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73.姉妹の疑問とアクターの過去

 しかし、自慢気に話すアクターの向かいに座っている姉妹にはそれもどうでも良くなってしまう位にアクターに対して気になる疑問が。

「それはそうと……貴方を見ていると気になる事があるんだけど」

「ん、俺?」

 真面目な表情に戻った姉妹の内、妹のドリスが若干重いトーンで問い掛ける。

「貴方がこうして私達の目の前に座っていて……いえ、貴方と初めて出会った時から気になっていたんだけど、何で貴方の身体からは魔力が感じられないのかしら?」

 この世界に来てこの質問をされるのは、最初のユフリーとの出会いに続いてこれで2度目かも知れない。

 だが、記憶に無いだけでもう何回目になるかも分からないかも知れない。

 それだけこの世界の住人達にとって、魔力が無いと言うのはやはり分かってしまうらしいし常識外れの話なのだろう。


 その疑問を受けたアクターの顔つきが一気に曇る。

「……」

 さっきまでの自慢気な表情やテンションの高さは何処へやら。

 口を閉ざして気まずそうに姉妹から目を逸らし、そして絞り出したのは蚊の鳴く様な声だった。

「……無いだろ……ん……から……」

「え、何?」

 声が小さ過ぎてさっぱり聞こえないので、右の耳に自分の右手を添えてドリスがもう1度聞き直す。

 それに反応したアクターは、今度は一転して大声で叫んだ。

「仕方無いだろっ、これは俺の生まれつきなんだからっ!!」

「……っ、ちょ、ちょっと何なのよ!? そこまで大きな声出さなくたって聞こえるわよ!!」


 突然豹変したアクターの態度にドリスは不快感を露わにする一方で、姉のティーナは茫然としているのかキョトンとしているのか分かりかねる表情だ。

「あ、あの……何かまずい事を聞いてしまいましたか? それでしたら無礼をどうかお許し下さい」

「……いや、良いよ。気になるんだったら話すよ」

 妹に代わって頭を下げるティーナだが、アクターは俯き加減でポツリポツリと自分の身体に魔力が無い理由を話し始めた。

「そりゃ知らないだろうな……魔力が無い人間なんてこの世界じゃ異端中の異端だもんな。でも、辺鄙な田舎から俺はずっと旅をして来たんだよ。俺はどうやら「無魔力生物」って言うジャンルに当てはまるみたいなんだ」

「無魔力……生物?」


 ドリスが尋ねると、アクターは1つ大きく頷いて続ける。

「その名前の通り魔力が無い生物の事さ。普通ならこの世界の生物が絶対に持っているべき魔力が、何らかの異変によって魔力を持たないまま生まれて来てしまうらしい。そして魔力が無いと言う事は魔術も使えない。でも、魔力を持っていない身体で生まれて来てそのまま生きられるって事になれば、魔力が無くなると「最悪の場合命を落としてしまう」って言うこの世界の生物の原理が、それこそ根本からひっくり返る大事件だろ?」

「まぁ、それは確かにそうよね」

「特にカシュラーゼなんかは、貴方の様な無魔力の方を捕まえたりとかしそうな気がしますね」

 ティーナの推測に、小さくではあるものの今度はブンブンと連続で首を縦に振るアクター。

「そうなんだよ。魔術の国として名高いカシュラーゼでは、魔力を持たない人間って言うのは恰好の研究対象さ。それに……そんな生物が居るってのがばれたらカシュラーゼだけじゃ無くて世界中の学者から追い掛け回される破目になるだろ。だから俺はギルドにも登録出来ないし、ひっそり暮らしたいんだよ」


「じゃあ、貴方は何でこんな所に居るのよ?」

 アクターの説明を聞いていて、言動が一致していないな……と感じたドリスが素直にそれを口に出して聞いてみる。

「逃げて来たんだよ。俺が住んでいた村が壊滅したんだ」

「村が?」

「そうだよ。ずーっと南東の方にある国から俺は逃げて来た。今もそうさ。俺の住んでいた村はのどかな所で、魔力を持たない俺にも村の皆は普通の生物と同じく何も変わらずに接してくれた」

 一旦そこで言葉を切り、顔を左手で覆ってグスッと鼻をすするアクター。

「ちょ、ちょっと待ってな」

 涙に濡れた瞳で顔を上げ、右手で中断のサインを姉妹に出す。

「も、もうその先は良いわよ……大体の事情は掴めたし……何かごめん」


 流石にまずいと思ったのかドリスがアクターの頭を右手で撫でるが、アクターの過去の話はまだまだ続く。

「別に良いよ。俺が話したくて話してるんだから。……で、ある時その村の近くで魔物が大量発生した時期があってな。その親玉が野生のでっかいドラゴンで、そいつが俺達の村に配下の魔物を率いて襲って来たんだ。だけど……殆ど戦いとは無縁の村だったからそいつの吐き出す炎のブレスに村ごと皆が焼き殺されちまってよぉ。その時15歳だった俺は、運悪く隣の町に1人で農作物を配達しに行ってたから誰も助けられなかった。帰って来たら村はもう、殆ど燃え尽きていたんだ……」

 余りにも惨い話に、ヒルトン姉妹……特に妹のドリスは話題を振った事を後悔した。

「身寄りも無くなって住む場所も無くした俺は、隣町で働かせて貰いながらそこに住んでいた元騎士団員の男に剣術や体術の稽古をつけて貰っていたんだ。だけど隣町はそれなりに大きかったから、余り長く留まると俺が魔力を持っていないのがばれてしまうって事で、皆に迷惑は掛けられないから1年後の16歳の時に旅に出た。それからは人目を避けて今までずーっと生きて来たよ。そしてそれはこれから先も変わらないだろうな」

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