49.命喰いの遺跡ドベリンコ
再び帝都の地下水路に入った4人は、運河を流れに逆らって上る。
そのルートで帝都ランダリルの外まで出て、出入り口の検問所から少し離れた場所に待たせておいた馬車に乗り込む4人。
だが、ここでニールがある事を思い出した。
「あれ……そう言えば鉱山の町で最初にあんた等と会った時、他にも傭兵の仲間が居た気がしたんだが?」
シリルやミネットはもっと大人数で行動していた記憶があるニールだが、当の2人は気にしなくて良いと告げる。
「ああ、あのメンバーは俺達と同じ依頼を受けただけの一時的なパーティの人達だ。俺はこのミネットと一緒に普段は行動しているんだ」
「そうなのか」
じゃあ元々のメンバーはこの2人だけだ、と言う事で納得するニールの横で今度はユフリーが口を開いた。
「ねえ、話は色々聞いたんだけど遺跡をこれから各地で回るんでしょ? それで……その最初に向かう遺跡って言うのは西の方にあるドベリンコ遺跡で合ってるかしら?」
「ええ、そうだけど……遺跡の名前までは話していない筈だけど何処で聞いたのかしら?」
遺跡を巡るとは言ったが、その行き先まではユフリーに詳しく話していない筈なのに何故彼女は行き先を知っているのだろう、と疑問に思うミネット。
それに対して、彼女は仕事の都合で彼女なりの情報網を持っているのだと答える。
「私は国中から……と言うよりも世界中から冒険者が集まる酒場のチェーン店を転々としているからね。色々な店舗を回って日々冒険者達の会話に耳を傾けていればそれなりの情報は入って来るのよ。で、ここから西に向かうとすれば、その向かう遺跡で最も可能性が高いのがドベリンコ遺跡しか無いからね」
彼女の言い分に他の3人も納得する。
確かに酒場は冒険者達の憩いの場であり情報交換の場所でもあるからこそ、そう言った場所で働いていれば自然と外の情報が耳に飛び込んで来ても不思議では無い。
だったら話は早いので、シリルとミネットはその遺跡について今まで手に入れている情報を元に話し始めた。
「ええと……ドベリンコ遺跡はそんなに広い遺跡じゃ無い。ただし聞いた話によれば、そこは「命喰いの遺跡」として厄介なトラップがあるそうだ」
「何だその大層な名前は……」
誰が何を思ってそんな別称を遺跡につけたのだろうかと思ってしまうニールだが、話の続きを聞いてみるとそれはあながち間違いでも無いらしい。
「それがだな、その遺跡は元々大きな湖の中に沈んでいた遺跡で数十年前に突然出現したらしい。だがその遺跡に踏み込んだが最後、生きて戻って来た人間や獣人は今までで100人にも満たないらしい」
今までその遺跡に踏み込んだ総員数によっては結構戻って来ている様な気もするが、その踏み込んだ調査員や冒険者達によれば異口同音でこんな話がもたらされている。
「そこに踏み込んだら、時間が経つと共に足元からじわじわと水が上がって来るらしい。気づいた時に引き返した奴等だけは生き残っているんだが、その水が上がって来るのを気にしないで踏み込み続けたら、最後には全員が溺死してしまったらしいんだ」
「何で溺死したって分かったんだ?」
「戻って来なかったからさ。何日経っても何か月経っても何年経っても。一説によれば湖の底に魔物が潜んでいてその魔物が自分の栄養分として踏み込んで来る者達をエサにする為に水を使って引きずり込んでいるって説もあるらしいんだが、湖の底を調べても何も出なかったそうだ」
シリルとニールの会話をそばで聞いているユフリーとミネットも身震いする。
「湖の底にも何も居ないってなると、その遺跡そのものが意思を持っているって事?」
「だとしたら怖いわね……でも、その遺跡を隅々まで調べられた者が居ないって話なら挑戦し続ける人が居るのも分かる気がするわ」
命喰いのドベリンコ遺跡は、帝都ランダリルから西に向かって進み続けておよそ2日。
その遺跡の近くに小さな町があるのでそこで体力を回復したり、遺跡調査への準備を整えたりする冒険者が非常に多いので、自分達もそれに倣おうと言うのがシリルの提案だった。
「じゃあ、その町なら俺の着替えも手に入るか?」
「ああ、あんたの着替えもそう言えば手に入れなきゃな」
だが、ニールからは着替えのみならずまだ欲しい物がある。
「それと防具も調達したい。その遺跡には魔物が居るかも知れないからな」
「防具だな、分かった」
あの鉱山の町と現時点での人数差の話をする前に、自分が謎の現象によって武器を使えないと言うのはシリルにもミネットにもニールは話してある。
武器が使えないのであればそれは諦めるしか無いが、自分の身を守る事が出来る様に防具だけでもしっかりと準備して行きたいのが本音だった。
(何だかバタバタし過ぎてるし、俺は本当に元の世界に帰れるのかも分からないしかなり疲れた……)
帝都で宿屋の部屋を取ったのは良かったが、考えてみればその部屋で1泊もしていない事を思い出したニールは強い睡魔に襲われ、馬車の壁に寄り掛かる形で意識が闇に沈んで行った。




