65.必殺技・その2
「それで相手を倒すからクリムゾンシルバーか……。じゃあもう1つの奴は?」
「バーニングダブルショットは名前の通りだよ。さっきのミネットのと同じで、2本の矢を同時に放つ。その矢に纏わせるのが炎の魔術だってだけの違いだ」
エリアス曰く、炎を纏わせた矢を放つ事によって相手に矢で射る以上のダメージを与える。
特に木から派生した様な魔物相手だとその効果は抜群なのだが、矢を放つ方向を間違えると山火事になったりもするので気を付けなければいけないのがネックらしい。
「で……それももしかして矢がダメになってしまうからデモンストレーションは無理なのか?」
「そうだな。だから済まないけど、機会があれば見られるかも知れないな」
申し訳無さそうに言うエリアスだが、2回も断られてしまったこの時点でニールはこの世界の「必殺技」とやらにかなりの疑問を覚えていた。
自分が異世界の人間であるのを良い事に、もしかしたらただの出まかせで物を言っているのでは無いのか? と疑心暗鬼になってしまう。
しかし、残りの2人は弓使いでは無いのでもう1度期待する。
「えーと、じゃあ次はシリルだな」
「俺か。俺は見ての通りこの背中のバスタードソード使いだ。必殺技は全部で4つ」
「へぇ、結構多いな」
段々数が増えて来ている気がするが、そこでパーティを纏めるリーダーとしての貫禄があるだろうなと感心するニール。
「それは良く言われるぜ。それじゃ1つ目だけど、俺はこいつ等と違って実際にやって見せるぞ」
左手の親指でミネットとエリアスを差しつつ、右手で背中のバスタードソードを引き抜くシリル。
今回は手合わせでは無いので、腕を組んでギャラリーに徹するニールの横で実際に必殺技を繰り出して貰う。
「俺が持ってる必殺技はライトニンググランドレーザー、スーパートリプルサンダー、キングライトニングクラッシュ、ダブルミラクルスラッシュだ。この4つを分けるとそれぞれ横への攻撃と縦の攻撃、そして突き攻撃になる」
「それぞれ用途が違うんだな」
確かに横に振る攻撃もあるし縦に叩き付けもするし、突き攻撃もあるんだからこうやってそれぞれに必殺技があるのは味方としては頼りになるし、敵になったらかなり厄介な存在だろうとニールは考えた。
「ああ。まずはライトニンググランドレーザーなんだが、これは突き攻撃だ。バスタードソードは叩き斬る攻撃が多い武器なんだが、突きの必殺技のこれは魔力を刀身に乗っけて、まず相手に突き刺す」
そう言いつつ、シリルはブオンと風を突き破る形で真っすぐ前に力強くバスタードソードを繰り出した。
「そこでこうやって突き刺してから、相手の傷口から広がる様に……つまり相手を体内から爆散させる様に魔力を解放するんだ。すると相手はたちまち粉々になっちまうか、更に傷口が広がってまともに動けない身体になっちまう」
「……それ以前に、その大きな剣で突き刺される事自体がまずまともに動けない身体になってしまう気がするがな」
ニールの冷静な突っ込みに、シリルの顔に思わず笑みが浮かぶ。
「ははっ、それもそうか。だけどこの世界には俺達の何倍も背丈がある様なでっかい魔物だって居るんだ。あんたがあの遺跡の地下2階で戦ったこん棒の持ち主みてえな奴がよ。そんな奴を相手する時なんてよっぽどの事が無い限り一撃で仕留められねえから、こう言う必殺技も必要なのさ」
そうやって説明されてみるとなるほど、筋が通っているとニールは納得して頷いた。
「ああ、良く分かった。それじゃ最後のを頼む」
「分かった。こっちも突き攻撃の必殺技だけど、スーパートリプルサンダーは3回連続で突きを繰り出す。こんなでっけえ武器を連続して振るうのはそれなりに体力も居るけど、なるべく早く相手を仕留めたい時に有効だ。そこで、体内の魔力を自分の腕に集中させて一時的に腕力を上げ、突き攻撃のスピードを増すんだよ……こうやってな!!」
右の脇腹辺りで一旦バスタードソードを構え、それから夜風を切って目にも止まらぬスピードの突き攻撃を繰り出すシリル。
もしかしたらフェンシングの突き攻撃よりも速いかも知れない、とニールは目を見開く。
「凄い……」
ニールの口からそんな声が思わず漏れてしまう程のスピードだが、何とシリル曰くこのスピードはまだ手加減している方なのだとか。
「今はあんたに見せるだけだからスピードを抑えてるけど、本気の時はまだ速いぜ。だからあんたと手合わせする時にこれを使わせて貰うとしたら、間違い無くあんたに勝てる自信はあるね」
自信満々にそう言うシリルだが、ニールはそれを鼻で笑って受け流す事は到底出来そうに無かった。
目の前で見せつけられた、スーパートリプルサンダーの目にも止まらない3連撃のスピード。
それに説明を受けただけで、若干引き気味になってしまったインパクトのライトニンググランドレーザー。
狼獣人の身体能力が人間よりもかなりハイレベルだと言う事も加味して、今はまだシリルが味方だから良いものの、もし彼が敵に回ったら自分では到底敵わないだろう……とネガティブな感情がニールの頭の中に無意識の内に浮かんでいた。




