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82.聞くは一時の恥、聞かぬは一生の危機?

 結局、その日の夜は自分が追い掛け回されている理由も分からず、裏切り者がパーティ内に居るのかどうかも分からぬまま、ここの所ニールが持ち続けている悶々とした感情を引き続き抱えたままで眠った。

 そしてその次の日の朝、ニールの体感時刻で言えば午前9時45分頃に新しい町に辿り着いた。

「さってと、ここで馬車は終わりだな」

 エリアス曰く、こことあのヒルトン姉妹に出会った町の間を乗り合い馬車が往復運行しているらしいので、この町で馬車を置いて行かないと怪しまれてしまうとの話だった。

 と言う事はここから次の目的地までまた別の交通手段で向かわなければならないのだが、問題はその行き先である。


「それで、次の目的地の遺跡は何処にあるんだ?」

 ニールはユフリーに話を振ってみるものの、そのユフリーからは意外な答えが返って来た。

「……分からないわ」

「えっ?」

 ユフリーの答えに耳を疑ったニールは、彼女の言っている意味が分からないのでその確認の意味が半分、それとは別に「もしかしたら今度は違う答えが返って来るんじゃないか?」との期待が半分で聞き返す。

 しかし、ユフリーの答えは変わらなかった。

「分からないのよ。3つ目の遺跡は山から北に向かった地方の何処かにあるって話なんだけど、それ以上の情報が無いの」


 分からないと言うのは一体何故だろうと思いつつ他のメンバーに視線を巡らせてみるニールだが、無言でそれぞれが首を横に振ったり手をブンブンと横に振るだけだ。

「他の皆も分からないか。それはその遺跡がまだ見つからないって話なのか?」

「ええ。そもそもこっちの方には自然が多くて魔物も多く出るから私も余り来ないしね。腕っ節に自信がある獣人や人間が北の方に回されるのよ。それと雪も結構降るから、そう言う環境に慣れている人じゃないと厳しいからね。私が色々と転勤している酒場のチェーンでも、北以外から来ているお客さんばっかりだから北方面の情報はなかなか入らないのよ」

「成る程な」

 ユフリーのその話を一言で纏めると、3つ目の遺跡の情報は「北の方にあるらしい」と言う以外は分かっていない様なので、まずは何処かで情報収集をしなければいけないらしい。


 しかし、そこでニールはエリアス以外のメンバーに疑問を覚えた。

「あれ、でもさ……俺と合流する前に情報収集ってしなかったのか?」

「ああ。あんたに追いつく事が最優先だったから、合流するまでは時間が惜しくてな。それにどうせ北に向かうならそっちの町や村で情報を仕入れた方が効率が良いだろう」

 シリルが腕を組んで「こことかな」と町の中をグルリと見渡しつつ最後に付け加えたので、その言葉通りここの町でも情報収集をする事になった。

「じゃ、俺達は何時もの通り情報を仕入れて来るから」

 魔力が無いので下手に動けないニールはまたユフリーと一緒に居させて貰う事にして、他の3人は町の中に情報収集に向かう。


 その後ろ姿を見ながら、ユフリーがポツリと口を開く。

「……貴方はあの3人の中に、裏切り者が居ると思っているのね?」

「まあな。断定は出来ないが可能性が高い、と言うのは確かだな」

「そうよねえ。まさか面と向かって「貴方は裏切り者ですか?」なんて聞ける訳無いし、もし聞いた相手が本当に裏切り者だったとしても素直に「はい、私が裏切り者です」って白状する訳も無いだろうし、そもそもそんな事を聞いたら聞いたでこの先の関係がこじれちゃうだろうし……まさか聞いたりしないわよね?」

「……本音ではしたいが出来ない、と言うのが正しいな」

 人には聞いて良い事と悪い事があるのはニールも十分に分かっているつもりだし、自分だって過去のいじめに関しての話を根掘り葉掘り聞き出されたくない気持ちがある。


 ニールはインドの道場にカラリパヤットを習いに来ていた、自分よりも年上でしかもカラリパヤットの経験も自分より2年程長いその日本人から、こんなKOTOWAZAも聞いた事がある。

(聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥……とは言うがな……)

 日本人が教えてくれたその言葉の意味は、「自分が分からない事を聞くのはその時は恥ずかしい事かも知れないけど、聞かないで終わってしまったら一生その知らない事を知らないままで終わってしまう」と言うものだった。

(だから相手の傷口をえぐったりプライバシーに関わる事で無ければ、自分にとって必要な知識を蓄える為に積極的に質問するべきだ、とも言われたが……今の状況だったらなかなかそれは難しいだろうな)

 ユフリーの言う通り、裏切り者かどうかをストレートに聞いても答える訳が無い。

(でも、裏切り者は本当は居ないんじゃないかって言う可能性もあるんだよな)

 この世界の事を右も左も分からない自分を世話してくれて、元の世界に帰る為の手助けをしてくれているパーティメンバー達をむやみに疑う事も出来ない。

 しかも無理に聞いて関係がこじれてパーティの雰囲気が気まずくなるのも目に見えている以上、聞きたいけど聞けないニールはそのチグハグさがストレスになっているのが実感出来た。

(これじゃ聞くは一時の恥、聞かぬは一生の危機になりそうだ……)

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