4.我々の行為はどう考えても恥ずべきものではないか
「シロナガス公園」
と、デビーのぶっきらぼうな声が耳に響いた。
「酔っ払い二人が女の子に絡んでいる」
カヤは回想から現実に戻った。
頭上に浮かんでいる輪っかが再び光を放ってまわっている。
「分かりました」
「チワワを連れた女の子だ」
そのシロナガス公園の上空。
デビーが浮かび、腕組みをしながら下方にいる人間を睨みつけている。
そこにはチワワを胸に抱いた少女がいて、彼女に迫るように二人の若い男がニタニタ笑っている。
「ねー。いっしょにお散歩しよーよ」
「ジュース、おごったげるからさー」
近くに自動販売機があり、缶入れが倒されている。
「まったくバカどもが!」
「お待たせしました」
と、そこにカヤが到着する。
「たぶん学生だな。朝まで飲んでいたようだ」
とデビーが吐き捨てるように言う。
「後は任せてください」
とカヤは急降下し、三人の側にふわりと降り立った。
「!?」「!?」「!」
と三人はそれぞれに驚愕の顔を見せる。
少女の胸に抱かれているチワワだけがうれしそうに尻尾を振っていた。
(学生とは言っても、もう大人)
とカヤは若者二人を冷静な目で見る。
(それなのに、こんな女の子に……)
カヤは手首をひねってリモコンをつかみ、学生に向けて「自立」ボタンを押す。
ビームを浴びて硬直した後、弛緩した二人は、その場で腕組みをして難しい顔で対話を始める。
「田中。いまの我々の行為はどう考えても恥ずべきものではないか」
「鈴木。まさに君の言う通り、成人男性が取るべき行為ではない」
「このような行動に至ったのは、就職活動が思うように進まず、それでヤケ酒を飲んでいたためと考えられる」
「その結果、恥ずべき行為を取り、しかもそのことでこの少女を怯えさせた。トラウマになってなければいいが」
「まずは謝るべきだろう」
鈴木がそう言って、静かに少女の足元に土下座をする。田中もそれに続いた。
「申し訳ございません」
少女は困惑した顔で数歩後ずさる。
「あの、そこまでは……」
「いえ、我々は恐ろしく愚かなことをしました。どうか謝罪させて下さい」
「………」
二人はそれから1分近く地面に額をすりつけていた。
やがて立ち上がり、また少女に頭を下げたあと、今度はカヤに深くお辞儀をする。
「我々の愚かさに気づく機会を与えて下さって、ありがとうございます」
カヤは黙ってうなずきかける。
二人はまた一礼をして去っていった。
二人を見送った後、カヤはチワワを抱えた少女に向き直って言った。
「大丈夫ですか?」
「………」
少女は応えず、カヤの顔を凝視している。
生の天使を見てビックリしているのだろう、とカヤは内心で苦笑する。
すでに何度か経験していることだ。
ところが、少女がカヤを凝視していた理由は他にあった。
「空野先輩、ですよね?」
と少女が言い、今度はカヤが激しく驚愕する番だった。