83.北の修練場
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27.猫のポーズ
に猫のポーズの挿絵追加。
相変わらず悶々としているニールの元に、およそ20分位して3人が戻って来た。
「どうだったの?」
「遺跡の手掛かりは少しだけどあったわよ」
「本当か?」
ミネットのセリフに期待が高まるニールとユフリーだが、その仕入れて来た手掛かりと言うのがどうやら回り道をしなければならないルートの様だった。
「ここから北北西に向かった所に、ハーベルクの修練場って言う冒険者を鍛え上げる為の大規模な施設があるんだって。そこの冒険者の連中は手練れ揃いで、大多数が北の方から集まって来ているらしいから北方面の情報ならそこに行けば分かるんじゃ無いか……って話だったわ」
「北北西か……でも冒険者が集まる場所だったら、それこそギルドの連中と繋がりがあるんじゃないのか?」
「確かにそれはそうだけど、そこも私達が情報収集するから任せて」
「ええ。だからまた貴方は目立たない場所に居てくれればこっちで何とかするわ」
山脈を時計回りに迂回するルートで進軍しているこのパーティにとっては、少しばかり山脈から離れなければならないらしい。
まだ自分達が逃げて来た東の帝都側を調べていないので、そのまま東に向かう訳にはいかないのは時間が掛かる上に、余り回り道や寄り道をするとそれこそギルドの追っ手達に見つかる可能性がある。
だが、その時ニールは同時に2つのKOTOWAZAを思い出した。
(そうだ、そう言えばこれも兼山から教わったんだったな)
兼山と言う名字のその日本人は、自分に色々とKOTOWAZAや日本の文化を教えてくれた張本人のカラリパヤット使いでもあった。
わざわざ日本から精神修行の為に来た、と言っていた彼は同じ外国人同士と言う事もあって意気投合したニール。
今でも自分の数少ない友人の1人として、たまに連絡を取る仲の彼から教えて貰ったKOTOWAZAと言うのは「急がば回れ」「急いては事を仕損じる」の2つだった。
(確か「急がば回れ」が……急いで近道を行くよりも、回り道をしてでも確実に進む事の出来るルートの方が最後には成功するって意味の例え話だったな。それから「急いては事を仕損じる」は似た様な意味で焦って先に進もうとし、それで急いで失敗してしまうから気をつけろって意味だったか……)
その2つのKOTOWAZAを思い出したニールは、ミネットとユフリーの返答もあって北北西に進む事を了承した。
「分かった。ならそっちに向かおう。そこの施設の利用者達から何か少しでも遺跡の情報を聞き出せるなら、当然それに越した事は無いからな」
この町で得られた情報は微々たるものだったが、ステップ・バイ・ステップで少しずつ真実に近づいて行くこの展開こそが「急いては事を仕損じる」の意味なのだろうとニールは実感した。
そんなニールを中心としたパーティは、この小さな町から2日程進んだ場所にあるハーベルクの修練場を目指して今度は何とワイバーンに乗って行く事になった。
ワイバーンを使っての進軍の提案をしたのは、自らもワイバーン使いであるエリアスだった。
「ワイバーンを使う事が出来るんだったら借りて、さっさとそこに向かおう」
しかし、それに対してユフリーから反対意見が出た。
「ちょっと待って。それってどうしても目立つ可能性があると思うんだけど」
余り目立つ様な移動手段は避けて、それこそ馬を借りて行けば良いんじゃないかと言うのが彼女の意見だった。
しかし、そこについてもエリアスはきちんと見越した上での提案らしい。
「目立つ……ギルドの連中にだろう? それは俺もちゃんと考えてあるから心配するな」
「口で言われてもねえ……」
具体的に説明してくれないと納得出来ないわ、と言わんばかりのユフリーの表情。
だがエリアスは「そこは機密事項だよ」と前置きした上で更に続ける。
「ニールが言っていただろう? この中に裏切り者が居るかも知れないって。だったらこっちも裏切り者の目を欺く為に色々しなきゃね。だからここはワイバーンを使って、あえて目立つ作戦を取る。ギルドの連中の規模は大きいし、やろうと思えば少人数でこっそり近づいて来る事も出来るし大人数で数に物を言わせる形で追い掛ける事も出来る訳だしな。だったらこっちはこっちで少人数なりの戦い方をするしか無いだろう」
エリアスの考えている事が自分にはさっぱり分からないが、果たして他のメンバーは分かっているのだろうかとチラリと視線を巡らせるユフリー。
だが、ニールはもとよりミネットもシリルも複雑そうな表情だ。
(うーん、他の皆も分かっていないみたいね)
一方で馬を使うとなれば、それもまたギルドの連中が途中で追い付いて来る展開があるかも知れないとエリアスが考えていると分かり、この町でワイバーンを2匹借りて北のハーベルクの修練場に一気に飛ぶ事にした。
2匹のワイバーンにはそれぞれエリアス、ニール、ユフリーの3人とシリル、ミネットの2人のチームで分かれて乗り込む。
そこまでは良いのだが、ニールにはまだ不安要素があった。
(急いては事を仕損じると言うが、それが現実にならなければ良いがな)
そしてそれが別の意味で現実になってしまう事を、この時点のニールはまだ知る由も無かった。




