66.必殺技・その3
「それじゃ3つ目、キングライトニングクラッシュをやるぜ。これは縦の攻撃だから叩き付けるもんだ。バスタードソードならではの必殺技で迫力があるぜ」
「そこまで言うなら期待しよう」
さっきの2つもそれなりに迫力があった様に思えるが、自分からそう言うとは余程の迫力なのだろうとこの3つ目の必殺技に自然と期待するニール。
「ああそうだ、言い忘れていたんだけど必殺技ってのは基本的に自分の体内にある魔力を消費して繰り出すものだから、適度に休むか必殺技では無い普通の攻撃で凌ぐ事も多いんだぜ」
そう言いつつ、バスタードソードの刃が自分の頭の後ろから尻の後ろに伸びる様に構えて集中するシリル。
ここでニールと共に彼のその姿を見ていたユフリーが、険しい表情でポツリと呟く。
「魔力の消費量は結構大きそうね……」
元々体内に魔力の無いニールにはそれがどうなのかは良く分からないが、今の声のトーンから察するに疲労が溜まりやすそうな必殺技だと言うのは何と無く理解出来た。
それぞれ別の表情を見せるユフリーとニールの目の前で、シリルは2人に向けてこんな忠告をする。
「おい、そこに居ると危ないからもう少し離れろ」
「えっ?」
「俺は今から衝撃波を出すから、下手すると巻き込まれるぞ」
衝撃波なんて言葉を聞いたのは何時振りだろうか?
そもそも本当にそんなものが出せるのか? と半信半疑のニールだが、とりあえず言われた通りユフリーと一緒に距離を置いてギャラリーを続ける。
その2人が下がったのを見て、シリルは気合一閃で地面にバスタードソードを叩き付ける。
「……ふぉらっ!!」
ズドン、と大砲から弾が発射される時の様な音が響き、それと同時にグラグラと地面が地震の様に揺れる。
「うおっ!?」
驚きつつもバランスだけはカラリパヤットの要領でしっかりと取るニールだが、もしかしてこれがさっきシリルが言っていた衝撃波なのかと目を丸くする。
「……と、まぁこんな感じだ。縦切り攻撃の技だけど、ただ振り下ろすだけじゃなくて相手に距離を取られて攻撃を外されても生み出した衝撃波でバランスを崩せるって訳だ」
「そして、そこからまた攻撃に繋げられるんだな」
「そうだな。相手がバランスを崩せばそれだけで隙が出来るからこっちに取ってはチャンスだぜ」
その説明を聞き、「転んでもただでは起きない」と言うセリフを思い出すニール。
それはインドで同じカラリパヤットの道場に来ていた日本人から教わった「KOTOWAZA」なるものなのだが、そのKOTOWAZAを使うならこんな場合なんだろうなと考えてしまった。
「それじゃ最後、横攻撃のダブルミラクルスラッシュの説明をしよう。これは名前の通り2回の攻撃が出来るんだが、今のキングライトニングクラッシュと同じで衝撃波が出せる。それも地面から生み出すんじゃなくて、横にバスタードソードを振った勢いで風の衝撃波を生み出してその風圧で相手を切り裂いたり、バランスを崩したり出来るんだ」
「風の衝撃波……かなり厄介そうだな」
また衝撃波かよ、とマンネリ感は否めないのだがそれでも最後の必殺技と言うだけあって実際の内容が気になるニール。
一方のシリルは、自分の必殺技を安全に繰り出せる場所を探して辺りをキョロキョロと見渡す。
するとある1点に目が留まった。
「おっ、あそこなんかが良いかな……。それじゃ今から俺があの木に向かって衝撃波を繰り出すから、それでその木がどうなるか見ておけよ」
鋭い爪を持っているシリルの指が示したのは、キャンプの用意をしているすぐ近くにあるなかなか太めの木だった。
その木に向かってスタスタと歩き、およそ7メートルの距離まで接近したシリルはバスタードソードを右脇腹の横に両手で構える。
「……ダブルミラクルスラッシュ!!」
技の名前を叫ぶと同時に、シリルのバスタードソードが横に一閃する。
それも1回では終わらず、1度横に振ったそのバスタードソードをもう1度返して横に薙いだ。
それだけならただの斬撃だが、バスタードソードの先から生み出された衝撃波が空気を切り裂き、その木に向かって飛んで行くのが白い筋となってニールには見えた。
そして衝撃波の筋が木の幹に当たった瞬間、木の幹に黒い切れ目が入ってバキバキ……と切り裂かれた部分からあっさりと折れてしまった。
「……すご……」
流石に、あんな技はカラリパヤットでも見た事が無い。
そもそもあんな技を出せる事自体、地球ではフィクションの中だけでしか見られないものである。
――これが、地球とは違うこのファンタジーな世界で培われた技術の実力。
シリルの必殺技はこれで全てデモンストレーションが終わったが、これだけの力の違いをまざまざと見せつけられたニールの表情はかなり強張っていた。
「あー、必殺技出しまくったら疲れたな。メシにしようぜ」
そんな彼の表情を知ってか知らずか、バスタードソードを背中に収めたシリルはグルグルと肩を回しながら夕食の準備に取り掛かり始めるのだった。




