67.タチの悪い奴「等」
その後の夕食は余り味も分からず、ショックから抜け出せないまま翌日の昼に小さな町に辿り着いた。
目的地であるその登山道の近くの村まで後2日も掛かるので、食料だけはしっかりまず買い込んでおく。
それから馬も休ませておかなければならない。
勿論ここにもギルドがあるので、馬を休ませている間にその町の酒場で昼食をテイクアウト。
ニールが手配されている以上、気軽に酒場でゆっくり出来ないと言うのは何気にきついものがあった。
「はい、お弁当買って来たわ」
「ああ、済まないな」
町外れの広場に5人が集まり、地べたに座り込んで昼食を摂る。
そして情報収集も前にやった時と同じくユフリーとニール以外の3人でして来て貰ったのだが、事態は更にがんじがらめの方向に進んでいるらしいと判明した。
「ギルドの連中が?」
「ええ。あのドベリンコ遺跡を私達が踏破したって事がもう知れ渡っているみたい」
「まあ、あそこの遺跡の難攻不落さとその異名はかなり知れ渡っているらしいからな。噂が広がるのも無理は無いだろう」
ついこの前、自分達は「命食いの遺跡」と呼ばれる場所を踏破してそこに置いてあった宝物らしいロングソードも手に入れたばかりなのにもう知れ渡っているなんて、とニールは頭を抱える。
「おいおい……それって俺の情報も広がっているって事にならないか?」
自分の姿も何時何処で見られているか分からないので、展開的な意味でしょうがない場合を除き自分は目立たない様にしているニール。
事実この町でもそうなのだが、自分で情報収集をする為にギルドには出向けないし町中もなるべく歩き回らない様にしている。
せめて手配が解ければ自由に情報収集が出来るのに……と歯痒い気持ちで一杯なのだが、そんなニールに更なる追い打ちを掛ける様な新たな事実がシリルから知らされる。
「あんたの情報が出回っているってのは今の所は聞いていない。だけど、この剣を狙っている連中が要るって話を聞いたんだ」
「え?」
ドベリンコ遺跡で回収した剣をニールの前に差し出してシリルがそう言うが、それがニールの心の中のざわめきをアップさせる。
「おいおいおいおい、俺の情報が出回ってないのは良いとしても、それを狙うって言う事は自然と俺も狙われるって事にならないか?」
「……受け答えが何だかマンネリね。でも、貴方の言う通りこの剣を狙う人達が要るって言うのは何と無く分かるわ」
ニールの返事に冷ややかな目つきで突っ込みを入れるミネットが、何故この剣が狙われるのかをなるべく手短に説明する。
「今まで未踏だったその遺跡を最初に踏破した一行、それも遺跡の隅々までを軽くとは言え全て踏破して、そこから何かを持ち出した。その「何か」って言うのがこの剣だと分かったら、確かにかなりの値打ちがある物だと誰もが思う筈。それが一見古びた剣だとしても、遺跡から発掘されたと言うだけで鑑定したい学者も山程居るだろうしね」
「……人間の欲望って恐ろしいもんだな」
地球に居た時も「人間は欲望の塊」だとか「欲望に終わりは無い」とかのセリフを耳に擦する事はあったし、自分も人間の1人だけあって全く欲望が無いかと言われれば、それは嘘であるとニールは断言出来る。
かつていじめられていた時、この辛い状況から抜け出したいと思ったのも欲望の1つだからだ。
「で、その欲望丸出しでこの剣を狙っているのはギルドの連中か? それとも学者とかか?」
どっちにしても、この古びたロングソードが地球へと帰る為の手掛かりの可能性もあるのでそうそう簡単に手放す訳にはいかないと思っているニールだが、ミネットの口から出て来たのはちょっとだけ意外な人物の話だった。
「所属としてはギルドの連中になるんだけど、その中でも特に執着を見せているのが女の2人組って話ね」
「2人組……しかも女だって?」
別に女だからと言って甘く見るつもりは無いのだが、何故そこまで執着するかと言うのだけはニールも気になる。
「そうよ。もっと詳しく言えば、ロングソードを使う朱色に近い茶髪の女と、ハルバード使いの金髪の女の2人組だって情報よ」
「その女達がこれを狙う理由は分かるか?」
「さぁ……そこまでは私もシリルもエリアスも聞いていないわ。でもこれを狙っているって噂は本当らしいから、この先の進軍でも用心しておいた方が良さそうね」
ただでさえあの英雄様とやらに目をつけられて緊張感が抜ける暇が無いって言うのに、更にその他の理由でギルドの連中に狙われているとなれば、ニールはもう何もかも捨てて逃げ出したい気持ちで一杯だった。
しかし逃げ出した所で何処に行くと言う当ても無いし、頼れる人脈は今の所このパーティメンバー以外に居ない状況。
ニールは地球でも友達と呼べる存在の少ない人物だったが、この異世界エンヴィルーク・アンフェレイアでは友達は真面目に「0人」である。
友達こそ居ないものの、頼れる人物なら自分の目の前に居るので頼れるだけ頼ってしまおうとこの時のニールは密かに心の中で決めていた。
自分を待ち受けている残酷な運命を、この時は全然知る由も無いままに。




