mission9 お風呂回を満喫せよ!
その後、公園へ行って遊んでカラスの鳴く頃に帰路に着いた。家ではカレーライスを食べてお腹も満腹に。健康的な小学一年生だ。
「ほーちゃん、一緒にお風呂入ろ」
「嫌だよなんでだよ!」
咄嗟に嫌がってしまったが小学一年生なら友達と風呂に入るのもアリなんだろうか? でも、何がエンディングに繋がるか分からない以上、下手な行動は取りたくない。
「春休みの時はいつもお風呂でコロパンいっぱいしてたのに……」
謎の用語を説明もなく出すな。
「いや、俺達ももう小学生だろ? なんでも一人でやりたい年頃なんだよ」
言い訳としてはこれで十分だろう。
「そんな……。今度会った時はディジェストしたコロパンをボヤージュしてくれるって言ってたから楽しみにしてたのに」
さらに知らない用語を出すな。ボヤージュは確か航海って意味だけど、前二つとの繋がりがさっぱり分からん。
「ボンボヤージュ……」
絶望した時に言う言葉じゃないだろボンボヤージュ。良い旅を、じゃなかったか?
「ドラゴン、大人になるためには……コロパンは封印する!」
「ほーちゃんっ!」
呼び止める太郎を振り切り風呂場へ。鍵を閉めてこれで安心。しかしコロパンってなんなんだよ。この地方の遊びかなんかか?
『ふーっ。いい湯だぷん』
「一番風呂をお前が取るな体を洗いもしないで入るな何よりお前川で水浴びした後体洗ってないだろすぐに出ろ!」
『むきーっ! 我は川で体が冷えたぷん! 投げ捨てたのはお前だからこのくらいいいぷん!』
しばらく揉み合ってなんとか風呂からカッスを出すことができた。放っておくとまた入りそうなので洗っておく。力強く。
『痛たたたたっ! 我の繊細な肌が傷ついてしまうぷん!』
「会って一日経ってないがお前に繊細さなんてかけらも感じなかったよ」
そうして一緒に風呂へ。俺は一人で入りたいのに。安息の地はないのか。仕方ないのでカッスに色々聞いておこう。
「カッス、このゲームは幼少期二週間の高校3年をプレイするんだったよな?」
『正確には幼少期二週間と高校1年ぷん。主人公は高校一年生の間に相手を選んで、後の2年間はイチャイチャを満喫するぷん。そこにお前は不要だから高校1年だけ頑張ればいいぷん』
お得感を出すような感じで言われた。確かに3年は正直だるいので期間が短いのは喜ばしいことか。個人的にはすぐ戻りたいんだが。
『太郎と結ばれれば割とすぐに戻れるぷん』
「やかましい。俺は女の子が好きなんだよ」
もう一つ気になっていたことも聞いておく。
「今の俺はどうなってるんだ? 現実世界の方」
現実で1年も経過したらさすがに後々に支障が出る。
『そっちは心配いらないぷん。この世界は一夜の夢として処理されるからここにどのくらいいても目覚めたら次の日というだけぷん』
それは何よりだった。会社にも親父にも心配かけるのは御免だ。
『会社で過労で倒れたってことになってるから、朝清掃員が発見して救急車で運ばれて監督不行届とかで課長って人が怒られてて父親や後輩がショック受けてたくらいぷん』
「大事じゃねぇか」
心配も迷惑もかけていた。夢だって言うなら家帰ってからにしてくれよ。ただでさえ中途入社組で給料低いって悲しんでる課長がさらに悲しむだろうが。親父達も驚いただろうし。
「お前があっちに行って説明してこいよ」
『我は見ることはできてもあっちに行くことはできないぷん。あくまでこの世界の住人ぷん。それに、前のプレイヤーに聞いてもあっちはクソみたいな世界だって言うぷん。なんでお前は戻りたいぷん?』
なんで戻りたいのか、と聞かれると難しいわけだが。
「まあ……いきなりいなくなると迷惑かけるしな。各所に」
『でも、楽しい世界に行けるならそのくらい良しとしないのぷん?』
ここは別に楽しい世界でもないが。もし俺にとって楽しい世界だったとしても。
「良しとはしないだろうな。先は見えないわ給料は低いわ年々体は辛いわで、あっちの世界も不安しかないっちゃないけど……。絶望するほど嫌な世界なわけでもないんだよ」
不安は確かにあるが、好きな漫画の続きは気になるし、やりこみたいゲームもあるし、ゴロゴロするのも好きな方だし。彼女はいないにしても、親もいるし親友と呼べるほどではないがそこそこ仲の良い奴もいる。
「ほどほどに生活してるからな。全部放り出してまで楽しい世界へ行けるほどの勇気もないんだよ」
『そういうものぷん?』
「そういうものだよ」
思ったより長湯をしてしまった。太郎もほまれの家族も待っているだろうしそろそろ出よう。
『お前のいる未来はどうなってるぷん?』
真面目な話は意外と続いていたようで、湯船をたゆたいながらカッスはそんなことを口にした。ここからすると、まあ未来だな。
「車は空飛んでないしどこでも行けるドアもなければ宇宙旅行も遠い話で、仕事は結局紙ベースでハンコ押してるけど……それなりにハイテク感はあるかな」
あくまでこの年代に比べればの話だが。
「ま、すごい楽しいところってわけでもないけど。一回くらい来れたらいいな」
そうして今度こそ風呂を上がる。カッスもついてきたようで、一緒にドアを開けて脱衣所へ。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ものすごい速度で鍵をかけたドアノブが揺れていた。
「なんなの怖いよホラーかよ!」
『太郎が心配して待ってたぷんね」
「ありゃヤンデレがやるやつだよ!」
服を着て太郎に無事を分かってもらえたのは、語る予定はない別のお話。




