87.セカンドバトル
「よーし、じゃあ次は俺だな」
ニールに5分間の休憩が与えられ、次はエリアスが石舞台に上がって来た。
それはそれで良いのだが、ニールの記憶だと彼もまた弓使いだった気がする。
「もしかしてあんたも武器を変えるのか?」
さっきまで戦っていたミネットの例があるので、同じ様に武器を変えるのかとばかり思っているニール。
しかし、それは半分政界で半分間違いだったらしい。
「え? いいや、俺は弓の他に短剣も使うんだよ。だからそのショートソードだけで今回は戦う。ミネットと同じ理由で、弓は接近戦には1番向かない武器だからな」
「ああ、そう……」
それならそれで別に構わないけど、とニールはエリアスの使う武器を聞いて思ったが、それでも傭兵として活動していると自分で言うだけあって、決して油断出来ない相手なのには変わり無いだろう。
接近戦が出来ないとばかり思いこんでいたせいでミネットの実力を甘く見ていた事もあり、思いも寄らない苦戦を強いられたのがさっきの初戦だったのだから。
今回はショートソードを使う事もある、と自分でエリアスが言っているのでミネットよりも確実に接近戦の場数を踏んでいるだろうと判断し、先程よりも更に気の抜けないバトルになる事を予感するニール。
「それでは次の戦い……始め!!」
審判の号令が掛かり、4連戦バトルの2戦目の火蓋が切って落とされる。
まずは拳を構えてニールは先制攻撃を仕掛けようとするが、ニールの動きに合わせて上手くショートソードを突き出すエリアス。
そこで一旦ニールは身を引き、もう1度攻撃を仕掛けるもののこれまた上手い具合にショートソードを向けられる。
そこから一気に踏み込んだニールはエリアスに殴り掛かるが、上手くエリアスもショートソードでブロックしつつ、ニールの腹を膝蹴りで突き上げて来た。
「ぐあっ!」
割と荒っぽいやり方でこのエリアスは攻撃して来るな……と感じるものの、それでもニールは臆せずに攻める。
向かって来るエリアスのショートソードをボクシングの試合の如くスウェーでかわしてから、小さくジャンプしてエリアスの胸に右のパンチを叩き込む。
「ぐっ……!?」
思い切りの良いそのパンチに、思わずエリアスは後ろに倒れ込んだ。
今度は間合いを一旦取ったニールが2連続回し蹴り。
そこから右のハイキック、エリアスの攻撃をかわして左ハイキックと繋げるが、今度はエリアスのショートソードが襲い掛かって来る。
「ぐ……っ!」
ギリギリで回避しつつ一瞬の隙を突いて右のミドルキックでエリアスの腹を蹴飛ばし、下段回し蹴りを繰り出すがこれは避けられる。
そこから右のハイキックに素早く繋げたが、大きくニールは空振り。
(しまっ……!!)
そう思った時にはエリアスの右足が右の太ももに振り下ろされ、右足全体に大きな衝撃が伝わってニールはバランスを崩す。
そこに追撃でショートソードが襲い掛かって来るが、ギリギリで回避するニール。
だが、回避姿勢から立ち直り切れていないそんなニールの顔面に、今度はエリアスの右回し蹴りが炸裂する。
「ぶぐおっ!!」
顔を勢い良く蹴られてニールはきりもみ回転しながら地面に倒れ込み、勢いがようやく石舞台のふちで止まる。
「そんなものか。今なら落とさないでおいてやるよ!!」
ショートソードを構えつつ、ニールの首を足の裏で踏みつけてそう忠告するエリアス。
だが、ニールは目の前に見えるエリアスの股間に右手を伸ばして思いっ切り握り潰す。
「ぐおぁああああっ!?」
男の大事な部分を握り潰される痛みは同じ男のニールにもイメージ出来るので、それによって怯んだエリアスを見ながらニールは立ち上がる。
「がはっ……はぁ、はぁっ……!!」
やるじゃないか、とエリアスを心の中で認めつつも自分だってこのまま負ける訳にはいかないニールは、一気にエリアスの懐に飛び込んでパンチのラッシュを浴びせる。
更に左ハイキックをエリアスの側頭部に入れて、さっきの腹への前蹴りのお返し。
「ぐうっ!」
ギリギリで持ち堪えたエリアスが完全に体勢を立て直す前に、今度はニールの左回し蹴りが逆の側頭部に炸裂。
「うおぐっ!」
エリアスが倒れ込んだので飛び掛かろうとしたニールだったが、咄嗟にエリアスはニール目掛けてコートの懐から取り出したダガーナイフをスパッと投げつけて怯ませる。
その短剣で動きが止まったニールの腹に右足を突き出して、追撃の飛び掛かりを阻止。
「ぐほはっ!?」
お互いにダメージを受けつつも再び立ち上がったが、ここでニールがエリアスを見てある事に気が付いた。
(……あれ……?)
更に突っ込んで来たエリアスのショートソードを避けつつ、気が付いたポイント……エリアスの着ている黄緑のロングコートのすそがヒラヒラしているので、それを掴んで下からすくい上げる形でエリアスを地面に転ばせる。
「うおあわっ!」
そして立ち上がって来たエリアスの顔面に左の回し蹴りを食らわせてぶっ飛ばし、もう1度立ち上がろうとしたエリアスの顔面に今度は左のパンチを全力で叩き込んで、石舞台から文字通り叩き落とした。
「うあーわっ……!!」
叫び声を上げてエリアスは石舞台から落ちて行き、ニールの2連続勝利となった。




