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90.獣人の本気

「……開始!!」

 審判員の合図でニールの最終戦、シリルとのバトルがスタート。

 1度バトルをして勝利しているとは言え、獣人であるシリルはニールにとってかなりやり難い相手だ。

 人間とは違う身体の構造を持っている上に、以前ミネットから聞かされたシリルの本気度合いの話を思い出したからだ。

 それでも今まで培って来たカラリパヤットのテクニックを存分に活かして、バスタードソードを構える狼獣人のシリルに立ち向かうニール。

 しかしシリルもシリルで伊達に狼獣人の1人として、そしてギルド所属の傭兵と言う名目で活躍して来ている訳では無い。

 人間はおろか魔物との戦いの経験もあるし、地球ではまず見る事の出来ない生物を相手に今まで身体中に幾つもの傷を負って来た。


 それでも、そんな人外の相手だろうがニールはカラリパヤットの戦い方しか出来ないのだから、今更ここで後には退けない。

 打撃技や蹴り技だけで無く、関節技も投げ技もそれから武器術も存在している武術を習っているので格闘戦にはそれなりのプライドを持っているのだ。

 今回はバスタードソードが相手なので、ミネットの時みたいに武器を取りに行く戦法で決着をつけようとする事は出来ない。

 かと言って、ユフリーの時の様にキックで攻撃を止めようとしても相手が両手で扱う武器の為に打ち負かされてしまうのが見て分かる。

 狼獣人故に人間の自分とはパワーも違うので、尚更打ち合いではパワー負けするのがニールには簡単にイメージ出来るからだ。


「はっ、はぁっ!!」

 バスタードソードのリーチと素早い突き主体の攻撃を活かし、自分の間合いを保ったままシリルは優位にバトルを進める。

 ジリジリと後ろに下がるニールだが、このままではいずれリングアウト負けに持ち込まれてしまうだろう。

 そこで意を決してチャンスを窺う。

(勝負は……)

 相変わらず突き主体で迫って来るシリルの攻撃に、僅かだがチャンスが見える時。

 それは……。


(そこだ!)

 シリルの使うバスタードソードは突き攻撃のみに特化した物では無く、薙ぎ払いや片手での振り下ろしも勿論可能である。

 だからたまに突き攻撃の中に横への薙ぎ払いをシリルは組み込んで来るのだが、その薙ぎ払いが繰り出されて来た瞬間にカラリパヤットの対人戦で培った反射神経を活かしてニールは身体を屈め、一気に下段からシリルの懐に飛び込む。

「くっ……」

 今度はニールの間合いになった2人の距離。

 今までの防戦一方の鬱憤を晴らすかの様に、ガラ空きのシリルのボディ目掛けてパンチのラッシュを叩き込む。

 それからシリルの首の後ろに腕を回して抱え込み、ムエタイでお馴染みの膝蹴りを連続で繰り出す。


 それから頭突きもシリルの顔面に叩き込み、ローキックでシリルの膝の関節から体勢を崩させる。

「うおらぁっ!!」

 ニールはとどめと言わんばかりにシリルの顔面目掛けてジャンピングニーの膝蹴りを繰り出したが、何とシリルはそこで上体を咄嗟に後ろに反らしてジャンピングニーを回避。

 それと同時にそのニールの膝を自分の腕を使って顔の上で受け止め、グイっと下に押し込み攻撃をキャンセルさせる。

「貰ったぜ」

「えっ……?」

 ポツリと呟かれたシリルのそんなセリフに、腕で押し戻された地面に着地したニールの動きが一瞬止まる。


 その動きが止まった所に、右腕をニールの膝の間から差し込んだシリルがそのまま彼を抱え込んでグイっと投げ飛ばした。

「うおわっ!?」

「ふんっ!」

 普段は確かにバスタードソードを使って戦うのだが、だからと言ってシリルも体術を全くやらない訳では無い。

 しかも狼獣人のシリルは、筋肉量も体格も人間のニールとはケタ違い。

 着ている服の上からでも分かる程に腹筋が割れ、胸筋もガッシリとしている男らしい身体つきなので、格闘技の世界で言えば何階級も違うのは一目瞭然だ。


 だからパンチのラッシュも頭突きも体格差とボディの硬さ故にニールの予想以上に効果が無く、シリルはすぐに立ち直る事が出来た。

 一方で、その体格差を利用して投げられたニールは何とか舞台の上から落ちずに済んだものの、起き上がろうとした所にシリルの前蹴りが入って更にぶっ飛ばされる。

「ぐえあ!?」

「そんなもんかあ!?」

 身体に力が入らないニールはそれでも痛みを堪えつつもう1度立ち上がったものの、シリルからの右ハイキックがとどめに側頭部に入って舞台の上にまた倒れ込んでしまう。

 もう1度ニールは何とか起き上がろうとしたが身体に力が入らず、審判の審判員がこれ以上は危険だと言う事でストップを掛ける。

「そこまでだ!」

「今回は俺の勝ちだが、また何時でも相手になるぜ」


 4連戦の最終戦で敗北を喫してしまったニールを見て、パーティメンバーからは思い思いに心境が語られる。

「あーあ、最後の最後で負けちゃったか」

「シリルはやっぱり強いわね」

「ニールも強い事は強いけど……やっぱり種族の違いか、それとも経験の違いかな?」

 ユフリーは何処と無く肩を落として落胆し、ミネットはシリルが勝った事で安心し、エリアスは自分なりにバトルの結果を考察していた。

 何時しか、鍛錬場の利用者もギャラリーとして興味津々に観戦していたバトルはこうして幕を閉じたのだが、まだこれから修羅場が待っている事をニールを始めとするパーティメンバーは知る由も無かったのである。

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