81.狙われる理由と気になる噂
「……どうしたんだ?」
ニールの様子を不審に思ったエリアスが声を掛けるが、ニールは黙ったままである。
その様子からニールの思っている事に察しがついたシリルが、ニールに対して軽めの口調で食事を促した。
「別に毒なんか入れてねえよ。さっさと食っちまいなって」
「……ああ」
結局空腹には勝てないニールは、シリルに促されて恐る恐ると言ったモーションでスープを口にしてみる。
どうやら毒は本当に入っていないらしいので、そのまま黙って食べ続けるニールの周りは静かな空気に包まれた。
パチパチと焚き火の音だけが、星の輝く夜空の下で響いている。
その沈黙を最初に破ったのはミネットだった。
「聞いたわよ、私達の中に裏切り者が居るかも知れないって言うんでしょ?」
「……」
それには答えず、ニールは尚も黙ったままスープを木のスプーンですくって口に運ぶ。
ミネットもミネットで最初から答えは期待していなかったのか、黙ったままのニールに続ける。
「私達も最初、エリアスから聞いた時はびっくりしたわよ。でも話を聞いて行く内に、その可能性は無きにしも非ずって思う様になったわ」
そう言いつつ、ミネットは馬車の方をチラッと見る。
「裏切り者がもし私達の中に居るのなら、その馬車の中にある盾を回収したって言うのもすぐに伝わる可能性があるって事よね? それがもし、この先の町とか村とかにあるギルドの支部で本当に情報として私達も聞く事になったらそれは真実になるじゃない?」
「……」
スープを飲み終えたニールは黙ったまま器をユフリーに手渡す。
そして再び訪れた静かな時間。それは10秒か10分か1時間か。
時間にしたら20秒かそこ等だった気もするが、ニールにとってはかなり長い時間に感じられたパーティメンバーからの無言の視線に耐え切れずに口を開く。
「俺だって……疑いたくは無い。けど、もし俺達の中にギルドの連中に対して何処に行ったとか何を手に入れたとか今はどうしているのかって言う情報を、それこそリアルタイムで流しているメンバーが居るんじゃないかって話になったとしたら……俺は御前達を信用する事が出来なくなってしまいそうだ」
「まぁ、それはそうなるよね。俺がもしあんたの立場だったら同じ事を思うよ」
エリアスはニールの気持ちが分かる様だが、ニールが分からないのは裏切り者の存在だけでは無くまだ他にもある様だ。
「そもそも、あの英雄様とやらが何故俺にそこまで固執するのか……その理由がどうしても分からないんだ」
「確かにそれはそうだな」
俺も同じ事を考えていたよ、とコップに入っているお茶を飲みながらシリルが口に出す。
「英雄だからプライドが高いとかそう言うのは考えられるけど、でもあんたは不可抗力って言うか……盗賊に襲われてそれを撃退した。そしてその結果、その英雄様とやらの依頼を潰す事になってしまったのが全ての始まりだったんだろう?」
「ああ」
「でも、それはそれであんたが黙っていれば英雄様が盗賊を撃退したって話になるんだからそれで話が終わり、あんたが狙われる理由も全く無くなるだろうに。自分で盗賊を倒せなかったのが余程悔しかったのかな?」
そのシリルの予想を横で聞いていたユフリーが、そう言えば……と思い出した事がある様だ。
「酒場の噂でしか聞いた事が無いんだけど……ギルドの統一化が進んでいるって話があるのよ」
「統一化?」
聞いた事の無い単語に戸惑うエリアスを始めとする他のパーティメンバーに、ユフリーは自分が知っている限りの情報を伝える。
「ええ。ほら、ギルドってこの国でも支部が色々な町や村にあるけど、ギルドの運営そのものは各国それぞれで微妙に細かい所が違うでしょ? 元々ギルドって言うのは冒険者の管理を行なう組織だから、基本的なシステムは同じでも、そう言った面で各国がそれぞれギルドを……そして冒険者の管理をする事で秩序を保って来ているのは知っているわよね」
「ああ、そうだな」
自分も冒険者として活動しているエリアスが、ユフリーの問い掛けに真っ先に頷く。
「でもさ、ギルドに1度登録してしまえばその登録証は世界各国何処でも使えるだろ?」
「それはそうよね。じゃあ統一化なんて話は必要無いんじゃないかしら?」
「だからあくまで噂だけなのよ。その統一化って言うのが何なのか、私にもさっぱり分からないわ。私も何で統一化なんて話が出ているのか疑問なんだけどね」
ギルドのシステムを理解しているシリルとミネットも話に加わるが、異世界人であるニールは話に全く入れない状況が続く。
「要するにギルドのシステムは世界各国で少しずつ違うけど、既に統一化されている筈のギルドのシステムに更に何か手を加えようとしている連中が居るって話か?」
「ええ、そう言う事になるわね」
自分の質問にYESの返事をするユフリーだが、質問をしたニールはまだ納得が出来ていない。
「それが俺が追い掛け回されている理由と何か関係があるのか?」
「だからそれは私には分からないわよ。1番良いのはその英雄様に直接理由を聞いてみる事ね」
それが出来たら苦労しない、とユフリーの提案に対してニールは思うしか無かった。




