50.新事実発覚
馬車の中で眠ってしまったニールが目を覚ましてみると、既に日は高く昇っており馬車の中には誰も居ない状態だった。
(あ……寝過ぎた……)
自分はよっぽど疲れていたんだろうかと思いつつも慌てて起き上がり、馬車の外に出てみたその瞬間ニールの鼻を香ばしい匂いがくすぐった。
「あら、ようやく起きたのね」
「そろそろ朝飯だぞ」
外ではニール以外のメンバーで焚き火を使って朝食の準備が進められており、丁度良い時間に起きたらしい。
「ああ……そうか、なら俺も頂こうかな」
今の所はあのギルドの追っ手の姿も見えないし、さっさと朝食を済ませてその遺跡近くの町まで行ってしまうプランを立てている一行だが、その中にニールは見慣れぬ顔がある事に気が付いた。
「あれ、その人は……?」
「ああ、この馬車を手配してくれた俺の知り合いだ」
「エリアスだ。よろしく」
エリアスと名乗った男はプラチナブロンドの髪をウェーブ状にしており、黄緑色のコートを着込んで背中には弓を背負っている。
その恰好を見て、一瞬ニールの表情が曇った。
(何か……あの英雄とやらと同じ様な色合いの服装だな……)
エリアスと名乗ったこの男と、あの英雄とは違う事は勿論ニールも分かっている。
しかし、黄緑色の服装はなかなか見かけそうで見かけない色合いなのでニールの記憶に強く残っているからこそ、ニールにとっては一種のトラウマでもあるのだ。
「……どうした?」
「ああ、いや……別に何も。俺はニールだ。よろしく」
ニールは気を取り直して、茶色い手袋をはめているエリアスと握手を交わす。
「この男は俺の知り合いの知り合いなんだ。弓と短剣の扱いについては腕は確かだし、馬もそうだがワイバーンにも乗れるから色々と活躍してくれると思うぞ」
「ワイバーンか……」
ワイバーンと言えば、地球ではやっぱり空想上の生き物として知られている。
時代を白亜紀まで遡れば、プテラノドンがそれに値するんじゃないのかなーと考えているニールの目の前で、この先の進軍予定を話し合う他のメンバー。
馬車が停まっていた場所は平原の隅で、ここを超えてしまえばその目的の町が徐々に見えて来ると言うのがシリルの話だった。
「その町に着いたら遺跡に向かうけど、噂が噂だけに準備はしっかりしておかないとな。あんたの防具も決めないといけないし、食料も買い込んでおかないと」
シリルがこのパーティのリーダーとなって計画を立てる横で、エリアスがニールの方を向いて疑問に思った事を口に出す。
「ああ、そう言えばあんたの身体からは魔力が感じられないもんな。それだと武器も防具も無理なんじゃないのか?」
「はい?」
エリアス以外のメンバーはその彼の言葉に目を丸くする。
「変な現象のせいで武器が使えない、と言うのは話したのか?」
「ええ、それは魔力が無い事と貴方が別の世界から来た人間だって言うのを話した時に、ついでにもう話してあるわよ」
そう言うユフリーのセリフだが、だからと言って「防具まで使えない」と言うのを何故このエリアスが言い出しているのかニールにはまるで分からない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。だったら何で俺が防具もダメって言う話が出て来るんだ? 俺は防具を着けられるかどうかはまだ試していないんだぞ?」
その疑問にはエリアス本人から答えが返って来る。
「ああ、その話なんだが俺はこんな噂を聞いた事があってな。もう滅んだ王国なんだが、3年前まで南にシルヴェン王国と言う国があって、そこに不思議な人物が現れたって言う話さ」
「不思議な人物……って、まさか!?」
ピンと来た表情のニールを見て、エリアスは頷いて話を続ける。
「そう、あんたと同じく魔力を持っていない人間の話だ。魔力を持っていないその人間は1人だけじゃなく、2人居たんだ。その内の1人は武芸に長けていて、1人は手先が器用だったらしい。男女2人だったから恋人同士って言う説もあるけど真相は定かじゃない。その男女は自分達に降り掛かる様々な災難を幾度と無く乗り越え、ついにはその王国に対してクーデターを企んでいた騎士団長を倒したんだ」
ちょっと興奮気味に話すエリアスだが、ニールの感情は何処か冷めている。
「まるでおとぎ話だな。で、その魔力を持っていない人間達って言うのは今は何処に居るんだ?」
「それが分からないんだ……騎士団長を倒した後にその2人は忽然と姿を消したって話でな。まだその2人が姿を消してからそんなに時間が経っていないからこの世界に居るのかも知れないが、もしかしたらあんたと同じく別の世界から来た人間なのかも知れない」
どうやら、その2人の行方についての真相は闇の中らしい。
「そうか……もしその2人がこの世界に居るんだったら俺も会って話を聞いてみたいもんだな」
「俺達も同じ事を考えていたさ。けど、所在が掴めないんじゃどうしようも無い。この先の事は俺達だけでどうにかするしか無いし、あんたも僅かな可能性を信じてこうして旅をしているんだろうからな」




