新人は体力勝負のようで(相手視点)
まさか、同姓同名なだけで別人かと思っていた相手がご当主様で紛れもない実力の持ち主だとは思ってもいなかった。
そもそもこの学園に入学したと言う噂さえ信じていなかった。
言われてみれば、理事長や校長、教頭までもが必死になって僕に対して思い直すように説得したり証拠を出してきていたな…。
その時点で冷静になって考えることができればこの状況に陥らずに済んだのかも知れない…。
勢いのまま突っ走ってきた結果、今、僕は地獄の入り口に立たされている。
慈悲深いのか容赦がないのか、最初の一撃は譲ってやると言わんばかりに腕組みをしてこちらを見ている青年。
否、鬼。
もしかしたら、鬼すら甘いかも知れない。
余談だが、海と霧にこの日の映像を見せたところ
「まるで仏のような優しい訓練じゃない」
「これなら、毎日でも良いな」
との事であった。
その後にコメントを聞いた俊哉に彼らのレベルに合わせた地獄を体験させたとかなんとか…。
このコメントを興味本位で聞き出した男子生徒はその訓練の様子を見て三日三晩引き篭もったらしい。
その事について我が学園の新聞部部長の女生徒が俊哉に直撃取材したところ。
「君も二の舞になりたくなければおすすめしないな」
「これでも記者の端くれですから…引き返しません!」
「そうか…なら訓練室で実際に見てもらおうか」
彼女はその後、男子生徒と同じ道を辿りその後絶対に記事にしてはいけないモノだと部員に言い聞かせたようだった。
本題に戻ろう。
僕はこれから地獄の門を開かなければならない。
引き返すことも許されず、せめて一矢報いるしかないと割り切り全力で当主に向かって行く。
この学園でまさか走馬灯を体験する事になるとは…。
僕の戦術は徒手格闘スタイルなので否が応でも近づかなければならない…悲しい現実だ。
「ソニックフィストぉぉぉぉぉ!」
音速の拳を放つ。普段であればその衝撃波だけでも十分、相手を吹き飛ばすほどの威力だが…なんせ相手は俊哉である。
涼しい顔をして受け止める。
「君の一撃の全力は確認したよ。じゃあ次は連撃の全力を確認したいかな?」
あっさりと受けとめてあろう事か別の形で全力を向けろという。
打てば響く鐘ではなく、打てども変わらぬ壁だった。
最も壁よりも質が悪い気がするが…。
その後もあれこれやらされ、疲れ切ったところでストップが入る。
「よし、君の実力は確認できたかな。もう良いよ」
体感時間は1時間以上だが実際は3分も経っていない。
「これから君のレベルを1段階だけ上げる訓練をしようか」
この時に阿部は悟った。
(あぁ…1段階でこの地獄か…僕には四季派閥なんて遠すぎる)
側から見ていれば遅すぎる気付きではあるが、聡明な判断でもあった。
「それじゃまずは俊敏性をあげよう。頑張って避けないと骨折くらいは最低でもするからしっかりしなよ」
「っっ!?」
俊哉の背後に無数の剣が浮かぶ。
どこからその剣たちが出てきているのか全く訳がわからない状況だが、気にしている暇がない。
何せ次々と僕を狙って打ち出されているうえに、外れるとすぐに当主のもとに戻って再び狙ってくる。
時には受け、流し、跳ね返し、躱し何とか致命傷を避ける。
「よしよし、良い感じに生きてるね…そしたらまだ限界くらいだろうからもう少し、本数を増やそう」
まだ増やすのかよ!?仰る通り、もう限界まで神経をすり減らしているんですが!?
「なんか凄い言いたそうにしてるけど、この後まだまだ3個くらいのメニューこなしてもらうからね。覚悟しておきな?」
僕はその言葉を聞いて思考を放棄した。
ただひたすらに生き残るために体を動かし続ける。
どれほど時間が経ったのか、もはや自分の体が立っているのか座っているのかすら分からなくなった時、ようやく当主様が手を止める。
「よく、耐えたね。これであとはしっかり休息を取れば君はもう以前とは1段階強くなっているはずだよ」
その言葉を聞いた僕はそっと意識も手放して暗い世界へ落ちていった…。




