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68.専用武器のカスタマイズ

 結局、その日は荷物も色々と買い込んだし馬もしっかりと休ませてから出発した方が良いだろうとパーティ内で結論が出たので、ニールの事も考えて町外れで見つけた安宿で1泊する事が決定。

 町の中心部にある観光客向けの小綺麗な宿よりも、かえってこう言うボロい安宿の方が周りの利用客の素性も余り知られないので、身を隠すのにはうってつけだとシリルが言った事もあってニールも納得する。

 ベッドのスプリングがガチガチに硬かったり、窓に修復した跡があったり床がギシギシ軋み過ぎて今にも抜け落ちてしまいそうな不安に襲われたりするものの、セキュリティの面を考えて我慢する事も大切だと感情をコントロールするニール。


 小さいけど数軒隣に飲食店もあるので、食事はそこで摂る事にした。

「ギルドの連中、まさか嗅ぎつけたりしないよな……」

 相変わらず警戒心を剥き出しにするニールに対して、エリアスが苦笑いを浮かべる。

「大丈夫だと思うよ。俺達だって居るんだしいざってなったらまた逃げりゃ良い。それにギルドの連中の情報も幾らか仕入れて来たけど、今の所はその英雄様に動きは見られないみたいだぜ」

「……分かるのか?」

 そもそもそんな簡単に英雄様とやらの動向が分かるものなのか、とニールには疑問なのだが、それについてもエリアスはしっかり説明をする。


「国の英雄だからこそだよ。色々と武功を打ち立てた伝説の傭兵だとか稀代の冒険者だとか大層な噂になっているけど、国中で名前や顔が知れ渡っている人間でもあるからな。と言う事はあんた以上に身を隠してコソコソするなんて無理な話だよ。それこそ転送魔術でも使わない限りは行く先々で目撃される事になるんだからな」

「……うーん……転送魔術か……」

 この世界の説明を受けた時、魔術の説明でそんなものがあった記憶がある様な無い様な気もするニールだが、それを聞いてますます不安になる。

「ちょ、ちょっと待て。だったら待ち伏せとかもあるんじゃないのか?」

「それは……否定出来ないな。こっちも向こうの情報を全てキャッチ出来ている訳じゃないし」

 気まずそうな顔をしながら、エリアスはテーブルの上のお茶を煽った。


 それを見て不安が更に増大するニールは、パーティメンバーに自分の武器の改造を頼む。

「なぁ、頼みがある。俺があの魔物から奪い取った棍棒なんだが、全部で4本ある内の2本を尖らせて即席の刃物を作りたいんだ」

「え、別に良いけど……そんなに不安?」

 幾ら何でも心配し過ぎよ……若干呆れ顔でミネットが尋ねるが、ニールは険しい表情を変えずに頷いた。

「心配さ。心配過ぎてあの棍棒じゃ力不足だと思う。これじゃ夜も眠れそうに無いよ!!」

「わ、分かったよ……とりあえず落ち着いて座れよ」

「……すまん、俺も取り乱した」

 エリアスに続いて気まずそうな顔になるニールは、自分が興奮の余り席から立ち上がっていた事に気がついて、シリルに促された事もあってすぐに座る。

 その一連の流れを冷めた目つきで見ていたユフリーは、心の中で別の事について納得していた。

(昔、いじめられてたって言うけど……ちょっと分かる気がするわね)


 ユフリーのそんな感情をよそに、夕食を終えて宿に戻った5人は手分けして棍棒を尖らせる作業に入る。

 シリルとミネット、エリアスとユフリーでそれぞれ支える担当と削ぐ担当で分担し、シュッシュッと上下に手を動かして形を整えながら棍棒を刺突用の武器にカスタマイズする。

 棍棒でも相手を殴り続ければそれで絶命させる事は可能だが、手っ取り早く済ませるのであればこうして先端を尖らせて刺したり出来る方が良いとの考えをニールは持っている。

 前にニールが腕試しで襲われた時よりも前からユフリーはナイフを持っているし、エリアスも弓だけじゃなくて短剣も使えるのでそれでそれぞれが削ぎ落とし担当らしい。

「……どう、こんな感じ?」

「そうだな。でももうちょっとやった方が良いかも知れないな」

 やり始めると意外と熱中してしまうこの作業は夜更けまで続き、削ぎ落とし担当のミネットとエリアスがそれぞれベッドに潜り込んだ時には腕がかなり疲れていた。


 一方のニールは、睡眠時間を削って真夜中まで作業をしてくれた事に対して感謝の気持ちを他の4人に抱かずにはいられなかった。

「……みんな、感謝する」

「別に良いわよこれ位。それよりも明日も馬車に揺られるんだからしっかり寝ておきなさいよ」

「そうよー。下手に寝不足だったら馬車に酔うわよ。それじゃお休み」

 そう言いながら女2人はもう1つ確保してある部屋へと向かい、ベッドに潜り込んでいた2人からも返事があった。

「武器の加工なんて別に難しいものじゃないさ。むしろ、それで戦いやすくなるんだったら俺もシリルも心配する理由が減ったって事だろう」

「そうだな。刺突用の武器を使う時が来るのかどうかは置いておいても、持っていて損は無いと思うし使う時が来たらわざわざ作った甲斐があるもんだぜ。じゃ、お休み」

「……ああ、お休み」

 自分のわがままからリクエストした武器を文句も言わずに作ってくれて、ニールはこの上無い幸せを感じていたが、その幸せも長くは続かなかった。

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