52.回復不可!?
「あくまでもこれは俺の予想なんだが、えーとな……具体的に言えばその回復が出来ないって言うのは、この世界で言われている「魔術での回復が不可能」って話なんだ。例えば何か怪我をしたりすれば、回復魔術を使える人に傷に対してその魔術を掛けて貰ってすぐに傷口を塞いで治す事ができる。勿論個人の体質や怪我の程度とかで治り具合は違って来るんだけどな」
「そりゃあ凄いな。すぐに治るって言うんだったら俺達の世界では考えられないぞ」
尊敬の眼差しでエリアスを見るニールだが、それでも限度はあるらしい。
「まぁ、腕がぶっ飛んだり目が潰れたりするレベルってなるとまた話は大きく変わって来る。傷跡だって完全に消せるものとそうでないものがあるからな。俺も回復魔術は少し使えるけど、相手に掛けた時も自分が掛けられた時も身をもってそれを感じた事が何回もあった」
それでも、怪我をすぐに治す事が出来ると言うのは地球では考えられない話。
まさにファンタジー世界の特権とも言える魔術だが、そうそう万能なものでも無いと言うのがこの後エリアスから語られる。
後は病気になった時もまた話が別で、病気は病気で薬だとか手術をしなければ治らないものだってある。魔術の効果が無い病気も沢山あるからな」
「あー……病気はな……」
事実、自分も知り合いに病気の人間が居るだけあって遠い目をするニール。
効果的な治療法が見つかっていない病気は地球にもまだまだあるから、それと同じ様なものなのかな……とふと思ってしまう。
「で、その回復魔術で怪我を治すって言うのがこの世界じゃ一般的で、あとは包帯や傷薬で治すって言う方法もある。けど……その2人に回復魔術を使うと怪我が治るどころか、逆に苦しんでいたらしい」
「へっ?」
回復魔術を使った筈なのに、逆に苦しんでいた?
何でそんな意味不明な事が起こるんだよ、とニールは訝しげな視線をエリアスに向けるものの、エリアスは苦笑いをしてその理由を説明する。
「魔力を持たないって言うその体質が原因だよ。この世界のセオリーがその2人には通用しないって事だったみたいでな。魔術学者の話だと「その2人の体内に魔力が元々無いって事は、回復魔術を掛けると言う事が2人にとって異物を流し込むのと同じ事」らしいんだ。だから回復魔術を掛けて魔力を流し込んだら、身体が拒否反応を起こして苦しんでいたらしい」
「そうか……そう言う見方も出来るか」
「そうだな。で、ここからあんたにも関係のある話なんだ」
やけに詳しい事情まで知っているんだな……とエリアスの説明の多さに疑問を覚えるニールだが、それに関連するのが自分が武器も防具も装備出来ないと言う事らしい。
「あんたはさっき、防具を身に着けようとして謎の現象が起きた。それから前に武器を手に取った時も同じ事が起こったって聞いたし、それと……魔道具ってのは聞いた事があるか?」
「魔道具……は確か、この世界の魔力を持っている人物が身に着けるアクセサリーで、身体に装着する事で自分の本来持っている以上のパフォーマンスを引き出せるって物だったか?」
ニールの回答に満足そうに頷くエリアス。
「そうだ。実際に俺が何時も着けている魔道具があるから、これで試してみてくれないか」
「え……」
エリアスはそう言いながら自分のはめている茶色の手袋を一旦外して、その手首から黒光りするバングルも同じく外してニールに差し出す。
こうやって前置きをされた上で「試してみろ」と言われると流石に身体が躊躇してしまうが、エリアス以外のメンバーも「やれ」と視線だけでニールに指示を出しているので、これはもうどうやら逃げられない様だ。
それを恐る恐る受け取ってみる……が、どうやら触れるのは問題が無いらしい。
(ファーストステップはクリアか……)
触るのが大丈夫ならまずは一安心のニールだが、問題はそれを身に着けられるかどうかだ。
バチィィィッ!!
「ぐっふぉ!?」
実際に自分の手首にはめてみようとした途端、あの現象がニールとエリアスの間に起こる。
それはその2人だけでは無く、ギャラリーとなっていた他のメンバーにも視覚と聴覚と精神的な意味でショックを与えた。
「うぐっ……や、やっぱりダメか……」
「これもどうやら同じみたいだな」
妙に冷静に反応するニール。
こうも何回も同じ事が起こると流石に慣れて来ている自分が怖いのだが、エリアス曰くこれもまた回復魔術と同じ話らしい。
「この世界の武器とか防具、それから魔道具は生成する過程で魔力を注入するんだ。そして武器を手に取った時にその魔力を体内に流し込む。防具や魔道具の時は身に着けた時に体内に流し込んで、あんたがさっき言っていた「自分の持っている以上のパフォーマンスを引き出す」と言う事が出来るんだ」
「でも、それは回復魔術と同じで俺の身体には拒否反応が出る原因になる……だから身に着けられないのか。魔力を注入していない武器や防具なら使えても……」
ようやく判明した謎の現象の理由。
しかし、それが分かった所で自分はこの先どうすれば良いのだろうか。
そんな途方に暮れる表情のニールに、パーティメンバーの1人がこんな提案をし始めた。




