表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/186

79.解けない疑問

 しかし、ニール1人でそのギルドからやって来たと言う姉妹と行動させるのには不安があった。

 そこで手を挙げたのが、先程ニールのピンチを救ったエリアスだった。

「乗り合い馬車が出ている事は知っていたからね。そこで馬車の御者に色々と話をつけて、俺と変わって貰ったんだよな」

 ギルドから出ている乗り合い馬車だと言う事で、そろそろ交代だと話をつけてエリアスは馬車の御者を引き受けた。

 そしてニールと他人を装った上で、ここまでずっと姉妹の動きを背中越しに監視しつつニールの身に危険が及びそうになれば、その時は自分がすぐに加勢するつもりで用意していた。

「上であの通路をグルグル回っている時には、最初の場所に戻っている事に俺は気が付いていた。でもあんたに声を掛けられずに居て……もどかしかったから仕方無く入り口付近に戻って待機していたんだ」

 最終的にニールが案内板の裏をめくってみた事で謎が解けたものの、人間の思い込みとは恐ろしいものだと実感させられた仕掛けでもあった。


 そんな会話をしながらレカーン遺跡を出た2人は、登山道近くの村まで戻ってからエリアスが交代した馬車に乗り込む。

 しかし、ここでニールに疑問が生まれる。

「そう言えばこれは時間が無いから相談して無かったんだけど、他のメンバーは後から追いついて来るんだろう?」

「そうだよ。あいつ等も後から来るって言ってたし、自分達の馬を使ってすぐにこっちに追いつく予定さ」

「なら大丈夫だな。でも、あんたと俺はこの先どうするんだ?」

 乗り合い馬車はいずれ返さなければならないので、そうなるとそこから先の移動手段が無くなってしまう。


 まさか2頭の馬を誰かが代わる代わる手綱を引いて一気に持って来るのか? と突拍子も無い考えに至るニールだが、エリアスにはちゃんとした移動手段があるらしい。

「いいや、俺はこの乗り合い馬車の交代場所で馬なりワイバーンなりを借りるよ。それにあんたも一緒に乗せてやる」

「ああ……てっきり俺だけ歩いて行かなきゃならないのかと思ってたよ。でも、ワイバーンなんて貸し出ししているんだな?」

 エリアスがワイバーン使いであると言う話もニールは事前に聞いており、それなら馬でもワイバーンでも交通手段には困らないだろうと安堵する。


 だが、ニールの中に生まれた疑問はこれだけでは無かった。

「でもさ、不思議な事があるんだよ」

「何だい?」

「あのドリスとティーナとか言う女達が言ってたんだけど、俺が何をしているかが全てギルドに筒抜けだって言ってたんだよ」

「何だって?」

 あの地下の盾がある部屋に入ったニールと姉妹をつけていて、階段の陰からじっと様子を窺っていたエリアスだったが、3人の話していたその会話の内容までは隠れている場所から距離があったので聞き取れなかった。

 だからニールのその報告は初めて聞く内容であり、エリアスが驚くのも無理は無い。


 まさかそんな、と言う思いでニールを見つめるエリアスに、見つめられる側のニールはさらに姉妹から聞いた内容を口に出して続ける。

「俺が嘘をついているのかってのがどうして分かったかも教えてくれた。あの姉妹曰く、俺をずっと見張っている人物が居るって話だったよ。そして俺の名乗ったアクターと言う名前も偽名で、本当の名前がニールだと言うのも最初から知っていたらしいんだ」

「……まさか、俺達のパーティの中に裏切り者が居るのか?」

 その話をヒルトン姉妹から聞いた時、全く同じ疑問をニールも心の中に浮かべたのを覚えている。

「それは俺も思ったよ。もしくはもう1つの可能性として、俺達のパーティをずっと後からつけて来ている人物が居るんじゃないのかって事だ」

「うーん……」


 誰がギルドに情報を流したのか?

 今までの展開を振り返ってみて、この話で気になる事はニールの頭の中に沢山浮かんで来る。

「まず俺があの女達に名乗った名前……アクターって言うのが偽名だって事は、咄嗟に俺があの時考えた名前でしか無いんだよ。しかもアクターって名乗るのを伝えたのはあの女達と、それから俺達のパーティの中だけの話だったろ?」

「うん……そうだね」

 姉妹を騙す為の計画を手早く説明する時に、自分がアクターと言う名前を使う話は他のパーティメンバーにしかしていないニール。


「で、俺は既に1度あの英雄様とやらに出会っているから、俺の風貌とかこの服装の情報が英雄のエジットを通して国内全土に広がっている……のは良いんだが、俺はあのエジットって奴に名前を名乗った記憶が無いんだよ」

「ん? そうなると話がおかしいな?」

 ニールの記憶から生み出される報告に対し、エリアスも少しずつ疑問を覚える。

「そうだろう。名乗ってもいない筈の名前を教えてもいない奴が知っている訳が無いんだ。すると何処からか情報が漏れているとしか思えないし、それがあの女達が言っていた事になるんだろうな」

「ああ、それは確かに」

「それで、俺がニールって本名を名乗ったのは今の俺が一緒に居るパーティのメンバーしか居ないんだ。と言う事は……」

 厳しい目つきでエリアスを見据えるニールに、彼は気まずそうに呟いた。

「……俺達の中に、誰か裏切り者が居るって事か」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ