13.年に一度でいいから、静かな誕生日を過ごしたいものだわ
「それよりマドカ。剣道、続けられそう?」
「大丈夫。思ったより楽しいんだよ」
「最近はよく食べるようになったしね」
「え! 私、太った?」
フォークに刺したロースト肉を口に入れかけていたマドカは思わず固まる。
「あなたくらいの歳の子は、そんなの気にしちゃダメ」
「そうなの?」
「そう。身体の基本をつくる時期なんだから。変にダイエットなんかしたら、将来取り返しのつかないことになるわ」
「ふーん。ダイエットはしなくていいのか」
「そうよ。ましてや運動してるんだから。ちゃんとしたものを食べている限りは気にしない」
「わかった」
ニコリと笑い、肉の塊を口に入れた。
じじ、じじ、じじ……。
その時、マナーモードにしていた圭子のスマホが振動を始めた。
発信元を見て、圭子は顔をしかめる。
「仕事?」
と尋ねるマドカに圭子は肩をすくめて言った。
「年に一度でいいから、静かな誕生日を過ごしたいものだわ」
店を出た二人は夜の歩道を駅に向かっている。
「今日は徹夜になりそう。パパのところに泊まって」
「はーい」
「ごめんね……いつもこんなことになって」
「別に気にしなくていいよ。お料理も美味しかったし」
「ふう。まったく、見開きまるまる差し替えなんて……」
と圭子は空を仰ぐ。
やがてイカオオジ駅に着いた。
しかし、圭子は改札を通ろうとせず、スマートフォンに耳をあてたまま眉をひそめていた。
「出ない。きっと走ってんのね」
と言って呼び出しを切る。
留守電にメッセージを残すよりも直接言っておきたかった。
「私なら大丈夫だよ」
「ダメ」
と首を振る。
元夫の沖田にマドカを駅まで迎えに来るように連絡しようとしたのだが、沖田は出なかった。
おそらくはランニングに出かけているのだろう。
沖田の住む家はサケノハラ駅から歩いて10分程度だ。
しかし、夜道を中学生の娘に歩かせることに圭子は抵抗を感じていた。
「だったら、駅から電話する」
「サケノハラ駅って公衆電話、あったっけ?」
「あるよ」
「そう
逡巡したが、仕事も気がかりだ。
「じゃ、そこからパパに電話して。くれぐれも、一人で行くようなことはしないでね」
「大丈夫なのに」
「ダメったらダメ」
「ぶー」
とマドカは頬を丸くふくらませる。
その頬を指でつっつきながら圭子が言う。
「やっぱりもうケータイ持った方がいいのかもね」
「まだ早いよ」
圭子は肩をすくめてサケノハラ駅までの切符を買い、マドカに渡す。
「はい、これ。ついでにこれも」
と差し出したのは紙幣だ。
「もし、パパがつかまらなかったら、タクシーに乗って」
「5分もかからないのに? ヤな顔されちゃうよ」
「それがタクシーに乗るってことなの。割り切らなきゃ」
「ぶー」
そんなやりとりをする二人の背後に、駅の柱に背を預けながらスマートフォンを見ているスーツ姿の男がいる。