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92.エリアスの切り札

 この魔物(?)の名前はアディラードと言うらしいが、修練場のグループにとってこれを相手にするのはかなり劣勢である。

 スピードはかなりスローモーションで、攻撃方法も大振りのハンマーパンチを叩きつけて来たり、ローキックやサッカーボールキックの様に打点の低いキックをこれまたスローモーションで繰り出すだけなので避けるのは容易である。

 ロボットアニメに出て来そうな金属らしきパーツで構成されている2足歩行のデザイン。

 ニールはロボットにはまるで疎いのでどんなロボットも同じ様に見える。だが、相手にとって脅威であるのは良く分かった。

 地球とは違う世界なので、獣人だろうが魔術だろうがロボット(?)だろうが何があったって不思議では無いのだ。

 魔術で人間や獣人が空中に浮かび上がり、自分を追う事が出来る世界なのだから。


 戦っている人間や獣人の約10倍の身長があるこの大きな相手。

 例えその攻撃がスローモーションでも、まともに1発食らえば即座に命に関わるであろう。

 だから何が何でも避けるしか無いし、纏っている炎のせいで迂闊に近づく事も出来ない。

 ハンマーパンチ1発で土の地面がかなり陥没してしまう。

 キックでも地面が大きく削り取られる為、地面の形状が変わってしまって足を取られない様に攻撃を避けた後の行動にまでかなり神経を使わなければならない。

 この大きなアディラードのせいで、今まで数の暴力で優位に立っていた修練場のグループは一気に劣勢に追い込まれて行く事になってしまった。


 そうなると優位になるのは勿論、ニール達指名手配犯のグループである。

 アディラードの攻撃に巻き込まれない様に注意しつつ1人ずつ潰しに掛かる一方で、ニールは先程ユフリーの一言で没収されてしまったあのハンドメイドの武器を探す。

(ここから持ち去られてなければ良いけど……)

 せっかく作って貰った武器なのに、このまま使わず仕舞いで終わってしまうのは余りにも勿体無さ過ぎるし、シチュエーションにもよるが大方の場合は武器があった方が有利になるのは当たり前だ。

 さっき、ユフリーの一言に乗ったあの男を探して問い詰めれば済む事だろうが、この乱戦状態では何処に誰が居るのかもさっぱりである。


 しかし、それが見つかったのは全くの偶然であると言える展開になった。

「おいニール、受け取れ!!」

「っ!?」

 シリルの声が聞こえて来た方を振り向けば、目の前に2本の黒い物体が弧を描いて飛んで来るのが見えた。

 反射神経を駆使して寸ででキャッチしたニールは、それが何なのかが一目で分かった。

(これ……俺の武器だ!!)

 何処でかは分からないが、この武器を見つけたシリルが回収してくれたのだろう。


 それを両手に持ったニールはカラリパヤットの武器術の応用で、残っている修練場のグループを殲滅しに向かった。

 素手ではリーチの長いハルバードや槍相手に苦戦を強いられていたものの、二刀流のスタイルで武器を持ってしまえば後は突き攻撃を中心に攻める。

 アディラードの攻撃でよろけている相手の懐に一気に飛び込み、心臓を一突きにしたり喉目掛けて正確に貫いたりして仕留める。

 前に背後からの奇襲でヒルトン姉妹に殺されそうになった経験を活かし、他のメンバー達と共に1人残らず殲滅しに掛かる。


 それは闘技場を出て、修練場の出入り口に辿り着くまでも変わらない。

「善意の通報者」が誰なのか分からない以上、自分達の姿を見た者を生かしておいたらまたギルドに通報されてしまうのは目に見えている。

 なのでそれを阻止する為にも、なるべく全員殲滅した上で脱出を図りたいと思っていた矢先、ニールは仕留めた1人が最後に残したセリフが気になった。

 その仕留めた人物と言うのは、仲間内の手合わせの前に会話をしていたあの修練場の職員であった。

 彼もまた槍を持って襲い掛かって来たものの、その槍を右手の武器で弾いてから左手の武器で喉を狙って突きを繰り出すニール。

 だが、何時も確実に仕留められる訳では無いので首に刺さっただけで終わってしまった。


 それでも相手を無力化するには十分だったので、地面に仰向けに倒れた彼を目掛けてとどめを刺そうとするニール。

 しかし、その倒れた職員の口が動いて何か言おうとしている事に気が付いたので耳を近づける。

「何が言いたいんだ?」

「くそ……帝国のギルドが世界を席巻する前にここで終わるなんて……」

「は? おい、それはどう言う事だ!? おい、答えろ!!」

 思わず武器を両手から離して、その両手で彼の胸倉を掴んでガクガクと揺さぶるニール。


 が、職員の方はそれが最後の言葉となってしまったらしく、そのままガックリと首を力無く斜めに傾けて息絶えてしまった。

「……ちっ!!」

 大事な事を最後まで言わないまま死なれてしまっては、ニールとしても殺しても殺しきれない、悔しくそして複雑な心境になってしまう。

 だが、今はそれよりもこの地獄絵図になった修練場から脱出する方が先だと思い直し、手放した武器を再び拾い上げてニールは再び出入り口に向かって他のメンバーと共に進み出す。

 心に引っ掛かる事を色々と残しながら……。


 ステージ6 完

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