくれ。お願いだから。お前は裏切らないで」
「えぇ……えっと。はい。何がなんだか分からないのですが、承知いたしました」
そうして、図書館の入り口に桐生を残し太郎を探しに行くことにした。
「カッス、太郎の場所分かるか?」
『ぷーん。どうやら公園にいるっぽいぷんね』
真逆の方向だよ。何やってんのアイツ。仕方ないので公園まで急ぐ。そこには砂場で遊んでいる太郎がいた。本当に何やってんのコイツ。
「あ、ほーちゃん」
「ドラゴン……図書館はどうした?」
「えへへ、トイレ行きたくなっちゃって」
「お前出る前に聞いたら、おしっこ大丈夫って言ってたじゃねぇか!」
しかもなんでわざわざ公園に。と思ったが、土地勘がないから家に戻るか公園くらいしかなかったのか。まあそれは仕方ない。
「砂場で遊んでたのは?」
「じゃーんっ! おしり作ってたんだ。これで触り方の練習ができるよ!」
見ればそこには砂でできた尻があった。まさか俺の頼みはこれ以下の存在だったってことか?
「あれ? 遠くの方で黒いのがうねうねしてる。なんだろね」
触手も復活していた。
「クッソ! もうもうもうもうもう! とにかく逃げるぞ!」
仕方なく太郎の手を引っ張って走り出す。と、それはなぜか振り解かれた。俺の手を拒んだ太郎はチッチッチと指を振って見せる。
「初めて手を繋ぐときは、左手を握るんだよ」
「どうでもいいよ!」
情報は上手に使うものであって、踊らされてはいけない。
そんなことを再認識した今日この頃でした。
「あ、なんかうねうねがめっちゃこっちにきてる」
「早く走れ!」
本当、早く帰りたい。




