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54.決着と現実

「っ!?」

 しかしシリルは起き上がりつつニールにバスタードソードを突き出し、それによってニールは身を引くしか出来ない。

 シリルはその間に素早く立ち上がって、バスタードソードをニールの足目掛けて振るう。

 が、ニールはほぼ勘でバスタードソードの軌道を察知して、大きく足を両側に開くジャンプで回避。

 そのまま着地と同時に再びジャンプし、ニールはシリルの首を両足で挟み込んで地面に引き倒す。

「ぐふっ!?」

 随分とアクロバティックな倒し方で地面に倒れたシリルの両足をニールは掴んで、プロレスのジャイアントスイングをかましてシリルを背中から盛大に岩壁にぶつける。

「ぐぇ!!」

 今のは流石に効いた様で、シリルの動きが明らかにスローモーションになる。


 そんなシリルを見たニールは、うつ伏せに倒れたシリルの肩を素早く引っ掴んで立たせてパンチの連打を入れようとした。

 だがスタミナがシリルはまだ残っている様で、彼は両肩を素早く動かした。

「うっ!?」

 その動きだけで自分の肩を掴むニールの両手を弾き、自分が今しがた叩き付けられた岩壁の方に向かって両手で突き飛ばし、距離が開いた所で全力のミドルキック。

 そしてバスタードソードを突きつけて終わり……かと思いきや、突き飛ばされて蹴られたニールは背中に岩壁が当たる瞬間に手と足をその岩壁に踏ん張る形で反動をつけ、シリルの方に身体を跳ね返す。


「なっ……」

「らあっ!!」

 反動で一気に接近したニールにシリルが驚いた隙に、その狼の顔面に全力のストレートパンチ。

「ごあ!!」

 思いがけないカウンターアタックにシリルの身体がもう1度地面に倒れ、今度こそと思いニールはシリルを立たせてシリルの腹に5発ボディブロー。

 続けて右のストレートをもう1度シリルの顔面に入れ、最後に左のフックパンチでシリルの身体をぶっ飛ばす。

「ぐおっ!!」

 シリルはきりもみ回転しながら地面に叩き付けられ、起き上がろうとしたものの身体に力が入らず断念。

 ニールの勝ちだ。


「人間もなかなかやるもんだな。俺も何人もの人間とは遣り合って来たんだが、俺を負かした人間は両手で数えられる位しか居なかったぜ」

 エリアスとミネットに掛けて貰った回復魔術で回復し、朝食を摂りながらシリルは感心した様にニールにそう言う。

 しかし、ニールは別の部分で関心がある様だ。

「……そう言えば話は変わるんだが、獣人って言うのはその……人間と獣のクオーターって事で良いんだよな?」

「ああ、そうだ。あんたの世界に獣人は居ないのか?」

「全く聞いた事も見た事も無い。あるとすればそれこそフィクションの世界の中だけだ」

 事実、地球には獣人の存在なんて無いので素直に答えるニール。


 それを聞き、シリルは自分達獣人がどう言う存在なのかを説明する。

「まず、俺達獣人はあんた等人間と違って身体能力がアップしているんだ」

「具体的には?」

「そうだな、例えば目の見え方もかなり違うし、聴力だって人間の数倍はある奴ばっかりだ。でもやっぱり1番なのはその身体能力さ。瞬発力、反射神経、それから跳躍力。俺は狼だから走るスピードが速い種族なんだが、例えば鳥と人間のミックスの鳥人だったら翼を持っているから自由自在に空を飛べるし、逃げる時も何処かに潜入する時も人間や他の獣人とは比べ物にならない程に楽なんだ」

「ああ、それはイメージ出来るな」


 翼があれば、人間には不可能なアクロバティックな回避の仕方も出来るだろうし、空中から弓で攻撃出来るので大きなアドバンテージなのは間違い無い。

「あんたは足が速い以外に何かあるのか? 例えばこっちの世界だったら狼は夜でも獲物を捉えるのが簡単に出来る位の視力を持っているとか、嗅覚が異常に優れているってのは良く聞く話だが」

 地球の狼の特徴に当てはめて考えてみるニールに、シリルは納得した表情で頷く。

「あー、そっちの世界の狼も俺達と同じみたいだな。それで合ってるよ。俺は鼻も利くし目も良い。夜の視界が悪い場所だと俺が重宝される事も多いな」


 若干自慢げにそう言うシリルの話を終え、朝食も済ませてストレッチをするニール。

 だが、そんな彼の横からミネットが口を挟んで来た。

「ねえ、貴方はさっきの話聞いていて、何か思った事は無かったかしら?」

「お……思った事?」

 いきなりそう聞かれてもどう答えて良いのか分からないニールだが、とりあえず自分が思った事を素直に口に出す。

「思った事……俺の世界とは違って、獣人って言うのは俺達人間に無いものを持っているんだってのが良く分かったよ。そして人間には出来ない戦い方も出来るその能力が羨ましいって思った」


 しかし、ミネットの表情は腑に落ちない。

「惜しい……」

「惜しい?」

「ええ。シリルは最初「俺だって手加減はするさ」って言ったのよ。さっきの貴方との手合わせでは手加減していたのが良く分かったわ。だって、騎士団員と一緒に鍛錬していた経験もあるシリルのスピードはあんなものじゃないからね」

「は……? シリルが俺に負けたのがよっぽど悔しいのか?」

 キョトンとするニールだが、ミネットは残念そうに首を横に振る。

「そうじゃなくて……あれがもし実戦だったら、貴方はシリルのスピードについて行けないだろうって話よ。貴方は本気のシリルには勝てないわ」

(何だよそれ……)

「勝てない」とハッキリ言われて心にモヤモヤを残しながらも、ストレッチを終えたニールは他のメンバーと一緒に馬車に乗り込んだ。

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