7.乱闘
(ふぅ、食った食った)
見慣れぬ料理ばかりだったが、それでもスタミナがありそうな事だけは食感や匂い等から何と無く分かったのでニールは完食する事が出来た。やはり腹が減っては戦は出来そうに無い。それにあの女からは酒場の中で待つ様にと言われているので、このまま素直に待つ事に……は出来なさそうだった。
(……何か嫌な予感がするな。今は他の客の対応中みたいだし、外に出るとしよう)
過去にいじめにあった経験からなのか、どうにもこうしたネガティブな予感が当たりやすいニールはこのままさっきの女の言う事を聞かずに退散する事にした。
「すまないが、俺はこの後用事が出来た。聞きたい事があるならまた後日だ」
さっきの店員の女にそう伝えて外に出ようとしたが、その瞬間女の顔つきが変わる。
「それは無理ね」
「何故だ?」
「貴方は逃げる事が出来ないもの」
「……は?」
何を言い出すんだこいつは……とニールが思った、次の瞬間だった!!
カランカランと音を立てて、木製の入り口のドアが開いて新しい客が入って来た。
だが、それは良く見るとただの客……いや、客ですら無さそうであった。
「この人です」
「……どう言うつもりだ?」
「少し、詰所で話を聞かせてもらおうか」
入って来たのはさっきの山道で出会った、あの訳の分からない事をわめき散らしていたギルドのトップがどーのこーのと言っていたエジットと言う男に対して失格の判定を下していた人間と同じ格好をした、いかにも中世の騎士と言う様な格好の人間2人だった。胸当てに肩当て、それからすね当ての全身鎧にくわえて腰にはロングソードまで携えている。
「この人、お金の価値が分からないみたいで……それから魔力が感じられないの。これはおかしいわ。だから後はよろしくお願いしますね」
「良し分かった。さあ……来い!!」
強引に連れて行かれそうになるニールだったが、その時思わぬ方向から救世主が現れる。
「何だぁ~? 御前等、こんな所で揉め事かよ?」
「貴様には関係無い、あっちへ行け」
「んだとぉ? 偉そうにしてんじゃねぇぞぉ!!」
「くっ、貴様等も逮捕するぞ!!」
「やれるもんならやってみろや!!」
どうやら酔っ払いの何人かが、大声を出した騎士団員にイラついて絡み出したらしい。そして間髪入れずに体格の良い酔っ払いの1人が騎士団員を殴り飛ばした。
「ぐあっ!! き、貴様も逮捕だ!!」
突如始まった乱闘だったが、これはニールにとってはむしろチャンスである。今の内にそっとテーブルの上に金を置き、酒場の乱闘を横目に脱出する手筈を頭の中で考える。
しかし。
「ちょっと、何処行くのよ?」
「俺はこんなトラブルに巻き込まれる為にここに来た訳じゃ無い。それじゃあな!!」
さっきの店員の女が逃げようとするニールを目ざとく見つけ、手首を掴んで引き止める。それをニールはシンプルな手首のロックテクニック(関節技)で撃退する。
まずは手首を掴む相手の手をもう一方の空いている手で押さえ込み、自分の掴まれている方の手をスナップさせて自分の手首を掴んでいる方の相手の手首をグイッと下へと逆関節で捻じ曲げる。
「うぐぅ!?」
そうして女が怯んだ所で女を突き飛ばし、乱闘を横目に酒場からニールは脱出する事に成功したのであったが、この乱闘の話はまだここで終わる事にはならなかったのである。