80.ダダ洩れの情報
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37.ライオンのポーズ
にライオンのポーズの挿絵追加。
本音を言えば、今まで一緒に行動して来たパーティのメンバーを疑う事はしたくない。
しかし、その裏切り者の可能性がかなり高いと推測できる以上はこれから疑心暗鬼になりつつ行動する未来しか見えないのだ。
悶々としたまま、2人はその村で食料を買い込んで最低限の準備を整えてから再び出発。
あの無限通路のレカーン遺跡を回って、その上ヒルトン姉妹とバトルまでして疲れているニールは、馬車の御者を再びエリアスに任せて自分は寝かせて貰う事にした。
(エリアスも裏切り者の可能性が無いと言えば嘘になるがな……)
ほら、やっぱり疑心暗鬼になってしまったじゃないか。
そう小さく呟きながらも、やはり今までの疲れには勝てないニールはそのまま襲って来た睡魔にも負けて深い眠りに落ちて行った。
「……そうか、その女達もやられたってのか」
「ああ。あの2人はBランクの冒険者だったからそこそこやるんじゃないかとは思ってたけど」
帝都ランダリルの王城クレイアン。
その一角にある、帝国騎士団長専用に用意されている執務室。
小隊長や中隊長クラスと広さは余り変わらないものの、明らかに豪華なドアの装飾だったり他の部屋よりも2倍はある壁の厚さで重要な事を盗み聞きされない為にしていたりと、騎士団長ともなれば国の機密事項にも触れられるだけの権限を持っている事から見た目にも機能的にも高度なものが求められるのだ。
そして、その機密事項の1つでもある「魔力を持たない人間の存在」について今、帝国騎士団長のセレイザとギルドの冒険者の間では英雄と崇められているエジット・テオ・ピエルネが密談を交わしていた。
赤に近いオレンジ色の夕焼けの光が室内に差し込み、室温が高くなっている執務室。
しかし、その部屋の温度に反して2人のテンションは下がっていた。
「Bランクの奴2人掛かりでも勝てないってなると、あいつ……そこそこ出来るみたいだな」
「そうらしい。だが、まだ御前の実力には及ばないだろうな」
不定期ではあるものの、自分達に送られて来る情報を聞いている限りではどうやらその男は獣人や他の冒険者とパーティを組んで帝国各地を回っているらしい。
更に、武器や防具が何故か装備出来ないが故に手作りで武器を制作しているとの情報も仕入れてある。
だが報告された情報の中でこの2人が最も驚いたのは、強大な魔力による封印のせいで長年に渡り調査も研究もストップせざるを得なかった遺跡が、その男が現れた事によって踏破されている話だった。
つい先程送られて来た情報によれば、南のドベリンコ遺跡を踏破して北西に向かったパーティが今度は山の中にある洞窟の中のレカーン遺跡までも踏破してしまったらしい。
2つの遺跡からは、それぞれロングソードと大きな盾が発見されてそれをその男が回収したらしいので、この帝国騎士団長と帝国の英雄の考えも少しずつ変わっていた。
「とりあえず今はその男を泳がせておくとしよう。その男はこの帝国内にあるもう1つの遺跡に向かう筈だ」
「ああ。でも……それ以外にもまだもう1つ気になる場所があったよな?」
「あそこか……あそこは警備が厳重だからそうそう入り込む隙は無い筈だし、もし入られたとしてもあそこの封印はカシュラーゼから派遣された魔術師が作り上げた魔術の文様があるから、何も出来ないとは思うがな」
何にせよ、その男が各地の遺跡を次々に踏破して回っているとしたら、それぞれの遺跡の封印を乗り越えられるだけの何かがその男にはあると言う事になる。
だったら今は追うのを止めて、じっくりとそのチャンスを待とうと2人は決めた。
「チャンスが来るのを待って、そのチャンスをものに出来る奴が上に這い上がれるんだよな」
「それはそうだ。人生って言うのは自分の実力もあるが、運の要素も強いからな」
伊達に修羅場を経験していない帝国の英雄と帝国騎士団長は顔を見合わせて頷き合い、そのパーティに紛れ込ませている自分達の仲間からの続きの情報を待つ為に紅茶と菓子の準備を始めた。
ニールの目が覚めると、既視感のある展開が彼を待ち受けていた。
「……ん、あ、あれ?」
馬車の窓から差し込むのは太陽の光では無く月明かりで、その逆のドア側からは話し声が聞こえて来る。
(もしかしてこの展開は……)
こんな光景を見た事があるニールは、そのデジャヴを感じつつも馬車のドアを開けて外に出る。
するとパチパチと火の爆ぜる音がまず聞こえ、それに続いて焚火を囲んでいる複数の人影の姿が彼の目に飛び込んで来た。
「あ、ようやく起きたのね」
その内の1人……あの町の宿屋でニールと一旦別れたユフリーが声を掛ける。
「ご飯はもう出来てるから早く食べちゃって。片付かないから」
「あ、ああ……」
弓使いのミネットに夕食を急かされ、ニールはその食事の匂いに腹の虫を鳴かせながら近づいて行く。
だが、ひとたびこのパーティメンバーの中に裏切り者が居るんじゃないかと思うと、いざ食事を受け取ってもすぐにそれを食べる気にはなれなかった。




