97.灯台下暗し
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26.ヘビのポーズ
にヘビのポーズの挿絵追加。
そう思いつつ王都を駆け抜ける裏切り者だったが、このメインストリートは名前の通り町のメインの場所で道幅も広いので、かなり人通りが多い場所として町の中では有名な場所だ。
それに国立図書館がある程の大きな町なので、北の方では1、2を争う程に栄えている。
それもまた、余計に人混みでメインストリートや横道が混雑しがちな原因を作り上げているので、地上から追撃をしているギルドの冒険者達はその人混みでニールを見失いそうになっている。
人混みを掻き分け、武器を振り回してもこの町のギルドにはセレイザから通達が出ているので捕まる事が無いのは救いと言える。
その反面、この人混みはニールに取って大きな味方になる。
そもそも今現在住んでいるアメリカのサンディエゴを始め、旅行で行った日本の東京の渋谷にあるスクランブル交差点の人の流れを避けたり、その東京の鉄道である山手線に乗る時に運悪く通勤ラッシュに巻き込まれたりと言う人の流れを数多く経験している。
大都市への人口集中から生まれた人混みの多さに今ばかりの感謝をしつつ、ニールはさっさと追っ手のギルド連中を振り切ってしまうべくスピードを上げ……。
(いや、ちょっと裏をかいてみるか。今までの流れからすると、あのギルドの奴等は俺がこの人混みの多さに乗じて逃げ続けると思ってるんだろうが……)
80パーセントは正解。しかし残りの20パーセントはギルドの追っ手が考えている裏をかく作戦に出た。
生身の人間である以上、走れば走るだけスタミナの消耗もするし、何より時間経過で情報収集がどんどん困難になるのは目に見える。
だったら「走って逃げなければ」良い。
せっかくこの世界の人間達が作り出している人混みが自分のすぐそばにあるのだから、使えるものは最大限に使わせて貰う。
(日本の言葉で「押して駄目なら引いてみろ」と兼山には教わったが……押しても引いても最後には上手く行けばそれで良いんだよ!!)
そんなギルドの冒険者達が探し求めているニールは、「灯台下暗し」と言うのがピッタリの場所に居たのである。
すぐ近くに居る冒険者達から見て、直線距離にしておよそ70m。
追っ手達から本当にすぐ近くに居るのだが、この距離でも気付かれない様にする為の手段がニールにはあったのだ。
それは……。
(早く何処かに行ってくれ……!!)
武装して追い掛けて来ている連中は、この喧騒の中からでも割と目立つスタイルなのでニールからもその存在を認識出来る。
ニールはそのメインストリートの喧騒を利用し、さっさと細い路地へと折れてそこにある大きなゴミ箱の中に隠れたのだ。
(意外と見つからないもんだな)
自分から見える距離で、自分を見失って狼狽えているギルドの冒険者達が動くのをゴミ箱の中の臭いと一緒に我慢している。
路地裏に入ると全くと言って良い程に人気が無い事が着替えるのに好都合で幸いしたが、それだけではまだ逃げ切れない。
大勢から追いかけられている、と言う事実がそのゴミ箱に隠れさせる原因になってしまったのだ。
(路地裏に身を隠せれば俺だってそうしたかったんだが、あいつ等が数に物を言わせて挟み撃ちにする可能性だってあるし、もしそれで路地裏で挟み撃ちにされでもしたらアウトだからな!!)
そう考えている内にギルドの冒険者達は通り過ぎて行ってしまったらしく、何とか追跡状態から解除された様だ……とニールはホッと一安心。
だが、この先はどうすれば良いのだろうか?
パーティメンバーの他の4人とはぐれたままになってしまったのはかなり痛い。
とりあえずほとぼりが冷めるまでは何処かに身を潜めるか……と考えるニールだったが、それだと物事がまるで進まないし何時までも1か所に留まり続けるのも危険だ。
だったら何処か裏路地で情報収集が出来そうな場所を探してみよう、と思い立ってニールはゴミ箱から出て歩き出す。
(分からない事があったら、素直に他人に聞いてみるのが1番早いからな)
ここでも「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」の応用で「聞くは一時の恥、知らぬは一生の損」を実践しようと考える。
その言葉を思い出して、ニールは目の前に見えて来た雑貨屋らしき裏路地のショップに視線を向ける。
(でも、こんな格好でまともに話を聞いてくれるのか?)
ホームレスと間違われてもおかしくない臭いも相まって、今から既に情報収集に対して不安を覚えるニール。
今はこんなナリだが、着替える場所も無ければそもそも着替えも持っていないので仕方が無い。
地球だと臭い奴はお断り、と言うのはアメリカだけで無く世界規模でも常識だ。
それはこの異世界エンヴィルーク・アンフェレイアでも同じだろうとニールにも簡単にイメージ出来る。
しかし、自分は図書館の場所を聞くだけだし……と意を決して出入り口のドアを開けると、カランカランとドアにつけられたベルが鳴って来客を告げる。
その店の中に入ったニールは、店の奥にあるカウンターに立っている店主の元に一直線に歩いて行く。
自分がこれから目指すべき場所が有名ならば、きっとこの町の人間も知ってる筈だからと信じて。




