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58.流された先は?

「……ぐっ!!」

 穴に落ちたと分かった瞬間、ニールは咄嗟に息を止めてそのまま水の流れに沿って流され続ける。

 限界まで息を我慢し、とにかく流されるまま息継ぎが出来るチャンスを待った。

(こんな場所で死んでたまるか……、何が命喰いの遺跡だ!!)

 心の中で固く決意をしながら、目を開けて自分の置かれている状況を判断しつつ流される。

 周りはまだ暗闇で、時折り何処かに身体がぶつかるので何かパイプの様な場所を流されているのかも知れないと推測する。

(まだだ……まだまだ、我慢……)

 プク、プクッと小刻みに息を吐き出しつつ流されて行くと、やがてそのパイプが終わりを告げた。

 それと同時に、上の方から少し光が差し込んで来たのでそれに向かってニールは腕と足を動かす。

 もしかしたらあの世への光かも知れないが、そんな事を考えるよりも先に身体が動いていた。

(あの光は……?)

 冥府への光では無く、地上への光であって欲しいと願いながら段々大きくなるその光目掛けて息を吐きながらニールは泳ぎ続けた。


「……ぶはっ、はぁ、はぁっ!!」

 その息も底をつき始めた頃、ニールは何とかその光の元に辿り着く事が出来た。

 それと同時に水の中からも上がる事が出来たので、どうやら自分はまだ生き残っている様だ……と息を切らせながら安堵の表情を浮かべる。

(生き残ったのは良いけど……ここは一体何処なんだ?)

 さっきと似た様な石の壁の通路があり、後ろには今しがた自分が流されて出て来た貯水場がある。

 つまり後戻りは出来ないし、雰囲気や通路の造りを見る限りではまだ遺跡の中に居る様なのでニールは先に進むしか無いのだ。

(くそ……はぐれちまったな。と言うかあいつ等もここに流されて来るんじゃないのか?)

 その思いでバッと後ろを振り返るニールだが、5分経過しても誰も上がって来る様子が無いので諦めて首を横に振ってから再度歩き始める。


(俺1人になってしまったか。だけどここで諦めたら終わりだ!!)

 もしまだあの4人が生きていたら再会したい、と強く願いながら自然と早足になるニールだが、ふとある事を思い出して足が止まった。

「……あれ?」

 さっきまで聞こえて来ていた筈のピーッ、ピーッと言う謎の音が今は聞こえなくなっている。

 流されて場所が変わったからだろうか?

 しかし、この遺跡に踏み込んだ時からその音が聞こえて来たので今聞こえないってのも変な話だよなと思ってしまう。

(とにかく、何処か外に出られそうな場所を探さないとダメだなこりゃあ……)


 音が消えたのは耳障りじゃなくなって良かったけどな、と思いつつ足を進めるニールの目の前に1つの木製の大きな扉が現れたのはその時だった。

 用心しながらその扉を開けてみると、その先はまだ通路が続いている。

 通路は吹き抜けの2階部分に繋がっており、通路の突き当たりから回り込む形でスロープが下の階に伸びていた。

 更に、その先の通路にも人骨が至る所に散らばっているのでここまで踏み込んだ人間や獣人も命を落としたらしい。

 自分はこうやって同じ様になってしまいたくないので、また早足になりつつスロープを降りて下の階へニールは進む。


 すると、上の階に居る時は気が付かなかった事があった。

(あれ? そう言えば水位が全然上がる気配が無いな)

 さっきは緊張と恐怖で時間経過を早く感じていたのかも知れないが、気が付いてみれば水位が上昇する気配がこれっぽっちも無い。

 スロープが上に向かって伸びているならともかく、下に向かって伸びているなら自然と水面に近づいている筈なのにこれは奇妙である。

(さっきの遺跡とは違う場所なのか? まさかそんな馬鹿な)

 ここで考えても答えは出そうに無いのでニールは先に進みたいのだが、まだ1つ気が付いた事がある。

(そう言えば、さっきのピーッ、ピーッて音は消えたけど違う音が聞こえて来る様になったぞ……)


 今度ニールの耳に聞こえて来るのは、明らかに何かが歩き回る様なドスン、ドスンと言う足音だった。

 人間や獣人のそれでは無い大きさの物体が移動しているのはすぐに分かるし、それはスロープの先にある円形の広場の一角にある木の扉の奥から聞こえて来る。

(一体、何が居るって言うんだ?)

 こんな時に1人ぼっちなのが恨めしい。

 せめて獣人のシリルが居てくれたらその鋭い嗅覚で何が居るか分かる様な気もするが、あいにく自分は人間なのでそこまでの嗅覚は持っていない。


 それならば、恐怖心を押し殺してでも気の扉の先を確認するしか無いだろうと決意を固めるニール。

(ここまで来たんだし、俺はもう引き返せない!!)

 だけど、この素手のままの状態で突っ込むのは余りにも無謀過ぎる。

 せめて何か武器として使えそうなものは無いのか、と考えるニールの視界に「使えそうな物」が飛び込んで来た。

(ん、あれは……)

 それは遺跡の壁から剥がれ落ちた破片。

 それも様々な大きさがあるので、ニールはまず自分のぐしょ濡れになった赤いTシャツを脱いで広げる。

 その広げたシャツになるべく手のひらサイズの破片を選んで包み込み、最後に破片が落ちない様に縛って即席のブラックジャックを作った。

 そしてズボンのポケットに収まる位の破片も幾つかポケットに入れ、ニールは1度深呼吸をしてから木製の大きな扉をそっと開けた。

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