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72.咄嗟の機転

 何とか逃げ切って身を隠して一夜明け、剣の持ち主達から逃れたヒルトン姉妹は作戦を練り直す。

「もう……あのアクターとか言う男のせいで全てが台無しじゃない!!」

「あの方に頼んだのは間違いだったらしいですわね」

 プリプリと怒るドリスと、額に手を当ててハァーッとため息を吐くティーナのリアクションはそれぞれ全く違うが、どちらも落胆と怒りの色が見えるのは同じである。

「これからどうする?」

「とりあえず、今回は早々にこの町から引き上げましょう。剣を持っているって言うあの方達の行き先なら大体の見当は付きます。恐らくは北の方にある登山道の先の遺跡でしょう。ですからそこにギルドの人達にも声を掛けて先回りをしておけば、今回みたいな失敗は無いと思いますよ」


 せっかく探し求めていたお宝の情報を手に入れたと言うのに、まさかの乱入者のせいで全てが台無しになってしまったヒルトン姉妹。

 出鼻をくじかれた形になってしまった彼女達だが、まだあの剣を奪い取ると言う野望は潰えてはいない以上ここで諦める訳にはいかない。

 しかし、この町でウロウロしていてはまたあの集団に見つかる可能性もあるので、まずは町を出てその登山道に向かうべくギルドの人間に頼んで乗り合い馬車を手配しておく。

「食料は買い込んだ?」

「ええ、問題ありませんよ。それじゃ行きましょうか」

 登山道まではこの町から1日ちょっと掛かる距離なので、食料だけは最低限しっかり買い込んでその馬車へと向かう姉妹だが、馬車の前まで来たそんな彼女達の前に再びあの男が現れた。


「よっ、お互いどうやら生きていたみたいだな!!」

「な……何であんたがここに居るのよぉ!?」

「また貴方ですか……」

 乗り合い馬車の前で待っていたのは、前日の夜中に宿屋の2階から木箱の山の上に落ちてしまったアクターと言う男だった。

 しかも朝なのにかなりのハイテンション。姉妹は更にローテンションになる。

 そのローテンションの2人の様子を知ってか知らずか、アクターはとんでもない事を言い出して来た。

「その格好だとこれから北の登山道の遺跡に向かうんだろ? 俺も一緒に行くからよろしくな」

「は?」


 この男は一体何を言っているのだろうか。

 これ以上、まだ自分達の足を引っ張る存在となってしまうのだろうか?

「嫌よ。何で私達の足を引っ張った人と一緒に行動しなきゃならないのよ!!」

 真っ先にドリスがNGを出す横で、ティーナも無言で首を縦に振って同意する。

 それに対し、アクターからはちゃんとした言い分があるらしい。

「何だ? もしかして昨日の夜の話か?」

「それ以外に何があるって言うのよ!!」

「待て待て、それだったら俺にもちゃんとした言い分があるんだからそれ聞いてからにしてくれよ。誤解されたままでああだこうだ言われたんじゃ、俺だって分かって貰えなくて気分悪いしさ」


 そう前置きをした上でアクターはヒルトン姉妹に理由を述べようとするが、その言い争いで馬車の出発が遅れているので御者からイライラした口調で声が掛かる。

「おーい、乗らないんだったら俺はもう行ってしまうけど?」

「あーすまんすまん、乗るよ!! じゃあ続きは馬車の中で……って事でほら早く乗った乗った!!」

「え、あ、ちょっと!?」

「きゃっ、何処触ってんのよこの変態!!」

 驚くティーナと罵声を浴びせるドリスを半ば無理やり馬車に押し込め、3人の乗客を乗せたその馬車は北の登山道に向けて出発。

 こうして、ニールは一旦パーティを離れて姉妹と一緒に別行動をする展開になった。


「……で、その貴方の言い分って何なのよ?」

 ヒルトン姉妹が横並びで座り、その向かいにアクターが座る形で3人乗車の馬車。

 乗り合い馬車にしては小振りなのでこの人数でかなりスペースを使っているが、それでもアクター1人側のスペースは悠々と足を組んでふんぞり返る姿勢が出来るだけの幅がある。

 事実、そうした姿勢を取っているアクターの態度に更にイライラが募るヒルトン姉妹の内、口が悪くて手が出るのも早いドリスがアクターに問う。

 それでも態度は変えようとせず、ふんぞり返ったまま答えるアクター。

「結論から言えば、俺をあの窓から投げ落としやがった狼の奴に見つかったんだよ。獣人って凄いんだな。耳も目も鼻も良いって言うのは本当なんだな」

「それで見つかって、剣を奪う前に捕まった……と?」


 アクターは真顔で頷く。

「そうなんだよ。それで見つかった俺は色々と白状させられて、しかも宿の外にまで仲間が居たらしく君達の姿を見た奴も居たらしい」

「えっ、私達のですか!?」

「そ、それじゃ結局目撃者が居たって話?」

 オロオロした表情になるヒルトン姉妹に、アクターは頷いて続ける。

「らしいな。けど俺だってやる時はやるんだぜ。咄嗟に機転を利かせて嘘の情報を流しておいたからさ」

「嘘の情報? それはどう言うものですか?」

 ティーナの質問に、アクターは頭の後ろで組んでいた手を解いて左手で窓の外を指差した。

「南西の方に違う遺跡があるって情報を流してやった。そっちの封印まで御前等に先を越される訳にはいかないんだぜー!! って暴れてやったよ。勿論遺跡も封印も全部俺の嘘なんだけどな。だから今頃、あの連中は南に向かったんじゃないのか?」

「は、はぁ……」

 頭が切れるのか、それともただの出任せが成功しただけなのか良く分からないアクターの機転(?)にヒルトン姉妹はリアクションに困ってしまうのだった。

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