5話 ヒック
あれから数時間、森が消滅してしまったこと以外は何事もなく街につくことができた。当然攻撃なんて誰も受けていないし、魔力の消耗も全快した。自分で言うことじゃないけど、曲がりなりにもゲームではトップクラスのプレイヤーたちだ。ワイバーン程度相手にならない。
それに、「破壊者たちの宴」の掛け声で破壊を宣言したからには殲滅以外の道はない。俺たちにとっては一種の誇りみたいなものを引き立てるものなんだ。この点だけはましろとも意見が合う。
「……結構並んでるね」
カタさんが言った。確かに城門の前には長蛇の列ができている。特に商人のような人が多いし、商業が盛んなのか?
「そういえば、拙者たちはこの世界の言葉を知らないと思うのだが……。タイラントよ、どうなのだ?」
「大丈夫ですよ~。追放とはいえ、言葉や文字は理解させといてやるって上司は言ってました」
ほっ。それなら安心だ。っていうか、意外と天界優しいな。タイラントさんの代わりに怒りが向いてたけど、評価を一段上げておいてやろう。……何様だ俺。
「こんな長い列、どっかの精神年齢3歳は我慢できるかなぁ?」
「うるせぇましろ」
「あれあれぇ?私は別に豚のことを言ったわけじゃないのにぃ。えーんえーん」
「棒読みがすぎる!」
ああもうこいつと話してるとイライラする。平常心平常心。
そんなことより、この列はどのくらいで前まで行けるのだろう。あんまり長いと悔しいがましろの言う通り我慢できなくなってしまう。
……頼む行列の神様。俺のプライドのためにも早くこの列の先頭に行かせてください。
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……長い。俺の願いは届かなかったようだ。
「ねえ君たち、見ない顔だけど、この街で何を売るんだい?」
「え?」
俺たちに声をかけたのはふくよかな男性だった。馬車に大量の荷物を載せて、いかにも商人という雰囲気を漂わせている。
「いえ、別になにか売ろうというつもりじゃないんですが……」
「そうなのかい?ならこっちは商人用の列だから、あっちの一般用に並びな」
「あ、そうなんですね~。みなさん、あっちにいきましょう」
タイラントさんが一般用の列を指差す。そこに並んでいたのは冒険者のような服装をした数名の男女だけだ。
「おやおやぁ。これは豚、キレちゃう?」
「ふ・ざ・け・んなぁぁぁぁああああ!!」
仕方がないんです。こんなん、ありえないないじゃないですか。ひどすぎます。
●
「次の方どうぞー」
「はい~」
早い。スピーディー。あの苦労は何だったんだ。
げっそりした俺を含む5人は呼ばれて受付に向かう。
「はい、こちらの書類に名前とここに来た目的を書いて提出してください」
はいはい書類ね。アポカリプス・リューダ―、街があったから来ましたっと。
「ありがとうございます。あちらの門からお入りください」
「お仕事ご苦労さまですぅ」
「いえいえ」
っち。ましろのやつ、こういうときだけ人当たりがいいんだ。八方美人って言葉がここまで似合わないやつがいるもんか。いやいない!(こいつを除く)
ワイワイ ガヤガヤ
街の中は喧騒に包まれていた。既に街の中に入っていた商人が出店を開き、冒険者がところどころで決闘をしている。にぎやかで、なんともいえない安心感があった。
「……王国屈指の商業の街サカッスタに来たらこれを食え!サカッスタ魚の刺し身。ここはサカッスタって言うらしいね」
俺たちの頼れるカタさんが看板から情報を得る。というより、怪しい看板だな。この辺そんなのばっかりだ。サカッスタ茶にサカッスタ焼きどり。うわ、サカッスタお好み焼きなんてのもある。なんで異世界にお好み焼きがあるんだよ。
「この世界には冒険者ギルドなんてものがあるらしいですよ~。先輩が言ってました」
「ほう。殿、行ってみます?テンプレートなら魔物を倒して生計を立てる商業ですが……」
「面白そうだね。みんな、行ってみよう」
ということで冒険者ギルドに行ってみた。
掲示板に貼られた依頼書を呼んでいるパーティーがひとつ。飲んだくれてそれに絡んでいる冒険者がひとり。
「ヘイ!ニーさんたち。登録に来たのか?」
うっわ。世紀末。
モヒカンは確かに物語でこういう役回りが多いけどさ、本当に見てみると怖いっていうかキモい。
「ならこっちのカウンターだぜ?っても、ニーさんたちみたいなひ弱なやつらじゃテストには受からないだろうけどな。ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「うっわ」
顔に出さないでやってタイラントさん。ほーら、美少女に引かれた男はあんな顔をするんだよ。どんな顔かって?あんな顔。
「こらこら。登録志望者にそんな事言うのはやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか!」
「ル、ルーナさん!?こ、これは……」
モヒカンは自分で案内したカウンターの受付嬢にデレデレしている。モヒカンの赤面なんて誰も見たがらねーよ。ったく、気持ち悪いもんみた。
「冒険者志望の方ですね?」
「あ、はい」
「ならあちらの部屋にどうぞ。ちょっとガヴォンダさーん、テストお願いしてもいいですかー?」
ルーナとかいう受付嬢の呼びかけに応えたのはロビーで飲んだくれていた冒険者だった。ガヴォンダっていうのか。
「おうおう、随分と美形揃いじゃあねえか。ヒック」
そりゃゲームのアバターの見た目ですから。
「んじゃこっち来いやぁ。お前らの実力、このガヴォンダ様が見極めてやるよ。ヒック」
次回の投稿は10月11日を予定しています。お楽しみに!