4.とばっちり
「何だ、こりゃあ……」
いまだ呆然としているニールの前に現れたのは、面長でやや細い目をしている銀髪の美青年だった。
年齢は見た感じ自分より若い事は確かではあるが、10代には見えない。見た感じでは大体20代半ばと言った所だろうか? とニールは推測する。
「お、おいあんた……」
「これ、あんたがやったのか?」
ニールが質問をしようとしたのだが、その前に男から質問が飛んで来た。
ここで嘘をついたってどうしようも無いので、ニールは素直にそうだと答える。
だが、次の瞬間男の顔つきが一気に野獣の様な物に変わった。
「なっ、んだとぉ!?」
「はっ?」
「ギルドから依頼を受けたのはこの俺だ。一旦依頼を受けた以上、俺は絶対に任務を遂行する。それが何故先に手を出したんだ!?」
「え、いや……俺は追いはぎに遭いそうになってさ……だから撃退した。それだけだ。別に誰が倒そうが良いんじゃないのか? こんな奴等」
しかし、男の怒りは収まってくれそうに無かった。
「冗談じゃねぇ!! 俺はこの依頼を達成する事が出来れば晴れて帝国騎士団から特別に報酬を貰える約束だったんだよ。もうすぐここに付き添いで来た帝国騎士団員が、きちんと俺がこいつ等を倒したかどうかの確認までしに来るんだ。せっかくのチャンスだったのに、一体どうしてくれるんだ!?」
(滅茶苦茶な事言い出すなぁ、こいつ……)
何だかこの不毛過ぎるやり取りにうんざりして来たニールは、男に対してぶっきらぼうに吐き捨てる。
「別に言わなきゃ良いんじゃないのか? 俺はここに居なかった。それで良いだろ?」
ごもっともな正論を言うニールだったが、男の方はどうやらそうも行かなくなってしまった様だ。
「エジット・テオ・ピエルネ。……失格だ」
「なっ!?」
エジットと呼ばれた男の後ろから足音が複数聞こえて来た。
その足音の主は完全武装したいかにも騎士団員、と言う人間2人だった。
「御前の依頼は不本意とは言え、先に攻撃目標を殲滅されてしまっていた。また団長から依頼を受けるんだな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! セレイザ団長がこれを知ったらどうなるんだよ!?」
慌てふためくエジットに騎士団の1人が冷酷に告げる。
「今回の話は見送りだ。御前の特別報酬と名誉の話は、また後日だ」
「そ、そんな、待ってくれよぉ!! 俺はここで立ち止まる訳には行かないんだ!!」
「だったらもっと依頼をこなせ。残念だが、今回は失格とする。以上だ」
そう言って去って行く騎士団員達の後ろ姿を見て、エジットはガクリと膝をつく。
「な、んでだよ……」
そんなエジットの目に、暗い光が宿った事等その顔が見えないニールには勿論知る由も無い。
「……こうなったら、御前を倒すしか無さそうだな。責任はきちんと取って貰わなきゃなぁ……?」
ゆらりと大斧を構えたエジットはニールに向き直るが、向き直られたニールはブフッと思わず吹き出してしまった。
「何がおかしいんだ?」
「だって……言ってる事が支離滅裂すぎて、俺は完全にとばっちりだろう? あんたが何処の誰であろうが、今の俺には関係無いし自分に振りかかって来た火の粉を振り払っただけだ。……逆に聞くけど、ここは一体何処なんだ?」
そんなニールの質問に、エジットは訝しげな目をしながらも答える。
「ここはソルイール帝国のレラルツール山脈に決まってるだろ。そうか、俺の依頼を奪って滅茶苦茶にするだけでは飽き足らず、俺をそこまでコケにしやがって……ぜってー許さねぇぞ!!」