8話 ハイテンション過ぎてなに言ってるのかわかんない
俺はタイラントさんと共に例の宿屋の前にいた。ふふふ、天使(比喩)で天使(事実)なタイラントさんと2人きりだ。男として何かを期待しないわけにはいかないだろう。
「ふふふ、リューダ―さんと2人きり~」
ん?タイラントさんが何か言ったような……。俺耳遠くなったかな?大学生としての俺ならともかく、アポカリプス・リューダ―である俺なら野伏のスキルもいくつか修めているし、耳が遠いってことはないだろうに。
「すいませ~ん……ってあれ?誰もいないな」
宿屋のドアを開けるものの、カウンターには誰もいない。普通はここに店員がいて、お題を貰うんじゃないのだろうか。やっぱり地球の観光地にある宿とは違うな。
「書き置きとかはありませんかね~」
「お、あったぞ」
えっとなになに……
ここに入居したかったら儂を見つけるところから始めるのじゃな。といっても、ノーヒントじゃとちと難しいじゃろうから、ヒントを与える。儂はこの街で一番の魔法使いじゃ。 BY店主
「……おいおい。認めないと入居できないって、こういうこと?」
「そういうことみたいですね~」
はあ、マジか。めんどくさいが、探しにいこう。っていうか自分でこの街で一番っていうか?俺じゃあ言えないな。
「確かリューダ―さんは魔法広範囲化のスキルは修めてましたよね」
「ああ。だからそれで探すよ。魔法広範囲化〈鑑定〉」
俺の中に、この街の全ての人間の情報が入ってくる。通常の〈鑑定〉では1つずつしか情報を得られないが、魔法広範囲化によってこの街全域を〈鑑定〉の効果範囲に収めることができる。ゲーム時代は軍隊クラスの魔物の中からボスを探す時によく使った手だ。
「……こいつか?」
冒険者なら魔法を使えるやつは少なくみたいだが、その中でも飛び抜けて強いやつがいた。確かに、ここまで魔法の実力に差があったら一番を名乗ってもおかしくない。
「その人、どこにいますか~?」
「ここから南西に480メートル。冒険者ギルドっぽいな」
「結局、戻るんですね~」
「そうだな」
●
〈鑑定〉がもたらしてくれた位置情報をもとに冒険者ギルドの廊下を歩き、俺とタイラントさんは店主がいるであろう部屋の前まで来た。
「……ギルド長室」
「まさか、店主とギルド長を兼業してるんですかね~」
なるほど、ギルド長ってことは元冒険者なのか。今でも〈鑑定〉の通りの実力なら、現役時代はよっぽど強い魔法使いだったのかもしれない。でも、店主も兼業するほどギルド長って儲かんないのかは微妙なところだな。
「おいそこの。なぜ入ってこないのじゃ。儂に用なのじゃろう?」
「「……え?」」
「ほれ、入ってこんか。どこの上位冒険者かは知らんが、ギルド長を待たせるんじゃないのじゃ」
「あ、はい。失礼しま~す」
困惑しながらもタイラントさんはドアを開けた。後に続いて俺も入る。
「何じゃ、準兵士級ではないか」
部屋の奥にいたギルド長は俺たちに首にあるプレートを一瞥して呆れたように言った。いや、実際呆れているのだろう。ギルド長に会いに来た上位の冒険者かと思ったらただの準兵士級だったのだ。俺だったら仕事の手を止めてまでは入室させないような下っ端なのだ。
「いや、俺たちは宿屋の店主に会いに来たんだけど……」
「ははは、それこそ有り得ぬわ。たかが準兵士級が儂の副業を知っているわけがない」
「いやいや。知らなかったらどうしてこの話題になったか説明できないじゃないですか~」
まったくだ。その程度もわかんないほどの歳には見えないけどな……。
タイラントさんに言われてギルド長はポカンとしている。きれいなお顔が台無しですよ~?
「……どうやって儂を見つけたのじゃ。準兵士級ごときに儂を見つけられるわけがない」
「リューダ―さんが〈鑑定〉で見つけたんですよ~。流石リューダ―さんです~♡♡」
「は?鑑定じゃと?……いや待つのじゃ。お主、リューダ―と言ったか?」
「ああ。確かに俺はアポカリプス・リューダ―だが、それが?」
するとギルド長は嗤い出した。
「――はははははははははは!!なるほど、お主がガヴォンダを瞬殺したルーキーか!ならば儂を見つけてもおかしくない!」
「ええ?なにこの人」
「儂をはるかに超える魔法使い、先人未踏のレベル90。アポカリプス・リューダ―!!お主に決闘を申し込む!!」
ええ?なにこの人。ハイテンション過ぎてなに言ってるのかわかんない。
「なら、リューダ―さんが勝ったらあそこに入居させてくれますよね~」
よくこんな狂人に要求を言えますねタイラントさん!?俺の中でタイラントさんの評価が更に上がった。
「うむ。もちろんじゃ。さあ、早く訓練場に行くぞ!」
次回の投稿は10月21日(月)を予定しています。次回もお楽しみに!