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78.油断大敵

(何とか勝てたか……)

 一息着いたニールは改めて盾を背負い、階段に向かって歩き出そうとした所で気が付いた。

(あれ? そう言えばこの盾は俺が手に取っても何も起きないんだな?)

 武器は持っただけで、防具は身に着けようとしただけであの変な現象が出てしまうのだが、今の自分が背負っているこの盾については特に何も変化が無いので戸惑うニール。

 しかし、実害が無いならそれはそれで助かるのでニールは自分が先程ドリスに奪い取られてしまったハンドメイドの刺突用の剣も回収し、姉妹をそこに残したままで遺跡から出ようと歩き始める。


 ……が。

「……っん!!」

「うお……っ!?」

 気配を極限まで殺して立ち上がったヒルトン姉妹の妹ドリスが、盾を持ってここから去ろうとしているニールにロングソードを構えて一気に接近。

 それに気が付くのが遅れたニールは、振り向いた時には既にドリスの攻撃をかわせない所まで接近されてしまっていた。

(くっ……)

 人間は死ぬ間際になると、今までの人生の中の出来事がスローモーションでまるで走馬燈の様に駆け巡ると言う。

 ニールもこの瞬間、生まれてから今までの35年間の出来事が脳裏に浮かんでは消えて行くのを繰り返した……様な気がした。


 ドリスのロングソードの凶刃が迫る。

 せめて少しでもダメージを減らすべく、刺さるのを覚悟で身体を捻って回避の動きをするニール。

(避け切れないならせめて……っ!!)

 時間にしては数秒だが、その中で瞬時に痛みを覚悟したニールの後ろからヒュッ……とかすかに風を切る音がした。

 それと同時に、迫っていたドリスのロングソードの軌道がぶれて彼女の勢いも止まる。

「うぐっ……!?」

 結局、ロングソードは刺さる事が無くニールの横を通り抜けて行っただけに終わる。


 そして、ドリスの胸に深々と矢尻が生えているのを一瞬だがニールは確認出来た。

「……え?」

 スピードが落ちて足がもつれ、自分の横で力無くうつ伏せに倒れこんで行くドリスを見て何が起こったか理解出来ないニールは、その目の前の光景をただ茫然と見守るしか出来ない。

 それでも何とか理解をしようと脳を働かせる彼の後ろから、聞き覚えのある男の声が掛かった。

「……ふー、危なかった。最後まで油断するなよあんたも」

「はっ!?」


 その声にまさかと思いつつ後ろを振り向けば、そこには愛用の弓を構えたままニールに忠告するエリアス・キーンツの姿があった。

「最後まで油断は出来ないよ? 何が起こるか分からないんだからさ」

「あ、ああ……助かったよ」

「俺をバックアップにしておいて良かっただろ?」

 そう言ってニールにチラリとウインクをするエリアス。

 これが女なら良いのだが、男にされても妙な寒気しか覚えないのはきっと本能なのだろう。

「そうだな。あんたの言う通りだったし、即席で全員で作り上げたシナリオにしては大成功だ」

「俺だけじゃなくて他のみんなにも感謝してほしいね」

「勿論だ」


 ニールは今度こそホッと一息つこうとするが、彼の目の前で再びエリアスが素早く弓を構えて叫ぶ。

「……伏せろ!!」

「っ!?」

 突然の大声に驚きつつも、自分の身体だけはエリアスの言う通り限界まで地面に伏せるニール。

 次の瞬間、再び放たれたエリアスの矢が今度は新たな敵を貫いた。

「うっ……」

 続いてその敵……気絶させた筈なのに、まさかのすぐに復活を果たして来た姉のティーナの首に矢が刺さ彼女も崩れ落ちる。

 妹を目の前で殺されてしまった敵を討つべく、同じく静かに接近したティーナだったがそれもまたエリアスに見られてしまい、愛用のハルバードがニールに届く前に絶命する結果に終わった。


「ふぅ……そうか、もう1人居たんだな。俺も油断していた」

 今さっき自分がニールに言った「油断するな」とのセリフは自分にも伝えなければならないと反省し、エリアスは完全に周りの気配が消えた事を確認して弓を下ろす。

「良し、これでもうここに用は無くなったからもう出よう」

「ああ。モタモタしていればこの女達が呼んだって言う増援が来るだろうからな」

 こうして、ギルドのメンバーである姉妹も退ける事に成功したニールは大事な教訓を得た上で遺跡を後にする。

 この展開は、最初にニールが姉妹に出会った時に彼女達に対して「アクター」と名乗って、作戦を練ってから先に宿屋の中に入った……あの夜の時から既に始まっていたと言っても良いだろう。


「でもあの夜は本当に驚いたよ。部屋に入ってくるなり俺達全員起こされて「何事だ!?」って思ったからな」

「悪かったな」

「別に謝る事なんて無いよ。おかげで大事な宝を奪われずに済んだんだからな」

 ヒルトン姉妹がニールの事を怪しいと思っていたのと同様に、ニールもあの会話を耳にしてから「この姉妹は敵だ」と判断していた。

 それを分かった上で部屋に戻り他のメンバーを起こし、リーダーのシリルを始めとして作戦を練ってくれる様に頼んだのである。

 売れてないと言っても、ニール自身は演技を学んだ経験がある「アクター」なのだから姉妹を騙すだけの演技には自信があったと自分では思っている。

 結果としてそれはこの世界の常識によって見破られてしまった訳だが、「終わり良ければ全て良し」の精神で余り気にしない事にしたのだった。


 ステージ5 完

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