62.センサーシステム
その大きな木箱の中には、一振りの大きめのロングソードが入っている。
「何だか古臭い剣だな……」
まさかこれがお宝って訳じゃないだろうなと思うニールだが、他にそれっぽい物がこの階には見当たらなかったらしいので、木箱の中身を取り出して回収するニール。
と言っても自分は武器や防具には触れられないので、代わりにシリルに取り出して貰った。
「見た所はかなり年季の入っている剣だが、それ以外は飾りが豪華な以外は特に注目するべき所も無いな」
目ぼしい物と言えばここではこれ位なので、地下2階の魔物も倒した事だしさっさと外に出ようと決めたのだが、そんな一行が驚く事態がやって来た。
ウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォン!!
「うおっ、何だ!?」
「きゃっ!?」
ロングソードを取り出した影響が多分影響しているのか、突然遺跡の中にとけたたましい警報が鳴り響く。
突然大音量で鳴り響いたその音に一同は身体をびくつかせながらも、それぞれ武器を構えて周囲を警戒する。
しかし、それ以上の事は何も起こる気配が無い。
「な、何なんだ一体……」
とにかく何かが起こっている事は明らかなので、警報が鳴っている中で一行は用心しながら1階の出口に向かって進み始める。
しかし、その中でニールだけはまた「あの」音が聞こえて来ていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「え?」
「またあの音が聞こえるんだ。ピーッ、ピーッて……。それも、今度はさっきよりも明らかに大きく聞こえる!!」
どうやら今の一行が居る場所の近くから鳴り響いている音らしい。
気になったまま脱出するのもモヤモヤするので、近くから鳴っている音となればそんなに捜索に時間も掛からないだろうと判断して、まだ地下1階の捜索を続けてみる事にする。。
「おい、ここって隅から隅まで調べたのか?」
「いいや、あの木箱を見つけた時点で怪しいと思ってそれ以上はまだ調べていない」
「何だよそれ……」
この地下1階はてっきり調べ尽くしたのかと思っていたので、そのエリアスの回答にニールは呆れた表情になった。
だが、考えを変えてみれば「まだ捜索する余地がある」と言う話なのでこの謎の音の正体を確かめる為にも残りの調べていない部分を手分けして探し出す5人。
絶対にここには何かがある筈だ。
特に自分にしか聞こえない謎のその音の正体がここにはある、と意気込んでニールが探し回った結果、それは差ほど時間が掛からずに見つけ出す事が出来た。
「何だ、これ……」
それは、この中世ヨーロッパの世界観からしてみれば余りにも不釣り合いなものだった。
地下1階の奥に、地球ではドラマや映画の中だけで無く警備会社だとか会社の警備室で良く見掛ける様な、サーバーらしき大型の機械や監視用らしきモニターが鎮座している部屋があったのだ。
まさしく「コントロールルーム」と言える部屋なのだが、何故こんなものがこの遺跡にあるのかが分からない。
並んだモニターはうんともすんとも動いていないので、使われなくなってからかなりの時間が経過しているだろうし、水の中から上がって来た遺跡との情報なので機械系統は既に全て駄目だろう。
「何だこりゃ?」
「変な部屋ねえ。それにこれ……金属の塊で出来ている箱だと思うけど……魔力で動いているのかしら?」
シリルもミネットも、エリアスもユフリーも警報が鳴り響いている事を忘れてそのサーバーらしき物体やモニターをまじまじと見つめる。
その一方で、少なからずこう言った設備を見た覚えのあるニールだけは1つのモニターの横にある赤いランプとその前の金属製のピン状のスイッチに注目する。
「これ……まさか……」
機械系統はダメな筈だけど、と首を傾げながらもその奥に傾いた状態のピンを手前にパチンと動かしてみる。
するとそれと同時に、けたたましく鳴りっ放しだった警報が止んだ。
「あれ、音が止まった……?」
「それがスイッチなのか?」
部屋を見回すユフリーと、ニールの手元を覗き込むエリアス。
しかし、ニールの耳にはもう1つの異変が起きていた。
「そうらしいな。それと俺の耳に聞こえていたあの謎の音も、これを動かしたら聞こえなくなったぞ」
「そうなの?」
「じゃあ全てはここが原因だったって事か?」
ミネットとシリルが疑問を覚えるが、そんな2人の横でニールはあるものを見つける。
「ん、これは……注意事項の張り紙?」
字が所々掠れて読めなくなっているが、それでも前後の単語の繋がりから文章を読み取って内容を理解する事は出来たのでそれを他の4人に伝える。
「はっはあ、成る程な……ここで侵入者を昼夜問わず見張っていて、異変が起きたらさっきの警報を鳴らしていたんだ。それから下にあった水門はあのレバーでもそしてここでも操作出来るらしい。で、定期的にここで水を抜いたり入れたりしていたのと、侵入者が来たら自動的に察知してくれるセンサーシステムもあるらしい。このスイッチで操作出来る奴だな。それも……魔力に反応して無音で反応するらしいけど、機械の中では小さくピーッ、ピーッて……俺の聞こえていた音が聞こえるシステムらしいんだ。で、不審者は問答無用で溺死させてしまうらしい」
「要するに短く纏めると、侵入者対策の機能がここにはあるって事?」
「そうだな。元々ここは雨が降った時とかに貯水して湖の水位を調節していた施設らしいけど、一方では王家の秘宝を保管する場所でもあったらしい。貯水施設って言うのは一種のカモフラージュらしいけどな」
注意事項の説明書の隣にある文章を読みつつ、ユフリーに答えるニール。
あの地下2階の魔物は何なのか分からないが、長い事この施設が湖の底に沈んでいたので住み着いたのだろうと推測。
結局タネが分かってしまえば大した事も無く、センサーシステムのスイッチも切ったのでもうここに用は無い。
後はこの帝国の調査隊の仕事なので、一行はこの貯水施設を後にする為に歩き始めた。
ステージ4 完




