53.獣人vsスーパーテクニック
「なら、飯の前に朝の運動をしないか?」
「ん?」
いきなり何を言い出すんだ、とニールは嫌な予感を覚える。
そんな彼に対し、提案をして来たシリルはもっともらしい理由をつけて運動の誘いを続ける。
「寝起きから時間も経っているから、もうそろそろ頭も冴えているだろうしな。それに考えてみればあんたの実力を俺はこの目で見た訳じゃ無い。あの洞窟の壁の向こうで一体何があったのか、それを俺に見せてくれないか」
「……それはつまり手合わせをしろと言う事なのか?」
嫌な予感をそのまま口に出すニールに、満足そうな表情でシリルは頷く。
「そうだ。俺だって傭兵の端くれだし、何時この先あんたと離れ離れになるか分からない。傭兵ってのはそう言う生き物だからな。それにあんたも薄々気が付いているんじゃないのか? 自分がこれから素手と身の回りにある物でしか戦わなきゃいけないって言うその不安に」
そのセリフにニールはドキッとする。
そう、確かにそうなのだ。自分がこの世界で生き抜いて行く為には、圧倒的に不利な条件を覆して行けるだけの実力が必要だ。
戦わないで済むのならニールだって勿論そうしたいが、この世界に来た当初から英雄様とやらに目をつけられてしまったのでそれも無理な話だろう。
一応他のパーティメンバーの方に視線を向けるニールだが、彼に対して真っ先に口を開いたのはユフリーだった。
「いや、私達を見られても困るわよ。決めるのは貴方自身でしょ?」
ニールの心の中を見透かしたセリフを口に出す彼女に、だったら仕方無いと彼は腹を括った。
「良いよ……やるよ」
「そう来なくちゃな……。まぁ、俺だって手加減はするさ」
朝食場所から距離を取ってそう言いながら、背中のバスタードソードに手を掛けるシリルに、ニールはいきなり前蹴りを入れてシリルを蹴り飛ばす。
「ぐほっ!?」
しかしシリルのガタイはニールよりも1.5倍程良いので余り吹っ飛ばない。ニールは割と細身の方なのだ。
「くっ……不意打ちとはやってくれるじゃねえか!!」
「はっ!!」
そのまま接近して右のパンチでバスタードソードを弾き飛ばし、更にシリルの顔目掛けて左からフックパンチ。
しかしさっきと同じくシリルは余り怯まず、逆にニールの顔面に飛び蹴り2発。
「うお、おっ!?」
ヨタヨタするニールにパンチを右、左、そして右の回し蹴りを繰り出すシリルだがそれを全てギリギリでニールは回避。
更に右のパンチをシリルが繰り出して来た所で、ニールはそれを回避しつつ懐に飛び込んで首からラリアットでシリルを倒す。
「ぐぁ!」
踏ん張るシリルは足を振り上げて来るので、ニールは少し後ろに下がって回避。
今度は左のパンチをシリルが繰り出すが、今度は拳の部分をキャッチして腕ごと捻り上げる。
そこから拳を右手で掴んだまま、ニールの左ストレートパンチが的確にシリルのみぞおちへと5発入る。
更にそのパンチに使った左手をそのまま使って、シリルの毛むくじゃらの首をキャッチして固定し全力の頭突きを4発。
「ぐ……っ」
頭突きでフラつくシリルの背後に回り、彼の背中目掛けてニールは前蹴りで蹴り倒す。
しかしそれが仇となった。
前に転がったシリルは、さっきニールが弾き飛ばしたバスタードソードを地面から上手く拾い上げる格好になって再びニールに向かって来る。
だったらこっちも攻めるしか無いとばかりに、まずはシリルの隙を突いて接近。
バスタードソードの攻撃をギリギリで回避し、一気に懐へと潜り込む。
「っ!!」
そのままシリルの右腕を素早く取ってカラリパヤットのアームロックで固め、一旦シリルの手からバスタードソードを落とす事に成功したニール。
……だったが、そのバスタードソードを落とした事による油断が生じて右腕のロックが緩んだ所で、一気にシリルは反撃に出る。
「ふっ!」
腕を振り払って素早くニールの懐へと飛び込むシリルは膝蹴りをかまして来るが、ニールはそれをしっかりブロックし、逆にシリルの膝を抱えてそのまま持ち上げて背中から地面へ叩き付ける。
そして押さえ込もうと思ったが、シリルは上手く転がって押さえ込みから逃れる。
しかしニールは立ち上がって来たシリルに対して上手く合わせてミドルキック。
その次にダッシュからのジャンピングニーを繰り出すものの、シリルの反射神経で回避される。
だがこれはニールも読んでいた事で、そのままの勢いでシリルの後ろにあった岩壁に向かってジャンプし、足で岩壁を蹴って逆方向に方向転換。
上に飛んで回るのでは無く、そのまま蹴って戻って来る三角飛びだ。
「ぐあ!」
ミドルキックをかわした直後のシリルは、ギリギリで避けられずに胸にキックがヒット。
ニールは怯んだシリルの首に右肘を入れ、頭を掴んで軸にしてから地面に捻り倒す。
……が、シリルは投げられてから上手く回転して立ち上がり、お返しとばかりにニールを首から投げる。
「うぐ!」
背中から叩きつけられたニールはシリルにヘッドロックをかまされるも、自由な両手でシリルの両足を両手で抱え上げて脳天から地面に叩き落とす。
「がっは!!」
頭から落ちたシリルは悶絶するもニールには関係無いので、シリルの背中の上に乗って脇腹の下から両方とも手を差し込み、そのまま背中を反らせてロックしようとした。




