別世界に飛ばされるのも悪くないようで
真っ暗な世界に沈み込んだ俺はしばらく海の中を漂っている感覚をしばらく味っていた。
遠くの方から聞こえてくる剣戟の音が程よく聞こえてきて心地良くなっていた。
しかし、その剣戟のおとが激しくなりその音自体も近づいてくる。
俺はこの心地いい状態を邪魔されたことに少し苛立ちながら目を開ける。
目を開いたその前に広がっていた光景は一瞬自分が死んだのかと思うほどに眩しい白に囲まれた闘技場。
「こんな闘技場がこの世に存在していたとはな…」
「君のいた世界ではないよ」
突然真横から声がする。
横を見るとそこにもまた白い輝きを纏った、人影が立っている。
「君は一体誰かな?」
「そうだな…君の世界の言葉で表すなら…そうだな、精霊とか神様とかの方が近い感じがするかな?」
「なるほど…まぁ、実態がなくてそこそこに常識じゃ考えられないようなことが出来る存在とでも思うことにするよ」
「そうだね、君と話すことなんてそうそうないだろうしそんな捉え方で構わないよ」
それにしてもこんなところに移動した覚えがないのだが…。
それは、まだいい。
先ほどから、闘技場の真ん中にあるステージのようなところで二人の剣士が戦っているがその二人が振るっているものに俺は見覚えがあった。
陽剣を振るうのはいかにも西洋風の鎧を身に纏いがっしりとした体格の男。
その男が振るう一つ一つが重く命を刈り取る威力を持っているのが遠くからでもわかる。
枯月を振るう男は侍とまではいかないが鎧を身に付けておらず和風の雰囲気の細身の男。
その男は相手のその強力な斬撃を時には受け流し、切り返し、躱す。
全くの対極の戦闘スタイルだが実力が拮抗しているのかお互いに決定打を打てていない。
俺からすれば何とも低レベルな試合ではあるが、特化している技術に関しては素晴らしいの一言だった。
動きばかりに気を取られていたが、西洋鎧男の構えはまさに冬月家に伝わる陽剣を振るう時の型。
和風細身男は枯月を振るう時に伝わる型。
俺はその両方に適性があったためその型を崩して使っていたが、ここまで完成されていると一種の芸術のようにまで見える。
が、これを剣が見せているとすると何を伝えたいのかが分からない。
これだけを見てしまうと二刀を同時に使うのは無理だと思わせているようだ。
「果たしてそれだけを彼らは伝えたいのかな?」
横にいる女性が声をかけてくる。
その声には答えず、二人の戦いに集中する。
そして気付く。
二人が使う型は全て始まりと終わり方が同じな事、距離の取り方踏み込み具合。
力や技術の使い方はそれぞれ違うが、基本は同じ動きであることに。
これを伝えたかったのかと理解した時再び女性の声がする。
「君ならそこに辿り着けると思ったよ」
微笑みを含んだその声に振り返るとそこにはドレスのような白い鎧を纏った女性が。
「あなたは…世界最強の剣豪…いや、三年前に失踪してからはその座は空席になっている…そうなるとあなたは…」
俺のその問いに答える事はなかったが、白い輝きが増していくその世界でその女性といつの間にか彼女の後ろに並ぶ男たち。
「またもう一度出会えることになりそうね?」
その声と微笑みを最後に俺の意識はまた真っ暗な海の底へ戻る。
ほんのりと訓練場の雰囲気と匂いが戻ってくる。
しかし聞こえてきた音は穏やかな心境とは裏腹に切り結ぶ音があちらこちらから響いていた。




