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5.同じイルカヤマ中学の1年、桜宮マドカです

「空野先輩ですよね?」

 と再び少女は言った。

「え?」

「私、同じイルカヤマ中学の1年、桜宮マドカです」

「………」

 カヤには見覚えがなかった。

 そもそも1年生との接点は部活をのぞけばまったくないと言っていいほどだ。

 カヤの所属する剣道部に今年入った1年生は数人いるが、目の前の少女に心当たりはない。

 カヤの疑問を察したかのように桜宮マドカと名乗った少女が言う。

「先週、部活見学で剣道部にお邪魔しました」


 ……そう言えば、そういうことがあった。

 新年度が始まってしばらくしてのタイミングで開かれる部活見学会。1年生たちは校内の部活を様々に見学し、入部を検討するのだが、その見学の生徒たちが先週、剣道部に来たのだった。

 見学するまでもなく剣道部入部を決めていた1年生たちが「あ。見に来たんだ」と言っていたのを思い出す。

 なるほど、その中にこのマドカという少女もいたようだ。


(でも、なぜ私の名を……?)

 と考えて、すぐに分かった。

 剣道着の大垂の部分には苗字が織り込まれている。

 それを見たのだろう。


 とは言え、ここで自分が「空野先輩」だということを肯定するわけにはいかない。

 一方で、天使として嘘をつくのはどうかという思いもあった。

 カヤにできることは肯定も否定もせずに立ち去ることだけだ。


「では、お気をつけて」

 とだけ言って、そのままふわりと上昇する。

「あ!」

 とマドカが見上げ、腕の中のチワワが「くーん」と鳴いた。


「なんだよ、知り合いか?」

 上空でいまの様子を見ていたらしいデビーが言った。

「まずいことが起きました」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 昼休みのことだ。

 カヤが自分の教室でクラスメートたちとたわいのない話をしていると、ふと目の端にこちらを見ている誰かをとらえた。

 さりげなく視線をやると……廊下から扉に隠れるようにしてカヤを見ているマドカがいた。

 視線が合ったが、カヤは平静を保つ。

 ここで何らかの感情を表に出したら、今朝の出来事を知っているということになる。

(顔に出しちゃダメ)

 と言い聞かせながら、クラスメートに「へえ、それで?」とあいづちを打つ。

 

 マドカは放課後にもやって来た。

 カヤはやはり知らないふりをする。

 とは言っても、あからさまに無視をするのもまた今朝の出来事を意識しての行為ということになるので、その調整が難しかった。

 カバンに教科書を入れ、席を離れたカヤにクラスメートの一人が声をかける。

「今日も部活?」

「うん」

「がんばってね〜」

 その声に手を振って応えながらカヤは教室の出口に向かう。


 その先にはマドカが待っている。


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